第13話あまのじゃくの恋(瞼を開けると、そこはカラオケボックだった)


「……答えなんていらないよ。だって、もう僕はーーー。それにキミは―――ーーー」


周りの賑やかな雑音で谷野やの君が言った言葉を聞き逃した―――。



その後、急に固い物で頭を打ちつけられたような痛みをズキズキと感じ

衝撃が走った―――……

  

頭が……痛い……クラクラする…

見渡す壁や天井は波打つようにぼやけて見える。なに…これは…

おかしい…私の目が変なの? 

次第に耳鳴りも聞こえ、遠くなる雑音の声。

ウーロン茶で酔うはずがないのに…私の体に異変が起きている…


それとも、この世界に何かが起きているの?


ドクン・ドクン…急に鼓動が早くなっていく…


あ、頭が…

 

壊れそうだ…


私はその痛みに耐えきれず、手の平を押し当てて後頭部を押さえる。


「テーブルにつかまって!」

突然、谷野やの君の声が聞こえた。


「え?」な…なに?


振動を感じたのはその直後だったーーー。


ガタ、ゴト、ガタ、ゴト……カタン―――ーーー


私は亀みたいに丸くなりテーブルにしがみつく。


「な…なに? 地震?」

「じ…地震だーー」

慌てる客達に店員さん達は冷静に支持を送っている。

「取りあえず、落ち着いて、避難してください」

「テーブルの下に隠れてください」

店員さん達の声にパニック状態の客達は慌てるように店を出て行こうとしたり、

冷静な客はテーブルの下に身をひそめたりしている。


ガタ、ゴトン――。ガタ、ゴトン――。


強い揺れがきたーーー。え? なに、…地震?


強い揺れは暫く続いた後、ピタッとんだ。



私は強い揺れを感じた時、目を開けていられなくて、ずっと瞼を閉じていた。

ただ、早くその揺れが治まることだけを願っていた。


まさか、その場所が変わっていることなんて思ってもみなかったのだ。



強い揺れが止まった後、ザワついた人の声が聞こえなくなっていたーーー。





そのかわり、演奏の音がする―――ーーー。


なんだ? 音楽の音がする―――ーーーー。


私はゆっくりとを開ける―――――ーーー


そこは【居酒屋・とくべぇ】ではなく、ガラリと雰囲気が変わった

個室部屋だった。


〈ここは…。そうだ、私、昔、友達と来た覚えがある〉


音響機材があって、制服を着た女の子が歌っているーーー。


この状況からして、ここはカラオケボックスだ。


でも、全然知らない曲だ……。

ふと、私が隣に視線を向けると、谷野やの君がいる。


あれ? でも…谷野やの君、制服着てる。


そして、私は改めて自分が着ている格好を確認する。

制服を着ているみたいだ。なんで?



この部屋にいるのは私と谷野やの君を入れて、全部で7人。

2人を除いて5人は制服を着ている。

このメンバーってどういう仲間なんだろう……。


春陽はるき君も、一緒に歌おうよ」

マイクを手にしている女の子が春陽はるきの手を取り機材の前まで連れていく。

「俺は別にいいよ…」

そう言いながらも、女の子に強引にマイクを渡され春陽はるきは歌う。


しかも、歌、めちゃくちゃ上手うまいし……


え? 春陽はるき? 


まさか……


「彼が高校生になった藤城春陽ふじしろはるきだよ」

「え?」

うそ…めっちゃイケメンになってる。ドキッ

「その隣で歌ってるのが橋本葵」

「え…? あの葵ちゃん?」

「ーで、あそこに一人でいるのが石倉雪子。その前が津山康介と吉川千恵子だ」


うそ…マジか……


「――で、僕達は春陽はるきと雪子のクラスメートって設定だ」


「え…。じゃ、あの地震が起きた時、またタイムスリップしたってこと?」


「さっきさ、言い忘れてたんだけど。引っ越しの時にさ、君の部屋に異次元式タイマーを落としてきたんだよね」


「え? なんで…そんなとこに…」


「僕、未来から来てんじゃん。帰る道がわかんなくなったら困ると思って…。

まあ、君の部屋を途中下車に設定したってワケだ。君の部屋のタイマーが0になったら別の場所に飛ばされる仕組みになってるんだ」


え……


「え…じゃ、何年に合わせてるかわかんないの?」


「っていうか…あの日、僕がタイマーを合わせてたらさ君が寝ぼけて僕の手に

触れるからタイマーの西暦が狂ったんじゃないなかなあ…」


うそ…そんな、全然覚えてないし…


「でも、まあ、少しづつ未来に近づいているから安心して」


安心できるわけないでしょ…


「じゃ…後、何回くらいタイムスリップするの?」


「……?」


〈それも、覚えてないのかい…〉


「でも…過去に連れて来たのは僕のせいだから…。絶対、僕から離れないでね。

必ず君を現世に連れて帰るから…」


谷野やの君……。


「次は谷野やの萌衣めいな」

と、春陽はるき谷野やのにマイクを渡す。


「え? 僕?」

「私?」

「頑張ってね」

葵が萌衣にマイクを渡す。

「ああ、どうも」

しかも、普通に友達としてしゃべってるし…


勝手にメロディが流れてきた。


〈え…こんな曲、全然知らないよ…〉



だけど、私も谷野やの君も普通に歌っていた。


え? 私、歌ってる…。声が出てる…。不思議な感覚がする。


ふと、私が谷野やの君に視線を向けると、谷野やの君は

優しい笑みを浮かべてこっちを見ていた。




私達は違和感などないくらいにその世界に馴染んでいた―――ーー。




多分…これが…谷野やの君が言っていた洗脳―――ーーー。




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