第12話 ユニスの失敗

「とりあえず、3人が冒険者ギルドに無事登録完了だ!」


 3人はギルドの片隅にあるテーブルに座っていた。3人とも無事登録が出来て笑顔だった。


「それにしてもユニスはすげえな。最初っから能力値が高くって、職業はレア職で、それにさらにプラスがある。ユニスなら何でもできそうな気がするぜ。」

「私、ユニスにずーっと付いていくわ。」


 マルクがユニスを誉め、エリザがユニスにアプローチをかけてくる。ユニスはまんざらでもない顔で答えた。


「ああ、俺だけじゃなく、マルクは騎士でエリザは魔法使いだろ。バランスもよさそうだし、3人一緒ならきっと高ランクになることが出来るぜ。」


 ユニスは2人を見てそう言った。その言葉には自信に満ちていた。いくつものメリットを持つ自分がいれば間違いなくそうなる、と信じていた。


「ねね、はやく特殊能力を使ってみてくれない?」


 エリザが前のめりになってお願いしてきた。お金が好きなエリザはユニスの能力に興味津々の様子だった。


「おいエリザ、声が大きいぞ。他の冒険者から目をつけられないように、その話は3人の中での秘密だって言ったじゃないか。」

「あ、ごめーん。忘れてた。」


 マルクがエリザを小声でたしなめるが、彼女はさして悪びれた様子もなく軽く謝った。

 ”特殊能力”を周りに言いふらしたりするのはやめようと、3人で決めたばかりだ。先ほどのセイアの話で特殊能力が知られて命を落とした人がいると聞いたためだ。


「俺も気になるからすぐ確認しようか。えっと、どうすればいいんだ?」


 ユニスはギルドカードを取り出し、裏を向けてステータスの一番下にある『特殊能力』を見た。

 セイアよりギルドカードのステータスの扱い方も説明されていた。各能力やステータスの部分をタップすればその内容が表示される。SPを各項目に振る方法も、その数字に触れて数値を入れていけばいい。

 ユニスは『特殊能力』をタップしてみた。


「えーっと、なになに・・・ん?」


 「箱」の部分をタップすると、その下に追加表示された。


『箱』LV1:  なし

 箱に入れるものの初回登録をしてください。』


「箱に入れるもの・・・お金か。でもお金だって書いてないな。」


 セイアの説明では箱にはお金が入ると言われていたが、このカードの説明はそれとは違っていた。もしかしたらお金以外を登録できるんじゃないだろうか。


「どうしたのよ?」

「いや、どうも箱は「お金」じゃなく他のものも入れることが出来るんじゃないかなと思って。」

「どれどれ・・・本当だ、お金って書いてない。何でギルドは「お金」だって言ったんだ?」

「うーん・・・ギルドも詳しくは知らないって言ってたからな。最初に商人が「お金」を登録したらしいし、それ以外知られていないんじゃないかな。」


 ユニスはもしかしたらこの『箱』の能力はお金を増やすだけじゃなく、もっと他の使い方があるんじゃないだろうかと考えた。もしそうだとしたらいろんな可能性が広がってくる。ひょっとして、思ったよりすごい能力なんじゃないか?

 そのユニスの思考はエリザによって破られた。


「何言ってんのよ。ギルドはお金が増えるって言ったんだから、最初はお金に決まってるでしょ。」

「でも、他のでもいいかもしれないよ。よく考えてからの方が・・・」

「じゃあ何がいいのよ。」

「それは・・・」


 エリザに言われてユニスははたと困った。『箱』は中に入れたものを増やせるらしい。じゃあ何を入れておけば増えた時に最もいいかと考えた時、適当なものが思いつかなかった。高価なものを入れたらいいとも考えたが、12歳の田舎の少年達が高価なものを持っているはずもないし、得ることもできない。

 ユニスはいろいろ考えて、ふと一つのアイデアを思いついた。


「そうだ、『経験値』ってどうだ。」

「「経験値?」」


 経験値とは、魔物を倒すと得られる何らかのエネルギーであり、それが体内に貯まって一定量を超えるとレベルが上がる、と考えられている。


「経験値を箱に貯めて、それが増えていけばレベルアップが早くなるだろ。そうすれば冒険者ランクアップも早くなる。」

「なるほど・・・。」

「だ、ダメよ。経験値なんて見えないものじゃなく、お金がいいわよ。それに経験値なんて登録できるかどうかわからないじゃない。」


 マルクは納得したようだが、エリザはお金に固執していた。しかしユニスは自分の思い付きが素晴らしいものだと感じていたため、どうしても経験値を登録したかった。


「俺のレベルが高くなれば、高レベルの魔物を倒せるようになる。そうなれば入ってくるお金も多くなるぜ。」

「でも・・・」

「ま、経験値が登録できなかったらその時は”お金”を登録するからさ。」

「むー、絶対よ。経験値がだめなら絶対お金を登録してよね。」

「分かった、約束する。」


 ユニスは苦笑いしながら同意した。


「じゃあやってみる。えっと・・・登録って頭で考えればいいかな?」


 ユニスは頭の中で「経験値を登録する」と念じた。すると、手に持っていたギルドカードの表示が変わり、「特殊能力」の欄に


『箱』LV1: 経験値(0)』


 と表示された。


「お、経験値が登録されたぞ。」

「おお、すげえ」

「あー、登録されちゃった。」


 ユニスとマルクは歓声を上げたがエリザはいかにも残念そうだった。

 しかし、


「よし、じゃあためしに魔物を狩って経験値を貯めてみようぜ。」


 ユニスはいてもたってもいられず、町の外に行って魔物を狩ろうと提案した。


「待てよ。外の魔物は危険だぞ。SPを振ってからの方がいいんじゃないか。」

「あ、そうだった。ゴメン、気が焦ってたぜ。」


 3人はセイアの注意の通り、間違えないようにポイントを割り振って行った。


「よし、できたぞ。」


 ユニスのSPをこのように割り振った。


――――――――――――――――――――――――――――――

「ステータス」

名前:ユニス

ランク:F

職業:戦士

レベル:1

SP:0


体力: 30/30

魔力: 0/0

知力: 19

筋力: 26

敏捷: 18

器用: 10

耐久: 17


能力

 剣術 LV1

 体術 LV1


特殊能力

 箱 LV1: 経験値(0)

――――――――――――――――――――――――――――――


「ユニス、お前魔力0って、いいのか?」


 先に終わっていたマルクがユニスのカードを覗き込み、「魔力」に目に止めて聞いてきた。


「いいさ。最初に0だったから多分魔法の才能はほとんどないだろうし、戦士なんだから今は体力系に振っとく方がいいだろう。必要だったらレベルが上がったときに少し振ればいいだろうし。」

「そうだな。またSPもらった時に考えればいいよな。」


 そう言ってるうちに、エリザもSP振りが終わった。


「じゃあ登録して初めての狩りに出発しようぜ!」


 ユニスたち3人は意気揚々とギルドを出発した。


 だが、実はこの時ユニスは重大な見落としをしていた。この見落としをしていなければ、以降3年間の苦難は無く、全く違った未来になったはずだ。

 ユニスは『箱』を再度タップして説明を見るべきだったのだ。説明の末尾にはこう書いてあった。


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 登録変更:所有者LV2で開放

 取り出し:取り出す物と数量を思い浮かべることで取り出せる。必要魔力1』

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