第21話 ギルドへ

 ボス部屋から消えた2人が現れたのは、ダンジョンの入り口の前だった。ダンジョン内から転移で出てくる場合、いつもそこに現れることになっている。


「何!まさか、ユニス、それにプリシラも。お前たち、無事だったのか。」


 魔法陣が現れたため、入り口近くにいた冒険者たちが誰が転移してくるのか見守っていたのだが、現れたのがユニスたちだったことから大騒ぎになった。


「おまえ大丈夫なのか?レアボスが現れて殺されたって聞いたぞ。」


 ざわざわとした雰囲気の中、顔見知りの冒険者がユニスに声をかけて来る。


「ああ、レアボスは事実だが、残念ながら俺は生きている。」

「どうやって逃げて来たんだよ?」

「それはここで話すには大事過ぎる。ギルドに行って報告するから興味があるならそこで勝手に聞けよ。」


 そう言うと、ユニスは歩き出した。続いてプリシラもその後ろをちょこちょこと歩いて行く。

 移動する2人を見て、そこに居合わせた冒険者たちはがやがやとしていた話をやめ、一斉に2人とともに移動しだした。一緒に行けば面白い話が聞けそうだとあって、探索の予定をやめる者たちが多かったのだ。


 ユニスが塔の外に出ると、どうやら朝のようだった。横からくる太陽の光がまぶしく、ユニスもプリシラも手で光をさえぎるようにした。


「徹夜でボス戦やってたというわけか。」


 ユニスはそう独り言を言って苦笑いを浮かべた。ユニスもプリシラも一睡もしていないが、気持ちが高ぶっているせいか全く眠くない。その歩みは元気そのものだ。


 塔から大移動する冒険者の一団を見て、人々は何事かとその行進を眺めてている。その衆目の中、先頭をユニスが堂々と歩いてる。すぐ後ろのプリシラは、恥ずかし気に周囲をちらちらと見てはすぐに赤面してうつむいて歩いていた。

 冒険者たちの中にはユニスに近寄りダンジョン内の顛末を聞こうとする者も幾人かいたが、ユニスは「ギルドで話す」と言って、煩わしそうに手を振るだけだった。


◇◇


 2人がギルドに入ると、冒険者たちから歓声が上がり、一斉に声をかけられた。


「本当に生きてやがった。」

「驚いたな、プリシラも一緒なのかよ。」

「しぶといやつだな全く。」


 どうやら先にギルドにユニスたちの情報が届いていたようで、2人の登場を半信半疑の状態で待ち構えていたようだ。ユニスを見知っている者たちがバシバシと肩や背中をたたいたりしてきた。


「ようよう、どうやって逃げれたんだ?教えろよ。」


 もう何度目になるか覚えていない同じ質問に「これからゆっくり話すさ。」と半ば面倒くさそうに応じたユニスは、その視界の端にバーゼルたちを見つけた。

 バーゼルは口を開けたまま驚いた様子でこちらを見ている。スコージオやイゴもそばにいて同様に驚いているようだ。

 その3人を一瞥しただけで、ユニスは冒険者たちをかき分けながらカウンターへとたどり着いた。


「ユニスさん、プリシラさん。ご無事で何よりでした。」


 カウンターには顔見知りであるミネベアという女性職員が2人の生還を喜んでくれた。


「しかし、どうやって戻ってこられたんですか?バーゼルさんたちの話だと、イレギュラーなボスが出現してあなたたちが取り残されたと聞いていましたが。」


 ギルド職員もやはりユニスたちの生還方法に興味津々のようだ。

 ユニスは一旦周囲を見回した。周りの冒険者がひしめいて一心に聞き耳を立てている。その様子がおかしくもあり、少し口に笑みを浮かべながら職員に向き直ってからユニスは口を開いた。


「もちろん、イレギュラーボスのサイクロプスを倒して出てきた。」

「・・・はい?」


 ミネベアが間の抜けたような声を出した。信じられない言葉を聞いたようで、彼女だけでなく周りの冒険者も一瞬にして静まりかえった。


「今なんと?」

「だから、サイクロプスを、倒して、帰ってきた。」


 ユニスは今度は聞き逃しの無いよう、ゆっくりと言葉を切りながら言った。


「サイクロプスですよ?」

「だったな。」

「レベル25の魔物ですよ。」

「知ってる。」

「・・・・・・・・・倒したんですか?」

「そう言ったはずだ。」

「!!!」


 ようやく理解したミネベアは驚きの声を上げまいと必死に落ち着こうとしたが、その前に周りの冒険者たちが一斉に暴発した。


「サイクロプスを倒しただと!?」

「ユニスはレベル1だろ。絶対無理だ。」

「いくらユニスの話とはいえ、それはちょっと信じられん。」

「頭でも打ったんじゃねえか?」


 口々に話をする冒険者たちの見解は総じて否定的だった。

 そうなることを予想していたユニスは、騒ぎの中でも落ち着いていた。


「その証拠を見せる。」


 ユニスは後ろのプリシラをちらりと見た。プリシラはコクンとうなづいてカウンターの前に進み出た。


「あ、あの、これを見てください。」


 プリシラがおどおどしながら袋の中から魔石を取り出した。


「サイクロプスの魔石、です。」


 周りの冒険者の視線が一点に注がれた。カウンターの上に青色の魔石が置かれる。それをまじまじと見たミネベアが歓声のような声をあげる。


「これは!サイクロプスの魔石、間違いありません。」


 サイクロプスはレベル25。初級にはいないが中級ダンジョンには出現するため、魔石がギルドに持ち込まれることもある。経験を積んだ職員なら魔石を見てそれがどの魔物であるか見分けられる。

 その職員が間違いないと断言したのだ。それを聞いて再度冒険者たちが騒ぎ出した。


「この魔石は・・・間違いなさそうだ。」

「じゃあこいつらサイクロプスを倒したってことか。」

「いや、しかし信じられんぞ。」


 冒険者たちが口々に会話をし始めていた。まだほとんどの冒険者たちが半信半疑のようだ。


「もう一つ、証拠がある。」


 おもむろにユニスが言った言葉で再び冒険者のざわめきが止む。


「直接の証拠じゃないが、俺たちがボスを倒さなきゃ脱出できなかったという証拠だ。」


 ユニスは再びプリシラを振り向いた。それを予期していたプリシラはすでにそれを手に持っていた。

 彼女の手には、発動しなかったニセの帰還玉があった。

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