第22話 ボス討伐、認定

「それは、帰還玉ですか」


 ミネベアがプリシラの手に持つものを見て尋ねた。


「そうだ。プリシラがリーダーからもらった帰還玉だ。今これがここにあるということは、プリシラはこれを使って帰還していないという証拠になる。どうやら不良品のようで魔法陣が発動しなかったために、ボス部屋に取り残される羽目になったいわく付きのやつだがな。」


 プリシラはニセの帰還玉を捨てずに持って帰ってきていた。捨てなかったのは慌ててボスから逃げたためにそのまま持っていただけで、意図したわけではなかったのだが、ここではそれが幸運だった。

 ミネベアはそれを見て頷いた。


「帰還玉ですか。なるほど・・・じゃあボスを倒さなければ出られませんね。」


 プリシラが帰還玉を返そうと再びカウンターに近寄ろうとした。

 その時、


「待て!」


 と、後方より声が響いた。

 ユニス達が一斉に振り向くと、そこには人混みをかき分けて近づくバーゼルがいた。


「バーゼルか。何の用だ。」


 それを予期していたユニスは、プリシラとバーゼルの間に素早く移動した。


「その玉を貸せ。パーティーリーダーの俺が返してやる。」


 バーゼルがそう言った言葉には、焦ったような色が含まれていた。それも当然だ。このままギルドに返却されれば自分の悪事がばれてしまうのだ。


「馬鹿言うな。この状況でわざわざ渡す必要がどこにある。それにお前たちが先に脱出したことでパーティ設定は切れている。」

「うるせえ、つべこべ言わずに渡せよ。」


 バーゼルがユニスの後ろにいるプリシラに手を伸ばす。しかしその手首をユニスがガシリときつく掴んだ。


「イ・・・イテェ、何しやがるんだ。手を放せよ。」


 バーゼルが力任せに手を引き離そうとするが、ユニスの手はびくともしなかった。バーゼルが驚きの顔でユニスを見た。


「な・・・なんで離れねえんだ。この力・・・レベイチのくせに、何なんだ。」


 それを聞いてユニスは軽く笑いを浮かべ、そしてバーゼルの手をひねって後ろ手に固定して動けなくした。


「ぐぁ、な、何しやがる!」

「残念だが、俺はもうレベイチじゃない。」

「・・・は?」


 ユニスは周りを見回し、知り合いの高位冒険者を見つけると、


「すまないが、こいつを邪魔しないように確保してほしいんだが。」


 と依頼した。

 その冒険者もユニスの力に驚いていたが、その言葉に我に返り反応して


「おう、分かったぜ。」


 と答え、近づいてバーゼルを受け取った。


「離せ。離しやがれ。俺はパーティリーダーだったんだぞ。」

「うるせえ、黙れよ。ここにいる奴らはお前の話よりユニスたちの話を聞きてえんだ。邪魔すんな。」


 捕まえられてもなおも喚いて暴れるバーゼルは、最後は3人がかりで組み伏せられ、口に猿轡をかまされてようやく静かになった。

 それを見てユニスはミネベアに向き直った。


「すまない、邪魔が入った。」

「いえいえ。・・・それでは帰還玉をお返しください。」


 プリシラは手に持った帰還玉をミネベアに渡した。


「ユニスさんの分はありませんか?」

「俺のは地面に落とした時に砕けたんだ。欠片は拾ってない。」

「砕けた?砕けるようなものでは・・・」


 ミネルバはそれを聞いて怪訝そうな顔をしたが、すぐに考えるのをやめて、プリシラから受け取った帰還玉をそばにあるライトの光を当てた。

 そしてすぐに驚きの声を上げた。


「!・・・これは、帰還玉じゃありません。ニセ物です。」

「なんだと!」

 

 周りの冒険者からも驚きの声が聞こえてきた。

 ギルドではニセ物を偽って返却されるのを防ぐため、帰還玉が本物かどうかを確認する。カウンターにある特注魔道具のライトを当てると本物は赤く光るのだが、ニセ物は光らない。それで真贋を確認するのだ。

 そして今回の帰還玉は当然光らなかった。


「やっぱりな。俺たち2人がボス部屋に取り残されたのは、帰還玉がニセ物だったからだ。」


 ユニスは予想していた通りだと頷いた。そしてユニスは振り向いて床に組み伏せられているバーゼルを睨んだ。


「その理由は、それはそこに転がっている奴が分かってるんだろう?」


 その言葉に全員の視線がバーゼルに注がれた。彼は脂汗を浮かべながら『知らない』とでもいうかのように、唯一自由になる首を必死に横に振っていた。

 しかしユニスはそれを無視してさらに言葉をつづけた。


「さっき慌てて俺たちのニセの帰還玉を奪い取ろうとしたんだ。手に入れてすり替えようとしたんだろ。なら今こいつはまだ持ってるんじゃねえかな、本物の帰還玉を。」


 ユニスのその言葉を聞いてバーゼルがうめきながら再び暴れ始めた。しかしすぐさま取り押さえる冒険者が増え、全身を押さえつけられ完全に動けなくなった。

 冒険者のうち1人がバーゼルの体を探っていたが、やがて立ち上がってカウンターにやってきた。その手には帰還玉が二つ握られていた。


「本当にあったぜ。こりゃあユニスたちの言ったことが本当のことだって認めるしかねえな。」


 ミネベアが帰還玉を受け取ってそれが本物であると確認したあと、しばらくギルド職員が集まって話をしていた。

 やがてミネベアが1人カウンターにやってきて、ユニスとプリシラに向かって告げた。


「サイクロプスの魔石、それに使われなかった帰還玉。さらに2人が転送魔法陣で入り口まで帰還したことも確認できました。ギルドはユニスさん、プリシラさんのイレギュラーボス サイクロプスの討伐を認定します。」


 その瞬間、ギルドは歓声に包まれた。

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