第11話 特殊能力

「特殊能力って何だ?」


 ユニスは自分のギルドカードを見た。カードの下の方、「能力」欄のさらに下に、確かに「特殊能力」の欄があった。そしてそこには


特殊能力:箱(LV1) 


と表示されていた。


「ほんとだ、特殊能力がある。」

「私にはないわ。ひょっとして特別なもの?」


 マルクとエリザがユニスのカードをのぞき込んで歓声を上げた。セイアは3人に落ち着くように言ってから説明を始めた。


「特殊能力というのは、皆が持っている「能力」とは異なる「特別な能力」です。これを持っている人は30人に1人の割合でしかない、珍しい能力です。」

「30人に1人!それってすごいのか?」

「もちろんですよ。この国の冒険者の上位の人はほとんどが特殊能力を持っています。ユニスさんも頑張れば高ランクの冒険者になれる可能性を秘めてます。」


 そう聞いて3人は色めき立った。上位冒険者のほとんどが特殊能力を所持しているらしい。ならユニスの能力は今後の冒険者活動で大いに役立つ能力のはずだ。


「でも、特殊能力って何が出来るんだ?この『箱』って能力はどんな能力なんだ?」


 ユニスの疑問は当然だ。特殊能力と言っても彼らには全く理解できていない。セイアはその疑問に答えるため、資料を取り出した。


「特殊能力にはそれぞれ固有の力があります。通常の人が出来ないような特殊な能力です。そして、ユニスさんの『箱』の能力ですが、」


 セイアは手に持っていた資料をぱらぱらとめくり、ある所で止めた。


「これまで確認されている『箱』の発現者は4名。なかなか発現者が少ない能力です。そしてわかっている効果は、」


 3人はセイアの言葉を息をのんで聞いた。ユニスの特殊能力『箱』の力とは・・・


「『箱』はお金を貯めることが出来ます。」


 それを聞いた3人が理解するのに、少し間があった。


「・・・え!?お金?」

「そうです。お金です。」


 セイアは手に持つ資料をめくって話し始めた。。


「お金を貯めるだけですか?」

「いえ、この『箱』の能力はお金を貯めるだけではなく、中にお金を入れておくと一定期間で少しずつ増えていく、とあります。」

「お金が増えていくの!?」


 突然叫んだのは能力を持つユニスではなくエリザだった。目をらんらんと輝かせていて、目の中に『木の枝に横線2本を引っ張ったような図柄(¥)』が見える。その姿にユニスとマルクは明らかにドン引きしていた。

 そういえばエリザはお金が大好きだったな、とユニスは今さらのように思い出した。


「どのくらい増えるの?いつ増えるの?」


 エリザは自分の能力でもないのに、食い気味に質問する。


「・・・中に入っている金額に比例して少しずつ増える、と書かれていますが詳細は不明です。どうやら正確な情報をこの特殊能力者から聞けなかったみたいです。」


 冒険者の能力の開示は本人の意思に任されており、ギルドでも詳細を確認できないことが多いそうだ。情報は冒険者の生死にかかわることから、特殊能力の秘匿が認められているのだ。


「『箱』の能力者は4人居たって言ってたけど、全員お金持ちになったのか?」

「いえ、そうじゃありません。」


 セイアは再度資料に目を通した後、声を落として言った。


「『箱』を得た職業の人は、商人が2人、剣士が1人、魔法使いが1人です。最初に『箱』が出現したのは商人だった人で、彼は箱にお金を貯めることで大金持ちになり、のちに彼の店は発展して大きな商会となったようです。」

「大商人になったのね!」


 エリザはまだ目を輝かせている。


「次に『箱』が出現したのも商人です。『箱』の能力についてはこの方から聞いた話のようです。最初の人は情報を秘匿していましたので。」

「その人も大商人になったの?」

「いえ、その人はどうやら同業者に恨まれたみたいで、数年後に殺されたそうです。」

「・・・」


 お金が増えていく『箱』を持っているのを自慢して言いふらしたために妬まれてしまったということなのか、すでに亡くなっていた。そう考えると、最初に大商人になった人が能力を秘匿したのは賢明だったのだろう。


「他の人は?」

「剣士の人は、ギルド登録後わずか1週間で魔物に襲われて命を落としています。魔法使いの人は、その能力を生かそうと冒険者をやめて商売を始めたようですが、商才が無かったのかすぐに廃業に追い込まれて無一文になってしまい、今は行方不明です。」

「・・・」


 なんだか1人を除いて他の3人はろくな結果を迎えていない。この能力は本当に大丈夫なのか、とユニスはすこし不安になった。

 その雰囲気を察してセイアは明るく言った。


「要は使い方です。使い方さえ間違わなければ特殊能力は本人にとって大変メリットがあるものです。『箱』でお金が増えるというのも素晴らしい能力じゃないでしょうか。」

「そうよ、お金が増えれば何でも買えるわ。すごい能力に間違いはないわ。」


 セイアとエリザの言葉を聞いて、確かにそうだとユニスは思った。お金が増えるのは間違いなくメリットだ。お金があれば装備やアイテムのいいものが買えるし、そうなるとLVのあがりも早くなり、強くなっていくだろう。同世代の冒険者に対して有利なのは間違いない。


「そうだな。無いよりあった方がいいに決まってる。これを使って冒険者としてのし上がっていこう。」

「そうだな、ユニスと一緒に進もうぜ。」

「わかったわ」


 ユニスの特殊能力により、3人の意気込みはさらに高まったのだった。


「ではギフトカードに関して説明は以上です。最後に、冒険者としての心得や注意事項、守るべきことなどを説明します。まず・・・」


 セイアは残りの諸事項を説明していく。

 こうして、ユニス達3人のギルド登録は完了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る