第9話 3年前

 夏を前にした少し汗ばむ暑さの日、ある田舎の小さな町を目指して、2人の少年と1人の少女が歩いていた。


「いよいよだな、ユニス」

「ああ、楽しみだ。」

「ちょっと、ユニス、マルク、待ってよ。」

「遅いぞエリザ。置いて言っちまうぞ。」

「もう!」


 前を歩く少年2人に追いつこうと、少女が走っていく。

 ユニス、マルク、エリザは全員12歳の同い年。近所の村に住む幼馴染だ

 彼らは小さなころから仲が良く、同い年ということもあっていつも一緒に遊んだりしていた。

 彼らは3人とも長男、長女ではなく、いずれは家を出て村で別の家を立てるか、他の街に出て仕事をするかしかなかった。

 3人が選んだのは、村を出て街で冒険者になるこどだった。


 3人のような子供達はこの国には少なくない数がいる。生まれた村で生きていくには新たに土地を開墾するか、何か技術を身に付けて村での生活手段を確保するしかないのだが、小さな村ではそもそもそれが少なく難しいからだ。

 あぶれた人たちは必然的により大きな街へ集まっていく。それで生活が保障されるわけではないにもかかわらず。


 ともかく、ユニス、マルク、エリザに仲良し幼馴染組は冒険者になるために村を出て近くの小さな町に向かっていたのだ。

 3人の将来の夢は「有名な冒険者になること」だ。

 3人のうちユニスとエリザは仲が良く、とくにエリザがユニスにべったりで、ユニスはまんざらでもない感じで付き合っていた。

 その2人にマルスはいつもくっついていた。マルスの目当てはエリザだったのだが、同じ幼馴染の2人の邪魔をするようなことはなく、ただ一緒に行動していた。


 そんな彼らがこの街に到着し、すぐに冒険者ギルドへと向かった。目的はもちろん「冒険者ギルドへの登録」だ。


 この国では、冒険者ギルドへの登録は12歳以上ならば誰でも出来る。そしてほぼ全員がギルド登録をしている。冒険者を生業としている者以外も、農民、町人、商人、木こり、漁師など、ありとあらゆる人が登録しているのだ。

 なぜほとんどの人がギルド登録をするのか。それは登録することにあるメリットがあるからだ。


「ここが冒険者ギルドか。」


 3人は、小さな町の中ではひときわ目立つ大きな建物の前で上を見上げていた。

 冒険者ギルドは全国にある組織で、ある程度の町であれば必ずギルド支部が設置されていており、この小さな町もその例外ではなかった。

 3人はお互いの顔わ見合わせ、そして意を決して歩き出して建物の中に足を踏み入れた。


 ギルド内は小さな町らしく混雑しておらず、冒険者らしき人がまばらにいるくらいだった。

 3人はまっすぐ進んでカウンターに進んだ。


「あの、ギルドに登録に来たんだけど。」


 3人を代表してユニスが受付の女性に声をかけた。

 受付女性は、新規登録者には慣れているらしく、にっこりと笑みを浮かべて立ち上がった。


「いらっしゃい。ギルド登録ですね。私はセイアと言います。どうぞよろしく。」


 セイアと名乗った受付嬢は、すぐに紙とペンを出した。


「3人に順番に名前や年齢など質問しますから、答えてくださいね。では・・・」


 セイアは3人に順に質問していき、その答えを紙に書き留めて行った。

 質問が終わると、彼女は立ち上がって言った。


「では3人ともこちらの部屋に来てください。」


 セイアに案内され、3人はギルド奥に入っていった。


 ギルド内のある1室に案内された3人は、そこで一旦待たされた。そこには特に何もなく、ただ彼らの目の前に扉があるだけだった。


「では1人ずつ前の部屋に入ってください。」


 どうやらその扉は別の部屋に通しているようだ。セイアに促され、まずユニスが目の前の扉に入っていった。


 その部屋はさほど広くなく小ぢんまりとしていて、そしてそこに1人の初老の男が座っていた。男の前には机と、机の上には四角い白い箱が置いてあるだけだ。


「では君、こちらに来てこれに手を当てなさい。いいというまで手を離してはいけねいよ。」


 男はユニスに、白い箱に手を当てるように促す。ユニスは恐る恐る手を当てた。すると箱は淡い光を放ちはじめた。ユニスは驚いたが、男から言われていたため手はしっかりと箱から離さなかった。

