第5話 あまのじゃくの恋 (~母からの手紙~)

Dear 萌衣へ


この手紙を読んでいる頃、萌衣は20ハタチになっているのかな。

萌衣、20ハタチのお誕生日おめでとう。

一緒に祝ってあげられなくてごめんね。


萌衣は今、どんな仕事をしているのかな?

萌衣の夢はなんだろう?


萌衣の夢もどんな仕事をしてみたいのかも、ゆっくりと聞いて

あげれなくてごめんね。


私はそんなに料理は上手じゃなかったけど、私が作ったご飯を

食べてくれてありがとう。私は仕事に没頭すると周りのことが

見えなくて、いつも萌衣には寂しい思いをさせてしまっていたと

思います。

家事一般、生活の事、何も教えてあげれなくてごめんなさい。


私はね、本当は絵本作家になんかなりたくなかったのよ。

実は、好きな人のお嫁さんになりたかったの。

でも、私は好きな人に好きだって言えなかったんだ。

好きな人の前ではいつも自分の気持ちとは反対のことを

してしまってね。結局、想いを伝えられないまま、その人とは

それっきりになってしまったの。

康介さんはそんな私を丸ごと受け止めてくれて「結婚しよう」って

言ってくれたの。だけど、康介さんと結婚しても、心の奥には彼の

存在がいて、消えることはなかったわ。でもね、萌衣が産まれて、

日々の生活が穏やかで、とても充実していたことは本当よ。

萌衣は夜泣きが激しくてね、そんな時、本屋さんで1冊の絵本を買って

萌衣に読んであげたの。そしたら萌衣ってば、すぐにぐっすりと

眠ってくれたの。萌衣の寝顔を見てると可愛くてね、愛しくて…

それから私は色んな絵本を買うようになったの。こんな可愛い寝顔が

見れるならって、私も絵本を描いてみようと思ったのが絵本作家に

なったきっかけです。だから、萌衣、今はまだやりたいことがなくても

夢がなくても、何かのきっかけさえあれば きっと萌衣にも見つかるはずだから

前を向いて自立した女になってください。

そして、もしもこの先、本気で誰かを好きになるようなことがあれば

好きな人に「好きです」って言える子になって欲しい。

それがお母さんからのお願いです。


それと、もう一つ、康介さんが再婚しても許してあげてください。



その人のことをお母さんだと思ってたくさん甘えてあげてね。

                        


母より―――



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