第15話 新メンバー(仮)

「でも大丈夫ですよ。このミツキは実力はもちろん、信用できることは私が保証します。」


 強引に話を進めるミネベア。


「いや、俺たちは今別にメンバーを必要としていない。悪いが新しいメンバーを入れるつもりはない。」


 ユニスはそう言ってミネベアの話を断ったのだが、ミネベアはあきらめる様子はなかった。


「ユニスさんはひどいですね。私にメンバー探しを依頼しておきながら断るなんて。」

「それは誤解だと言ったはずだ。」

「それに昨日の騒ぎに自分から勝手にかかわっておきながら、あとは知らない、というのも人情に欠けるのではないかしら?」

「う・・・。」


 痛いところを突かれてしまった。ユニスは昨日の追放騒ぎで、どうしても放っておけずつい割り込んでしまった。そのように関わってしまうとそこに縁が生まれてしまう。そうなると無関係と強弁することも難しいところ。


「それに昨日の騒ぎのおかげで変な噂が広まって、他のパーティに入りにくくなっているんです。」


 ユニスの動揺を感じ取ったのか、ミネベアがここぞと畳みかける。


「俺のせいじゃないとと思うが・・・。」

「関わっておいて、見捨てるのですか?」

「む・・・」


 ユニスは考え込んだ。普通に考えればユニスは断っても問題があるわけではない。しかし昨日助けた理由でもある”特殊能力のせいで追放された”というミリア個人に同情する気持ちもある。新メンバーは絶対お断りというわけではないので、考えようによっては都合がいいかもしれない、と気持ちが新メンバー容認に幾分か傾いた。

 ユニスは横に座るプリシラをちらりと見る。彼女はこちらを見て、わずかに頷いた。プリシラには特に異存はないようだ。


 ただ、まだミツキについて情報が足りない。ユニスは気になることを追加で質問をすることにした。


「だが俺は彼女・・・ミツキという名前を聞いたことがないぞ。最近来たのか?」


 その問いには、これまで黙って聞いていたミツキが答える。


「俺はこれまでバランではなく王都アクシアで活動してたんだ。バランに来たのは1か月前だ。」

「レベルは?」

「13。」

「なるほど。」


 昨日の騒ぎの時、相手パーティの顔は見たことがあったので知っていたが、組んだことがないため名前は知らない。ミツキは初めて見る顔だったので、新人か移籍者と想定していたのだが、どうやら後者とのこと。

 ミツキの歳はユニスたちと同じくらいだろう。通常、同年代の平均はレベル10程度だから、レベル13なら優秀な部類に入る。


「昨日のパーティは『特殊能力』が問題だと言っていたようだが、理由を教えてもらってもいいか?」

「能力については隠してないから問題ない。俺の特殊能力は『回避』だ。」


 ミリア曰く。彼女の職業はシーフで、調査や索敵を得意としている。特殊能力『回避』は一言で言えば”あらゆる危険を回避する能力”で、その中には罠察知や罠解除、直感による危険察知なども含まれるという。

 それだけ聞けばかなり優秀な能力なのだが、何が問題だったのだろうか?


「回避能力の一つに『自動回避』ってのがある。これは死角からの攻撃も回避することもあるしすごく使える能力なんだが、自分の意図と違って自動で回避してしまうことがあるんだ。

 あのパーティの戦闘で自分はヒーラーのマリアの守りを担当してたんだが、飛んできた矢を自動で避けちまったためにその矢が彼女に当たってケガさせちまったんだ。」


 どうやら自動回避が発動するとそれが優先されるため、防御ができなかったらしい。それでヒーラーがけがをしたことが昨日の発端だという。


「そういったことは王都の活動中にも何度もあったんだが、その時は組んでいたパーティがそれを理解してくれていて何の問題もなかった。けどこっちで最初に組んだパーティが昨日喧嘩したケビンのところだったんだが、あいつらは理解してくれなかった。」


 あの騒動の背景にはそういった経緯があったのか、とユニスは納得した。

 ついでながら、昨日のパーティリーダーの名前「ケビン」を初めて知った。


 特殊能力についても問題はみあたらない。というよりむしろかなり使える部類だ。自動回避がどのように作用するかは注意する必要があるが、それはミツキの問題というよりも、他のパーティメンバーの受け取り方の問題のようだ。


「・・・どう思う?」


 ユニスはプリシラに問いかけた。プリシラは少し考えていたが、やがてユニスを向いて言った。


「私はパーティに入れてもいいと思います。あとは、ユニスがどう考えるかです。」


 プリシラの言葉は、ユニスの特殊能力である”箱”をユニスがどうするか、という意味が含まれていた。

 ユニスは箱の能力について、可能な限り隠そうとしている。パーティメンバーにするということは、ユニスの箱の能力を教えるということになる。それを認めるかどうか、ユニスの判断に任せるということなのだ。