 やがてはこの光は消え、そして男は


「もう手を放してもいい。」


 とぼそりと言った。

 男は光を失った箱をしげしげと眺めていたが、「ほう。」と一言つぶやき、一瞬にやりと笑みを浮かべた。しかしすぐさま笑みを収め、ユニスに


「次の人に変わりなさい。」


と感情のない声で言った。


 ユニスが部屋を出た後、続けてマルクが入っていった。


「ねえ、中はどうだったの。」


 マルスを待つ間、エリザがユニスに話しかけてきた。


「どうって・・・ただ中に入って、箱に手を当てて、箱が光って・・・それで終わり。」

「え、それだけ?もっとすごいことがあるのかと思ってた。」


 エリザがつまらなそうに言った。ユニスもちょっと何かを期待していた分、あっさり終わってしまって拍子抜けしていた。

 マルクもすぐに出てきて、エリザに代わり、さらにエリザもすぐに出てきた。2人ともユニスと同じように拍子抜けしたような顔をしていた。


 そのまましばらく待つように言われ、3人は口々に「期待外れ」だの、「がっかり」だの言い合っていた。あんな感じでちゃんとギルド登録されてステータスが見れるようになるのか、子供心に心配になっていた。

 3人は知らなかったが、この時の白い箱はステータスを読み取る魔道具で、ここでられたデータがギルドカードに反映されることになるのだ。


 少し時間が経ち、受付嬢のセイアが再び部屋に入ってきた。


「お待たせしました。ギルド登録完了しましたので、ギルドカードを渡します。」


 セイアの手にはギルドカードが3枚あった。6×10cmの長方形の黒いカードだ。


「わぁっ」


 3人の目はギルドカードにくぎ付けになった。


「カードを渡した後にいろいろ説明をしますから、すぐにいろいろと触るのはダメですよ。さもないと取り返しのつかないことになりますから。絶対に説明を聞くまでおとなしくしていてくださいね。」


 女性は事前にクギをさした後、3人にギルドカードを渡した。


「他人に知られることが嫌でしたら個別に説明することも出来ますが、どうしますか?」


 ギルドは、基本的には他人の情報を別の冒険者に伝えたりはしない。世の中には自分の力や能力を秘密にしたがる人もいるし、また知られて悪用されることもあるので、そのあたりギルドは慎重だった。


「俺たちは大丈夫だよな。」

「そうね、別に秘密にすることはないわ。」

「俺もそうさ。」


 3人はお互いに能力を隠すつもりはなかったので、一緒に聞く事にした。


「では3人一緒に説明します。良く聞いててくださいね。」


 セイアはカードを手渡し、受け取った3人は顔満面に喜びを表しながらカードを眺めていた。


「ではまず表側を見てください。大きく名前が書いている方です。そこに書かれている文字があなたたちの冒険者ランクです。登録したての初心者は全員Fランクから始まるので、「F」と書かれているはずです。」


 3人が言われた通り確認すると、そこには彼らの名前と共に大きく「F」の文字が書かれていた。

 冒険者ランクはFから最高Sまである。Fはいわゆる初心者ということだ。


「ではカードを裏に向けてください。そこにあなたたちのステータスが記載されています。」


 ギルドカードの裏はステータスが表示できるようになっている。いわばステータスカードと兼用なのだ。

 3人は自分たちのステータスが見れることにワクワクしながら、カードを裏に向けた。

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