第51話 春陽社長が帰り虚しさが残る……

途中から口数も減り空気が変わりつつ気まずくなった私と春陽はるき社長は

黙々とすき焼きを口に運んでいた。


さすが高級な肉だけあって美味しすぎる。


お腹は満足に膨れ上がっているのに、なんだか心はもやもやした気分で

満たされてはいなかった。


告白どころか、告白のタイミングすら逃したみたいだ。


春陽はるき社長との距離を感じる。


春陽はるき社長にとって私は子供みたいな存在……



「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


「おう」


結局、すき焼きを食べたお礼しか言えなかった、、、。


再び私の心は憔悴しょうすいする。


そして一般常識的な言葉は私を楽な方へと逃げ道をくれたのだ。




夕食が終わると2人は肩を並べて手際よく後片付けを済ませる。



でも本当は…春陽はるき社長はこうやって母と隣り合わせで

料理や片付けを一緒にしたかったのだろうか………と思い、

気づくと私は春陽はるき社長に視線を向けていた。


私の視線に気づいたのか、同時に春陽はるき社長の視線が

こっちを見てほころんでいた。



ドキドキ胸が高鳴る。あんな優しい笑みを見たのは初めてだった。


「‥‥‥」

私は思わず視線を逸らし、手元を素早く動かす。


「ふっ」


そんな萌衣を見て春陽はるきは鼻で笑っていた。




幸せな時間も辛い時間も同じように流れている。


私と春陽はるき社長の時間にこれから先、果たして変化は

訪れるのだろうか……



それは未来、予測不可能だ……



「っじゃ、そろそろ帰るわ。っと言っても、管理人室にだけどな…」


「うん…」


私は春陽はるき社長を玄関まで見送る。


「あの、社長、今日はごちそうさまでした」


「おう。お前も鍵閉めて早く寝ろよ」


「はい」


「おやすみ」


春陽はるきは優しく萌衣の頭を二回ほど叩くと玄関を出て行った。




パタン――ーー




静かにドアが閉まるーーー。




私は春陽はるき社長の手の感触が残るポンポンされた頭に自分の手を重ね、

暫く玄関の前で突っ立っていた。




「おやすみなさい……」





時計の秒針は刻々と一定速度を保ちながら、すでに9時を回っている――ーー。





寂しさが心にポツリと残り私は虚しさを感じていた。


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