第23話 ミツキ、正式加入
その後しばらくして回復したケビンたちパーティとともに、ユニスたちはダンジョンをあとにしてギルドに戻った。
「感謝するぜ。何かあったら俺たちに声をかけてくれ。出来る限り力になる。」
ケビンのパーティはそう言ってユニスたちと別れて行った。
ミツキを追放した奴だったが、ユニスから見て短時間付き合った感想では実力はともあれ性格は意外にまともだった。
じゃあなぜミツキを追放することになったのか理解に苦しむが、ミツキ曰く、ケビンは女グセが悪いのだそうだ。そういえば追放の時の原因の一つにも女性がらみの話があったなと思い出す。ケビンはそっち方面でダメな性格が災いしているのか。そういえば去り際にプリシラに向かってウインクをしていたな。全く、懲りないやつだ。
◇◇
ユニスはパーティの話し合いをしたいと提案し、ギルドを出てそのまま話し合いのために宿屋のユニスの部屋に戻ってきた。
「疲れているところをすまないが、話しておきたいことが2つある。」
3人が椅子に座ったところでユニスがおもむろに切り出した。
「2つですか。1つはなんとなくわかりますが、もう1つって何でしょうか。」
「それは順に話していくさ。」
プリシラの疑問にユニスは軽く答えてから1件目の話しを始めた。
「予想は付いてると思うが、1つ目はミツキの事だ。」
自分のことが話し合われると改めて言われ、ミツキがわずかに身を固くする。
「ミツキは今まで仮メンバーとして加入してもらっていた。ひと月の約束だったが日にちはこの際関係ないな。まあ、グダグダ言うより結論から先に言うぞ。俺はミツキを正式にメンバーに加えてもいいと思う。」
その言葉を聞いて、ミツキは嬉しそうに顔をほころばせた。
「ほ・・・本当か!?」
「ああ。まず、戦闘に関しての能力は申し分ない。ミツキのおかげでこれまで以上にリスクの少ないダンジョン探索ができているからな。
そしてミツキのひととなりだが、今日のケビン達との件でよくわかった。ミツキは追放されたパーティなのに彼らを心配し、救援にも積極的に動いていた。それにその後の会話でケビン達との遺恨もだいぶ解消されたんじゃないか。
ミツキは、命を大切にする、過去の遺恨を置いても仲間を思いやることができる。つまりミツキは信頼できる人物だと思う。だからパーティメンバーとしてふさわしいと感じた。」
ユニスはそう言い終えると、顔をプリシラに向けた。
「ただこれはあくまで俺だけの意見だ。決定するのはプリシラの意見も聞いてからだ。・・・プリシラ、どう思う?」
ユニスとともにミツキも、期待と不安が入り混じった顔をプリシラに向ける。
「ユニスはリーダーなんだから、私の意見は要らないと思うんですが。」
2人から注目されたプリシラはそう言ったが、しかしユニスはプリシラの言葉には頷かなかった。
「そうはいかない。俺はパーティを独断でやっていくつもりは無い。プリシラは大切な仲間だから、その気持ちを無視してパーティを組んでいくつもりは無いぜ。」
『大切な仲間』という言葉を聞いてプリシラは嬉しそうに顔を上気させた。少なくともパーティに関してプニスはプリシラを尊重している。それがわかっただけでもプリシラは心が満たされていた。
「ユニス、そう思ってくれてうれしいです。・・・じゃあ私の意見を言いますね。私もミツキの加入に賛成です。一応。」
「そうか、賛成か。・・・一応?」
ユニスはプリシラも賛成だと聞いて安心しかけたが、末尾の一言が気になった。わざわざ付けくわえるのだから何かしら意味があるはずだ。
プリシラはそのユニスの反応を見てからさらに付け加える。
「パーティとして公平に見てプラスになると思うので賛成、ということです。一応、っていうのは、私個人の心情です。」
「・・・ひょっとして、お前らあまり仲良くないのか?」
プリシラの言葉に心配になって聞いたユニスだったが、彼から見ても普段仲が悪そうには全く見えなかった。実際、ユニスの言葉にはプリシラは首を振った。
「違います。仲はいい方だと思います。ミツキは気さくでとても気持ちがいい人です。」
「俺もプリシラは好きだぜ。仲が悪いなんてことはない。」
2人は相次いで否定する。どうやら2人の仲はいいようだ。ひとまずパーティ内のいざこざはなさそうで、ユニスはひとまず安心した。
「じゃあ何だ??」
ユニスがますます分からないといったい表情で聞くと、プリシラはミツキを見ながら言った。
「ミツキはライバルですから、ちょっと気持ち的に複雑なんです。」
「?ライバル?何のだ?」
ユニスは顔を2人に向けたままきょとんとしていた。それを見た2人はため息をついて、ユニスに聞こえないようにこそこそ話を始めた。
『あれ、ほんとに気づいちゃいねえ顔だな。』
『本当にニブいですよね。』
『あれか?黙ってても女性が寄ってくるから、それが普通だと思ってるとか。』
『普段あんなに不愛想なのに女性が寄って来るわけ・・・・・・あれ?来ますよね、結構。』
