第13話 レベルが上がらない
「よし、3体目倒したぜ。」
町の近くの森へ行った3人は、初心者向けの魔物、ホーンラビットを狩っていた。
「ステータスは・・・お、変わってるぞ。」
ユニスがギルドカードを見ると、「特殊能力」の一部が変わっていた。
箱 LV1: 経験値(1)
「経験値の所が0から1になってる。3人で3体狩ってようやく経験値1ってことは、ホーンラビット1体で経験値1が得られるってことだな。」
箱に経験値を登録してわかった意外な副産物、それは魔物のもつ経験値が分かることだ。
これまでは「経験値」があるという一般認識はあったが、数値化されていなかった。この魔物は経験値が高い、低いというのは明確には判らず、レベルの上がり方などから単に「強い魔物はLVが上がりやすいので経験値が高い」というおぼろげな感覚でしか捉えられていなかった。
しかしこの箱は経験値を数字として見せてくれるので、魔物の経験値が分かることになり、それにより効率的なレベル上げも可能になるだろう。箱の新たな可能性が見えた感じだ。
「よし、今日はこのまま日暮れまで狩り続けようぜ。どっちが魔物をたくさん狩れるか競争だ。」
「よーし、負けねえぞ。」
「そうね。早くレベルを上げたいわ。」
マルクもエリザも、意気込んでいた。ユニスは2人を見て、頼もしく思えるのだった。
◇◇
箱には「お金が増えていく」という特徴があると、ギルドから聞いていた。今入っているのはお金ではなく経験値だが、ユニスは経験値も増えて行くんじゃないかと考えていた。なので夜寝る前に経験値の数字を見ておき、朝起きたらその数字に変化が無いか確認し続けていた。
変化があったのはギルド登録から8日目の朝。
ユニスがいつも通りに箱の中の経験値の数値を確認すると、
「あ、増えてるぞ!」
昨晩は「60」だった経験値が、今朝は「63」になっていた。割合にして20分の1の増加だ。
「やっぱり箱に入っていれば経験値も増えて行くんだ。やったぞ。」
登録して8日目だから、7日に1回の頻度だろう。そして経験値が20分の1増える。今回はたった3しか増えていないが、箱の中の経験値が多ければその分多くの経験値をもらえることになる。
「やっぱりすげえよ、俺の『箱』は。」
ユニスはこれからの冒険者活動が楽しみで仕方なかった。もっともっと魔物を狩って、早くレベルを上げていき、さらに上を目指そう。
ユニスは有頂天になり、まるで自分は無敵であるように感じられたのだった。
しかし、彼が得意の絶頂であった時期は長くは続かなかった。
◇◇
最初に異変に気付いたのは、ギルド登録から12日目の事だった。
この日いつも通り3人で近くの森で狩りをしていた。
マルクがウルフを倒し終わったとき、
「・・・ん?」
と何かに気づいたような声をあげた。同時にエリザも、
「あ、何だろこれ。」
と、自分の体を不思議そうに見た。
「どうしたんだ?」
2人の様子を見たユニスが尋ねると、マルクが剣を仕舞いながら答えた。
「なんか、体がふわっとなった感じがしたんだ。」
「私も、なんだか中心から暖かい何かが広がったような感じもしたわ。」
「そうか・・・俺は何も感じなかったけどな。」
「あ、もしかしてレベルアップじゃない?ギルドで聞いた話だと、レベルアップすると体に不思議な感覚があるからすぐわかるんだって。」
エリザの話で3人はすぐさまギルドカードを取り出した。
「あ、上がってる。やった!」
「私も。レベルが2になってる!」
初めてのレベルアップにはしゃぐ2人。
しかし、喜ぶ2人をよそにユニスは不思議そうな顔をしていた。
「おい、どうしたんだよユニス。」
マルクは怪訝そうな顔をしてユニスに尋ねた。
「いや、俺のレベルは上がっていないんだが。」
「「え?」」
驚きとともにユニスに近寄る2人。彼らがユニスのカードを見ると、「レベル1」となったままだった。
「なんでだ?俺たちはいつも一緒に魔物狩りをしていただろ。なら経験値は一緒のはずだろ。」
「俺にもわかんねえよ。」
特殊能力の部分を見れば、「箱 LV1: 経験値(103)」となっていた。箱の効果により3増えているので、実際には2人の経験値が100になったときにレベルアップしたと思われる。
しかしユニスはレベルアップをしていない。3人とも首をかしげるしかなかった。
「ま、何か間違って経験値が入ってなかったってこともあるかもしれないな。」
「ユニスが特殊だからもっと経験値が必要なのかもしれないわよ。」
「・・・そうかもな。じゃあもっと狩りを続けないとな。」
ユニスはそう言って、胸に沸いた小さな不安を打ち消して、2人に明るく振舞った。
ユニスはこの時、これは何かちょっとした思い違いやズレによってレベルが上がってないだけで、少し経ったら自分もレベルアップするだろう、そう思っていた。
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