第23話 履歴書から知る接点

社長室に戻った春陽はるきはデスクの前に座ると、スーツの内ポケットから

履歴書を取出し封筒から中身を出し確認する。


〔津山萌衣 20歳〕


『津山…?』


 春陽はるきの視線は段々下の方へと移動しながら備考の箇所で止まる。


「!!」


〔母は絵本作家の栗原ユキ。本名津山雪子です。(旧姓 石倉雪子)〕と、書かれた文字を見て、春陽はるきの脳裏に淡くて甘酸っぱい初恋が蘇る。

決して、実ることがなかった初恋は別のひとと結婚して十数年経っても春陽はるきの心の中から消えることはなかった。


 結局、20歳の同窓会で葵と付き合うことになった春陽はるきはその後、すぐに葵と結婚して息子ができたが多忙な春陽はるきと葵の間に少しずつ溝ができ始め、葵は息子を連れて家を出た。結局、春陽はるきと葵は離婚し、その時に春陽はるきは養育費とは別に、葵の昔からの夢だった自分の店を持たせたのだ。葵は春陽はるきと離婚してからも週に1度の会食や遊びに出かけたりして息子にも会わせていたが、その息子も19歳の春、事故に遭って亡くなった―――ーーー。


〈……石倉雪子…。ユキ…か…〉


そして、春陽はるきは一番下の引き出しを開ける。そこには大事に

保管していた【あまのじゃく恋 作/絵 栗原ユキ】の絵本があった。


春陽はるきはそっと引き出しを閉じる。


「あの子がユキの子供…」



春陽はるきは雪子の死をどこからか風の便りで聞いて知っていた。


春陽はるきは雪子と康介が結婚し子供ができた事も知っていた。

そして当時、付き合っていた葵と春陽はるきが結婚したのはその事を

知ったすぐ後の事だった。



〈まさか、今更、ユキの子供と再会するなんてな……〉


『フッ(笑)』


春陽はるきは萌衣を思い出し、思わず

鼻で笑った。


〈ユキ…、あの子…全然、お前に似てねーじゃん。

…ったく、遺伝子もあてになんねーな。まさか、お前が送り込んだスパイなのか?

……なんて、な。――なワケねーか、、、、〉



〈なあユキ…俺にお前の子供の面倒を見ろって言ってんのか?〉

ーーーそう、春陽はるきは心の中で思い、一点を集中させて見つめていた―――ーーー。




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