『だな。なにかしら話しかけられたりすることも多いしな。直接来なくても、ギルドでの女性からの視線もかなり向けられてるだろ。』
『本人は気にしてないのか、気づいてないのか・・・。』
『プリシラも大変だな。しかし俺もライバルと言われたからにゃ簡単には引き下がらねえ。』
『フフ、負けませんよ。』
内緒の話を終えた2人は笑顔でユニスに向き直ってプリシラが代表して言った。
「ユニスは気にしないで。大したことは無いですから。」
「お、おう、そうか。・・・まあとにかく賛成ってことだよな。」
ユニスは納得できないような顔をしたが、ひとまずまとめることとした。
「じゃあ決まりだ。ミツキは今から俺たちの正式なパーティだ。これからよろしくな。」
「ミツキ、よろしくね。」
2人の言葉にミツキははにかんだ笑みを浮かべてそれに応えた。
「2人ともありがとな。改めて言われるとなんだかこっぱずかしいぜ。」
こうしてミツキは3人目のパーティメンバーとなった。
◇◇
「さて2つ目の話だが」
ユニスは体をやや前のめりにして2人に話し出す。
「13階層のポイズンビーだがな、もしかしたら俺たちだけで討伐できるかもしれねえ。」
「「え!?」」
2人は驚き、その顔を予想していたユニスはニヤリと口角を上げた。
「本当か、それは。」
「ああ、いいアイデアを思い付いた。まだ試したわけじゃないんだが、うまくいけば簡単に討伐できるぜ。」
ユニスが腕を組みながら自信ありげに言う。
「どんなアイデアなんだよ。」
「もったいぶらずに教えてくださいよ。」
2人もユニスの話に大いに惹かれたように前のめりに聞いてきた。
「まあ落ち着け。説明はするが、その前に俺の特殊能力をミツキに説明しとかなきゃな。」
「!ユニスの能力、教えてくれるのか!?」
ミツキが椅子から立ち上がって喜ぶ。ユニスに特殊能力があることは知っていたが詳細は当然知らない。
ミツキはユニスの能力が気になって、姉のミネベアにそれとなく聞いてみたこともあるが、
『あらあら、ギルド職員が口外することはできないって知ってるでしょ。自力でメンバーになって教えてもらいなさい。・・・色仕掛けもいいかもね。やってみる?』
と、かわされて教えてもらえなかったのだ。
ユニスはミツキを落ち着かせるように椅子に座らせてから再び話し始めた
「正式メンバーになったんだから当然だ。それにポイズンビーの討伐には、俺の『箱』の能力が大いに関わってくるんだからな。」
ユニスのそのアイデアは特殊能力『箱』を使うのでミツキも知っておく必要がある。ユニスはミツキに自身の箱の能力について語っていった。
ユニスの話を最初は興味津々で聞いていたミツキは、やがて驚き、感心し、賞賛し、そしてあきれた。
「なんだその能力は!聞いたこともないとんでもない能力だぞ。冒険者全員が欲しがりそうだぞ。」
ミツキは叫ぶように言った。確かにユニスの『箱』は様々なことが可能だ。工夫次第で戦闘だけでなく、各種依頼の時、さらには普通の日常生活などあらゆる場面で有効に使うことが出来そうだ。
「そうだ。だがいい面ばかりじゃない。今この能力が広まったら、変な奴らや権力者が寄ってきて、いやなことに巻きこまれてしまうだろうな。だからできるだけ秘密にするつもりだ。」
「・・・そうか。だからここのパーティメンバーになるには信頼が大事だ、ってことだったんだな。・・・理解したぜ。」
ミツキはニヤッと笑う。そういうミツキはユニスに信用されたためにパーティメンバーになることができたのだ。彼女はそのことを改めて誇らしく思えるのだった。
余談だが、途中であの初級ボス部屋での経緯をプリシラが詳しくミツキに語りだそうとしたため、「長くなるから後にしろよ。」と慌ててユニスが止める一幕もあった。おそらく今日の夜にでもガールズトークが花咲くだろう。
箱の性能を教えた後、ユニスはようやくポイズンビー討伐のアイデアを語ることができた。
「・・・ていうわけだ。2人とも、このアイデアはどう思う?」
そしてそのアイデアを聞いた2人の反応は『半信半疑』だった。
「そんなことができるなら本当に討伐が出来そうですが、・・・本当にできるでしょうか。」
「俺も箱のことを聞いたばかりだからよくわからねえ。ダメ元で試してみればいいんじゃねえか。」
彼女たちはなんともあいまいな意見を口にする。箱の能力はユニスのもので、彼女たちにとってはまだ不明な部分が大きいため、当然と言えば当然の反応だ。
だが、ユニスの意思は揺るがないようだ。
「このアイデアが行けるかどうか、明日確かめてみればはっきりするさ。」
ユニスは言葉を区切り、ゆっくりとした口調で言った。
「俺は出来ると思っているがな。」
ユニスの目は確信に満ち、口元にわずかに笑みを浮かべていた。
その顔を見たプリシラとミツキは、目を見合わせてから『仕方ない』とでもいうように頷きあったのだった。
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