第26話 ポイズンビーの経験値

『ポイズンビーが討伐された』


 その情報は冒険者ギルドを瞬く間に駆け巡った。通例よりはるかに早い討伐に、ある者は中級ダンジョンの渋滞が解消されると喜び、ある者はデマではないかと訝しみ、そして大多数の冒険者達は誰が討伐したのかを知りたがった。

 ほどなくギルドから正式にポイズンビー討伐が周知され、同時に討伐者であるユニス、プリシラ、ミツキの名前が公表されると、その驚きはさらに大きくなった。


「たった3人でだと!?信じられん。」

「ユニスって、ついこの間までLV1から上がらずに初級をうろうろしていたヤツだろう。あいつが!?」

「この前のサイクロプスの討伐も驚きだが、半年たたずに今度はポイズンビーか。なんて奴らだ。」

「ポイズンビー用のポーションもまだ量が足らないって言ってたんだが、どんな技を使ったんだ?」


 などと様々なうわさや会話が飛び交ったが、しばらくするとこれまで足止めされていた分を取り返そうとするためだろうか、半数以上の冒険者は急ぎ中級ダンジョンに向かって行った。


◇◇


 そのころユニス達はすでにギルドを後にして帰路についていた。

 前回のサイクロプスでは徹夜のまま宴会に突入したのだったが、今回は宴会は避けたい。ポイズンビー戦で疲れた体を休めたいということにして、手続きを済ませたあとは疾く退散したのだ。


「いいのか?冒険者連中に顔を見せなくて。」


 ミツキがユニスに尋ねる。ポイズンビーに限らず、強敵の討伐者は自慢のためか冒険者たちの前に顔を出すのが普通だ。


「騒がしいのはあまり好きじゃねえな。」


 ユニスはミツキにそっけなく返す。それにはプリシラも同意見のため頷いている。


「へー、大概の奴は目立ちたい、すげえって言われたいって考えてるもんだがな。」


 そういうミツキだが別に無理強いするつもりは無いようで、だた面白そうにユニスを見つめてた。


「人は人、俺は俺だ。」

「そっか。ま、俺もあまり人前に出て注目されたくねえしな。」

「それならやっぱりポイズンビーの巣をギルドの解体所で出したのは正解でしたね。」

「ありえねえ。あんなバカでかいの、カウンターで出せるわけねえって。」

「カウンターで出したら箱の収納がばれる。で」きるだけ隠したいからな。」


 ユニス達は討伐後にギルドに帰還してすぐ、受付のミネベアに話して解体所に直行していた。そしてそこでポイズンビーの巣を丸々ドカンと取り出したのだ。それを見た解体所にいた職員たちは、大口をあんぐりと開けたまましばし呆然としてた。ミネベアすらも目を見張ったまま動けなかった。

 それもそのはず。ポイズンビーの巣やハチミツなどは小分けにして持ってくるのが普通だったからだ。ここでもユニスの箱の規格外の性能が改めて示されることになったわけだ。

 そこから解体所はてんやわんやの大騒ぎになったのだが、それを尻目にユニス達は涼しい顔で魔石などの清算を済ませてギルドを後にしたのだった。


 歩きながら振り返ってユニスが2人に声をかける。


「今日はまだ日は落ちてない。疲れてるところ悪いが今日中に収入の分配や経験値の確認をしたい。いいか?」

「私は大丈夫です。」

「俺もこのくらい平気だぜ。」


 ユニスの言葉に2人は同意して、3人はユニスの部屋へと向かった。


◇◇


「またレベルが上がりました!」


 プリシラの嬉しそうな声が響く。


「・・・驚いたな。また上がったのか。」


 今彼らはポイズンビーの討伐収入の分配を終え、経験値の確認を行っている。

 箱に経験値が入る話は当然ミツキにも話している。その話を聞いてミツキは、自分もプリシラに経験値を渡すことを提案してきた。


「パーティのレベルの差はなるべく小せえほうがいいんだ。その方が戦闘の負担が少ねえからな。俺に経験値は入らねえがLv10までならそこまで大した数字じゃねえだろ。むしろプリシラが早くLv10になってくれた方が俺も助かるぜ。」


 プリシラは最初はそこまでしてもらう理由はないと断ったのだが、パーティ全体のためということで最後は了解したのだった。


 そして改めて調べてみると、ポイズンビーの1戦だけで手に入れた経験値はなんと合計12,000あまりにもなっていた。


「はー、ポイズンビーは戦利品だけじゃなく経験値もすげえんだな。」


 ミツキが半ば呆れたように感心している。もちろんユニスもプリシラもこの数字は予想外だ。

 これまでの戦闘で兵隊蜂1体あたり30の経験値を得られることが分かっていた。だが今回得た経験値はあまりに膨大だ。さすがに兵隊蜂+女王蜂ではそれだけの数字にはならないはず。そこで考えた末の結論は、『巣の中にいた幼虫と卵の経験値が加算されている』ということになった。卵も幼虫も女王蜂が倒されたときに同時に消えてしまっていて、これも討伐されたものとして経験値が入っているのだと考えるほかない。

 幼虫と卵の数がいくつだったか、それぞれの経験値はいくらか、などは今となっては判らない。1つの資料に『巣の中には数百の卵があった』という記録はあったが、それすら正確な数字ではない。

 とにかく、女王蜂+兵隊蜂(巡回中含む)+卵、幼虫でおよそ12,000の経験値が手に入ったのは事実である。


 この大量の経験値をプリシラが自身に取り入れていった結果、プリシラのレベルは5から7に2段階アップになったのだ。

 

「これでLv6に上がるのには6,100、Lv7に上がるのには91,00の経験値が必要だってことがわかりました。」


 プリシラはそう言って、いそいそと書き記していく。

 Lv5になってから倒した魔物の経験値と今回のポイズンビー分を累計して2段階アップとなり、同時にそのレベルへの必要経験値がわかったというわけだ。


「プリシラは細けえことが好きなんだな。」


 ミツキは感心にながらプリシラを眺める。そしてふと気づいたようにユニスに顔を向けた。


「そうだ。ハチミツは明日朝受け取れるんだよな。」

「ああ、そういう約束だ。」


 ユニス達は得られたハチミツの1割をもらい、残りを売ることでギルドに了解を得ている。


「それと、明日は休みにする話だが、2人は用事とかあるのか?」


 このところ連日ダンジョンに入っていたので休みが必要と考え、ユニスたちは明日を休日にしていたのだ。


「?俺は何もない。寝てるか訓練してるかだ。」

「私も今買うものは無いし大丈夫ですけど、・・・なにかあるんですか?」


 2人とも明日の休日にすべきことはない特にないと言った。それを聞いてミツキは少しうれしそうにこう提案した。


「せっかくハチミツが手に入るんだ。ユニスとプリシラを家に招待してティーパーティをしようと思うが、どうだ?」


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お読みいただきありがとうございます。

第2章は次でラストです。

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