第12話あまのじゃくの恋(告白)

【居酒屋・とくべぇ】


店内はザワザワしていて賑やかなテンションで盛り上がっている。

テーブル座席やカウンターには料理が並び、仕事帰りのOLやサラリーマン達が

集まって飲み合うビールは憩いのひとときとなっていた。

その顔からは幸せそうな笑顔が溢れ出している。

これが、誰でも気軽に立ち寄れる【居酒屋・とくべぇ】の人気なんだろう。


「ビール、おかわりね」


「はい」


「あ、こっちもビール」


「私はウーロンハイと枝豆」


「はい、わかりました」


スタッフ達も運び回るのに忙しそうだ。


谷野やの君もご飯の誘いなら普通に言葉で言ってくれたらいいのに…。

手なんか握ってくるから思わずドキッとしたじゃん。


私と谷野やの君は奥の座敷に向かい合わせに座り、目の前の料理を小皿に

取り分けて、空腹を満たしていた。とりあえず私はウーロン茶で谷野やの君は

ビールを頼んだ。

「ここのからあげが最高にうまいんだよ。っめー」

じゃ、私も一口…と、口に入れる。

「あ、ほんとだ。おいしい…」

ほっぺたがとろけそうだ。


私も何を勘違いしてんだか……ほんと、恥ずかしい…

手を繋がれたからっていきなり自宅に誘うワケないか……



「津山さん、飲まないの? もう、ハタチこえてんだから大丈夫っしょ」

「うん…。けど、まだ谷野やの君から色々、話 聞きたいし…」

「何が聞きたいの?」

谷野やの君はいつからこっちにきてるの?」 

「んー、津山さんとあんまり変わんないよ」

「随分、馴染んでたみたいだけど、こんな店、よく知ってたね」

私はキョロキョロと店内を見渡す。

「ああ、たまたまだよ。ここ、人気の店でインターネットにも載ってるし」

谷野やの君はアプリの検索ページを開けてスマホ画面を私に見せた。

「あ、ほんとだ…。でもさ、この時代…スマホどころか、まだ携帯電話も

なかったんじゃ…」


そういえば、なんで、普通にスマホが使えてるの?


それに……


「なんで、この時代にスマホが使えてるの?って、顔してるね」


え…?


「それに、なんで、こっちの人達が僕達に違和感なく普通に接しているのか

気になってんじゃない?」


「私の考えてることがわかるの?」


「まあね(笑)」


谷野やの君に見透かされているみたいだ。


「なんでか知りたい?」


「う…うん…」

谷野やの君のあざ笑う表情に一瞬、悪寒が走り 私はゴクリと唾を飲み込んだ。


「僕がみんなを…いや…この町を洗脳してるからだよ」


「え?」


洗脳って…


「だから、誰も僕達が未来から来たなんて思ってないから安心して、津山さん」


嘘でしょ…。


「ほんとだよ」


え? また、私の心を……。



「石倉雪子ちゃんって君のお母さんになる人だよね。そして、3年2組の津山康介君がキミのお父さんだ」

「え…」谷野やの君は全て知っている―――ーーー。

「言っとくけどキミがどう頑張っても、石倉雪子ちゃんと藤城春陽ふじしろはるき君は一緒にはならないよ」

「え? …ねぇ、谷野やの君はさ、あの二人がどういう人生を辿るのか

知ってるの?」

「もし、仮に僕が知っていたとしてもキミには教えないよ」

「え、なんで。さっきは全部教えてあげるって言ったよね」

「そうだっけ?」

「あ、もう、ずるいなあ。じゃあさ、私の未来ってどうなってるの?」

「え…」

「だってさ、谷野やの君はさ、私が来た未来の5年先から来たんでしょ」

「それ聞いてどうするの?」

「…どうって…別に…。ただ、どんな風になってるのか気になるじゃん」

「もしもさ、最悪な未来でも聞きたい?」

「…いや、それは…」

「だったらさ、聞かない方がいんじゃない」

「まあ…そうなんだけど…」

「キミはさ…なんで過去に来たの?」

「え、わからない…」

「キミはどうしたいの? 未来を変えたいの?」

「それも…わからない」

「過去を変えれば未来も変ってキミの存在もなくなる」

「わかってるよ、そんなことくらい。でも、私がお母さんの過去に来たことには

何か意味があると思うんだ…」

「ふっふっ」

一瞬、谷野やの君の不気味に鼻で笑う視線が私の目に入り込んできた。


え? なに? その笑いは?


「ほんとにキミは鈍感だよね。もしかして自分でこっちの世界に

来たと思ってたの?」


え?


ま、まさか…


「ねぇ、谷野やの君はさ…現世で小学校の先生になるって夢、叶えたの?」


「……!?」


一瞬、谷野君の表情が変わった。


「そんなもの、高校の時に終わってるよ」


え!?


「じゃ、今…何してるの?」

「発明家って言った方がいいかな…。まだ、試作段階だけどさ…。

2回使って2回とも失敗してるし…。僕的には自分の過去に戻るつもり

だったんだけど…」

「ま…まさか…」

「その、まさかだよ」

「でも、どうやって?」

「キミさ、引っ越しの時に違和感 感じなかった?」

「ああ、確か、キレイに配置されてるなあ…とは思ってたけど」

「実は僕、あそこにいたんだ」

「え?」



うそ…マジ?


「なんで?」


「僕、君に言い忘れたことがあって…。中学卒業するまでずっと

言えなかったんだ」


「え……」


「高校が別々になって気づいたんだよね」


「……」


「僕、ずっと津山さんのことが好きだったんだ―――ーー」



谷野やの君―――ーーーー。


私は谷野やの君の気持ちに全然気づかなかった。


私は谷野やの君を一人の男として見た事なんて一度もなかった―――ーーー。


だけど、何だろ…今は胸がドキドキ高鳴っている。


懐かしい胸のトキメキだ。


「………」



私は赤く火照った顔をそむけ、まともに谷野やの君の顔を見ることができなかった。







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