第34話 寝顔
「ん?」
チカチカと光るパソコンの電源ランプに気づいた
デスクへ向かう。
させたつもりでいたが、間違って再起動させていたことに気づかず、
疲れ切っていた萌衣はソファーに横になりそのまま知らず知らずのうちに
眠ってしまっていたのだった。
電源を落とす。その後、視線はソファーで眠る萌衣に向けられ、
ゆっくりと歩み寄っていく。
無邪気に眠るその寝顔が雪子と重なって見えた
少しずつ距離を縮めていく。
その唇が触れる寸前で
留まった瞬間、『んー』と萌衣が目を開けた。
〈え!? は…
目の前に
パチンとデコピンを一発打ち放った。
「って…なにす…」
あまりにも痛い仕打ちに思わず萌衣は両手で額を押さえた。
「そこで寝るな。風邪ひくだろ」
「ああ、すみません」
萌衣はゆっくりと体を起こす。
〈ビックリしたあああ…。一瞬、キスされたのかと思った…。でも…
触れた感触もないし、やっぱ気のせいか……〉
「やっと仕事が終わってホッとしたら眠たくなって横になってたら
そのまま寝てしまってたんだ」
「寝るな!」
「…すみません」
〈そんなに怒らなくても、、、、〉
「それに時間がかかりすぎだ。残業手当なんて出んぞ」
「わかってますよ」
「いいかげん切り上げて帰ればよかっただろ」
「でも、今日の仕事は今日のうちに済ませたかったから」
萌衣の視線が柱時計に向くと、時計の針は12時を回っている。
「あ、でも、もう明日ですけどね」
「帰るぞ。支度しろ。送る」
「え、あ、はい」
萌衣は慌ててソファーから下りると、デスクへ戻り荷物をまとめる。
「あの、社長…。ちゃんと転送できてました?」
「ああ。オッケイだ」
「そうですか。よかったです(笑)」
「早くしろ」
「あ、はい」
窓越しに見える夜景は色鮮やかなネオンは消え、黒一色の窓に薄っすらと
映る2人のシルエットはドアの方向に向かっていた。
そして、社長室の明かりが消えた後、静かに出て行く足音と共にゆっくりと
ドアが閉まる音がした。
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