「ただ、少し気になることがありますけど・・・」

「?」


 そう言ってプリシラは意味ありげな目でじっとミツキを見つめていた。

 がプリシラはそれきり何も言わなかったので、ユニスは、そう気にすることはないか、と視線をミツキたちに戻した。


「分かった。ミツキをメンバーにしよう。」


 様々な情報を考えた結果、ユニスはミツキをメンバーに入れる決断をした。


「!」

「ユニスさん、ありがとうございます。」


 ユニスの言葉にミツキは喜んだように笑顔になり、ミネベアは頭を下げてお礼を言った。


「ただし!」


 ユニスの言葉には続きがあり、2人はハッと表情を引き締めた。


「俺がパーティメンバーに一番求めるのは『信頼』だ。秘密を洩らさない、仲間を裏切らない、そう言ったことが必須事項だ。ミツキには悪いが、俺はまだそこまでお前を信頼できていない。だからパーティーには仮メンバーとしてなら入れてやる。一月ぐらい様子を見て、俺が信頼できると思ったら正式にメンバーにする。それで嫌ならこの話はこれまでだ。」


 そう言ってユニスはミツキを見据えた。

 パーティから追放されたことがあるユニスは、新しいパーティには『信頼』が最重要と位置付けていた。もちろんこれはプリシラも同感だ。


 ミツキもユニスを見返してにやりと笑う。


「わかった。要はしばらく俺の行動を見るってことだな。それでいいぜ。」

「よし、じゃあ今からミツキはパーティメンバーだ。よろしくな。」


 ユニスは胸の前に拳を突き出す。その拳に同じようにミツキの拳が近づいてゴツンと当たる。

 こうして、仮ではあるがユニスとプリシラに3人目のパーティメンバーが加わることになった。


「よかった。無事にミツキがメンバーになれそうで。お姉ちゃん頑張った甲斐があったわ。」

「・・・ん?」

「え?」


 のんびりとした口調で喜びを表すミネベアだったが、その言葉に一つ重要な情報が含まれていた。


「お姉ちゃん、だと?」

「ええ、そうよ。」

「ミネベアさん、ミツキさんのお姉さんなんですか!?」

「言ってなかったかしら?」

「「聞いてねえよ(ません)!」」


 なんと、ミネベアとミツキは姉妹らしい。だからミツキ個人のフォローをしていたのか、と2人は理解した。


 姉妹と教えられた2人は改めてミネベアとミツキを見比べた。そして思った。見れば見るほど似ていない、と。

 まず顔立ちが似ていない。どちらも美人なのだがタイプが違う。ミネベアはほんわか系、ミツキはキリッとしたお顔立ちなのだ。さらにミネベアの方はおとりとした雰囲気と言動なのだが、やや腹黒い本性が垣間見える。ミツキはというと冒険者の服装と男っぽい言動で、昨日の喧嘩もそうだがどちらかと言えば一本気な性格なのではないか。


(似てるところと言えば、胸の大きさくらいか。)


 2人とも豊かな胸をしている。プリシラは2人に及ばないな・・・。

 ユニスがそう考えた時、何かを感づいたのかプリシラがこちらを見て睨んできた。


(!おいおい、俺何も言ってないのに心の中が分かるのかよ。)


 ユニスは危険を感じて、プリシラの視線に素知らぬそぶりをした。


 場の雰囲気が少し微妙になる中、ミネベアは相変わらずマイペースで話を続けている。


「昨日ミツキがやたらにユニスさんのことを聞いてきて、パーティに入れてほしそうだったのよね。」


 ミネベアの言葉を聞いて、ミツキが慌てだした。


「わ、ちょっと、お姉ちゃん。」

「だから私がユニスさんにお願いしてみるって言ったらすごく嬉しそうで、『お姉ちゃん、ありがとう!』って・・・。」

「ち、違うぞ。そんなに嬉しそうにはしてねえ。お姉ちゃんの勘違いなんだからな!」


 ミネベアがおっとりとした口調で暴露を続け、ミツキが顔を真っ赤にして慌てて否定する。


(なんなんだ?何を見せられてるんだ?)


 2人の寸劇(?)をただ茫然と見続けるユニスの隣で、プリシラはむくれた顔をして


「はあ、やっぱり・・・。メンバー入り、反対すればよかったです。」


 とため息交じりにつぶやいたのだった。

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