第9話 あまのじゃくの恋 (母の過去へタイムスリップ)
廊下を歩く2つの足音が交互に交わっている。
私の前を歩く痩せ型で眼鏡をかけた男性は誰だろうか?
結構、年配に見えるが50代前半くらいだろうか…。
それにしても、ここはどこ?
建物内ってことははわかるが…
少し古びてキズもあるけど、その場所に
私は見覚えがあった。
私はキョロキョロと辺りを見渡していた。
「そんなに学校が珍しいですか?」
「え?」
学校…? でも、なんで?
確か、昨日は…新しい新居に引っ越しをして、それから…
部屋の片づけをしてたんだ。その後、懐かしい絵本を見つけて、
つい読んでいたらウトウト眠ってしまったんだっけ……。
「久しぶりの小学校はどうですか?」
「え、ああ…」私は返答に詰まる。
え、小学校…。 ここ、小学校なの?
でも、私の体は縮んでないし、着ている服も…。
私は自分の格好に視線を向け凝固する。
スーツ?
なんで、私、スーツを着てるの?
もしかして、これは夢なの?
でも、夢にしてはこんなリアルな光景……
小学校の建物は私がいた頃に比べると少し
古びている気がした。
―――ーーーま、まさか、、、
「あの、今って何年ですか?」
「え? 津山さん、大丈夫ですか」
男性はこっちに視線を向けて驚いた表情をしていた。
「はっはっ…ええ、まあ…」
とりあえず私は笑ってごまかす。
「1987年ですよ」
「え? 19……」
え――ーーー? 1987年?
―――――って、30年以上も前じゃん。え、なんで?
『ーん?』
男性は萌衣の不自然な行動に唖然とする。
「はっはっはっ…」
私は愛想笑いをする。男性は私から視線を逸らし正面を向く。
――――ということは……
【1年1組】
2人の足音は1年1組の教室の前で立ち止まる。
「こちらが津山さんが受け持つクラスです」
「え?」
私は男性に誘導され教室に連れてこられた。
目の前には私の知らない子供達が座ってこっちをジッと見ている。
―――やっぱりそうだ。
私は30年以上も前にタイムスリップしたんだーーー。
でも、なんで?
「えっと、紹介します。先週産休に入った三宅先生の代わりに来られた
津山萌衣先生です」
え? 私、小学校の先生になったの?
私は子供達を目の前にして呆然と立ち尽くしていた。
「津山先生?」
「え…?」
私は男性に視線を向け、キョトンとした顔で呆気にとられていた。
「子供達に自己紹介をお願いします」
「あ、はい。津山…萌衣です。宜しくお願いします」
――って、私も自己紹介してるし…、、、、
その時、私は特別強力な視線を感じていた。
〈つやま? 康ちゃんと同じ苗字だ…〉
一人の女の子がジッとこっちに視線を向けている。
え、なに……? (笑)なんか、視線を感じるんですけど……。
私は彼女と目が合ったーーー。
「よろしくー(笑)津山先生ー」
数人の子供達に言われて、私は一応愛想よく笑う。
「よろしくね(笑)」
「それでは津山先生、宜しくお願いしますね」
「はい」
「教頭先生、またねー」
一人の男子生徒に言われ、教頭先生は無表情のまま教室を出て行った。
あの人は教頭先生だったのか……。
しかし、愛想がない教頭先生だなあ…。
「先生、出席取らねーの?」
その子は、いかにも他の男の子とはどこか違う雰囲気が漂う感じの男の子だった。
着ている服もオシャレな服を着ている。今でいうハイスペック男子。
頭もよさそうな男の子だ。
「ああ、そうでしたね(笑)」
と、愛想笑いを浮かべながら私は出席簿を開ける。
え? 一瞬、私の目は凝固した。
石倉雪子⁻—。その名前が目に飛び込んできたからだ。
『石倉』は母の旧姓だ。でも、石倉なんて苗字は珍しくもない。
世の中には石倉雪子なんて同姓同名、3人はいるって聞くし…。
もしも、これがタイムスリップなら私は母がいた子供の頃に
タイムスリップしたことになる。
―ーー確かめたい…。石倉雪子ちゃんが本当に母なのか…。
石倉雪子ちゃんは…どの子?
「大丈夫ー 先生ー(笑)」
「ああ。ごめん、ごめん。出席をとります。
「はい」
なんか、ドキドキしてきた。少し手の平が汗ばんだみたい。
「安西君」
「はーい」
「い…石倉さん…」
「はい」
中央の前から3列目の女の子が返事をした。
彼女は髪の毛を2つ結びにして、色白の綺麗な女の子だった。
そして、彼女はさっき私にずっと視線を向けていた子だった。
あの子が石倉雪子ちゃん。未来の私のお母さん…
ということは私は母の過去にタイムスリップしたんだ。
私は出席簿をどんどんと読み上げてく。
「田岡君」
「はい」
「西野さん」
「はい」
「野々山さん」
「はい」
「
「はい」
「藤城君」
「ハイ」
え…ハイスペック男子。
彼が藤城君…。下の名前は…私は出席簿の名前を確認する。
いかにも女子に人気が高そうな顔立のイケメンボーイだわ。
ザワザワと女子達は
その時、私の目に雪子ちゃんの顔が映る。
雪子ちゃんは頬を赤くしチラチラと
え、これは…もしや…?
こういう感は鋭い方だと思う。
間違いない。母が好きだった男の子は
休み時間になると、女子達に囲まれ、まさにハーレム王子って感じだ。
雪子ちゃんは群がる女子達の中に入っていけず、ずっと不機嫌な顔をしていた。
こういう子、漫画の中には必ず出てくるよね。
そうそう、漫画でいうと
主人公と脇役…みたいな…。
でも、漫画なら必ずそういう二人が
結ばれてハッピーエンドになるんだけどな…。
だけど、現実は…未来の二人は結ばれない
母は そんな前からずっと
もしかして私が母の過去に来たことには何か意味があるのかも…。
母が言えなかった想いを私が母の代わりに
だけど、この世界にはまだ母は健在しているわけだし…
それに、そんなことをしたら未来は変わらないだろうか?
私の存在も未来で消えてしまうんじゃ…
仮に雪子ちゃん(母)の気持ちを
雪子ちゃん(母)がフラれるってこともありえるわけだし…。
まあ、とりあえず様子を見ることにしよう。
私がなぜ母の過去に来てしまった謎も解明していかないといけないし…。
問題は山済みにある……トホホホ…
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