第25話 甘い戦利品

 ポイズンビーとの戦いは終わった。

 ユニスが振り向くと、ミツキとプリシラが駆け寄ってきた。


「「ユニス!!」」


 2人の顔に疲れは見えるが、勝利の高揚感がそれを上回っているのがわかる。大きなけがもしていないようで、ユニスはホッと息をついた。


「2人とも、よくやってくれた。おかげで無事討伐できたぜ。」

「一番頑張ったのはユニスですよ。疲れてませんか。」

「そうだぜ。毒が効かないとはいえ、あれだけの敵を短時間で倒すのはすげえよな。」

「いや、俺1人じゃ何もできない。3人いてこその勝利だ。ありがとう。」


 1人では何もできない、というのはユニスの本心だった。

 演劇でも主役がいるだけでは話が進まない。それぞれが出来る役割を果たすことで物語が進むのだ。プリシラはヒールによる回復、ミツキは遊撃、攪乱、護衛などの多彩な役をこなしていた。もし1人でも欠ければ討伐の難易度は数倍にもなっただろう。

 長いLv1時代を過ごしたユニスはそれが身に染みてわかっており、2人への言葉には心からの感謝とねぎらいがこもっていた。




「さて、戦利品だが・・・。」


 ユニス達が周囲を見回すと、数多くの魔石とともに、女王蜂の居たあたりにひときわ大きな魔石と、そして弓が落ちていた。


「「「ドロップ品だ!」」」


 ボス系の魔物はドロップ率が通常の魔物より高く、また低確率ではあるが高品位の物を落とすことがある。

 弓は女王蜂からのドロップ品で、長さ50cmほどと小さいながらも握以外の部分にはふんだんに意匠が彫られており、また上端の弭には小さな王冠の意匠があり、小さな宝石が埋め込まれている。

 さっそくユニスは弓を箱に収納してみる。箱には鑑定の能力もあり、ドロップ品を収納すればそれがどんなものかがわかるのだ。


登録  1 経験値(4,851)

    2 お金(2,190,115)

    3 体力:69/180

    4 魔力:30/30

    5 蜂の毒針(52)

・・・

・・・

    23 女王蜂の小弓


「女王蜂の小弓!名前付きだ。これはいい物が出たな。」


 ユニスはさっそく『女王の小弓』の表示をタップした。


『女王の小弓:小型の弓。飛行系の高位魔物からまれにドロップする。命中精度向上(中)。確率で毒付与。』


「2つも追加能力があるぞ。」


 ジャイアントキラーもそうだったが、2つも追加能力があるものはかなりレアだ。さすがに中ボスともいわれるポイズンビーの女王蜂のドロップ品だ。

 命中精度はもちろんだが、毒付与はかなり使えそうだ。確率とはいえ毒を付与できればボス戦などの長期戦闘には高い効果が見込める。


「これはミツキが使うのがいいだろうな。」


 ユニスは鑑定した弓を取り出すと、ミツキに差し出した。


「お、俺!?そんな、いいのか?売ってお金にするっていうこともできるだろ。」


 ミツキは慌ててユニスとプリシラを交互に見る。ユニスは笑いながら言った。


「せっかくドロップした武器だ。メンバーが使えるなら売るなんてもったい無いぜ。」


 プリシラも頷きながら同意する。


「私もユニスも弓の資質がないですし、私もミツキに使ってもらうのが一番いいと思います。それにこれなら小さいですし斥候にも邪魔にはならないでしょう。」

「そ、そうか・・・。ありがたく使わせてもらう。」


 ミツキは遠慮しながらも嬉しそうにドロップ品の弓を受け取った。これまで遠距離攻撃能力の不足という状態だったが、ある程度カバーできるだろう。


「さて、あとはこれだな。」


 ユニスは振り返ってやや上方を仰ぎ見た。視線の先にあるのは、ポイズンビーの巣である。

 この巣にも実はかなり価値がある。巣を形作る六角形の壁は近年様々な薬効効果が見つかり、価格が高騰している。そしてそれよりも需要が高いものが巣には内包されているのだ。それは・・・


「こんなにデカけりゃ、採れるハチミツも大量だろうな。」

「ポイズンビーのハチミツ、とっても楽しみです!」


 ミツキとプリシラが目を輝かせている。

 そう、ポイズンビーの討伐の戦利品で最も人気が高い物、それはハチミツなのだ。

 この世界では甘味はまだ高価で流通量も限られる。ハチミツもそうであり、庶民にはなかなか手が出ないのだ。

 このポイズンビーもハチミツを集めており、討伐されるとその時期だけ市場に流通するため、主に女性から討伐が待たれる理由にもなっている。

 またポイズンビーのハチミツは品質が高いことも当然だが独特の風味がありそのため人気も高く、ギルドでは『是非とも採取すべき戦利品』と目されているのだ。


「で、これどうやって持って帰るつもりだ?」


 そういえば討伐準備に巣用の革袋やらビンやらは用意していないことに気づいて、ミツキが聞いてきた。

 その質問にユニスはいかにも簡単そうに答えた。


「そりゃ決まってんだろ。『箱』に入れるんだよ。」

「箱に!?こんなでかいのも入るのか?」

「入るんじゃねえか?前試した時は家一軒くらいのサイズのものも入ったし。」

「家!?」


 ミツキもまだユニスの箱のことは聞いたばかりで全部説明はされていない。どれくらい入るかは今回の戦いでは不要だったから省いていたのだ。

 家サイズまで入ると聞かされてあきれるミツキを横目に、ユニスは巣に近づき、手を触れると、


「登録、蜂の巣。収納。」


と口に出して言った。

 すると目の前にあったは巨大な蜂の巣は一瞬で消えた。ユニスの言葉通り、見事に箱に収納されたのだ。


「・・・もう何も言わねえよ。」


 ミツキが首を振りながらため息をついた。そして気づいたように付け加えた。


「なあ、できればパーティ分としてハチミツをいくらか取っておいてもらいてえんだが。」

「ん?・・・そうだな。お金が必要なわけじゃないし、問題ないな。プリシラはどうだ?」


 ユニスがプリシラに振り向くと、プリシラは当然とでもいうかの如く、身を乗り出して言った。


「もちろん!絶対に確保しておきましょう。」

「お、おう、わかった。」

「・・・ハチミツ、ああ、素敵ですね・・・。噂のポイズンビーのハチミツ、いったいどんな味なんでしょう。フフフ、楽しみです。」


 うっとりと眼を輝かせて蜂の巣を見つめるプリシラ。どうやらプリシラは女の子らしく甘味に目がないようだ。

 いつもと違うプリシラの異常なテンションに、ユニスは驚いたまま固まってしまい、ミツキは苦笑いをするのだった。

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