第42話 萌衣は春陽の亡き息子の初恋相手だった

春陽はるきは会社に行く前にタワーマンションの最上階にある

自宅マンションへ戻ると、すぐに浴室へ向かい全身をシャワーで

洗い流していた。

天を仰ぐ春陽はるきの顔から身体にかけて温かい水飛沫みずしぶき

滴り流れている。

洗い終えた身体と髪からは石鹸の香りがほどよく漂っていた。



頭から垂れ下がるタオルでシャカシャカと頭を拭きながら

春陽はるきがダイニングリビングに入ってきた。


ダイニングリビングはダイニングキッチンとリビングが吹き抜けに繋がっていて

約30畳くらいの広さがある。防音装置もセキリュティ設備もいきとどいていて解放感

溢れる快適な部屋はまさに成功者にしか手にすることができない部屋といえる。


最上階から見晴らす街並みは街も人も全ての物が春陽はるきの視界には

ちっぽけに見えていた。常にトップを歩き続けている春陽はるきはいつの

間にか高雅な生活に慣れ過ぎていたのだった。



春陽はるきの動作がシェルフラックの前で立ち止まる。


「……ん?」


そこには数枚の写真が飾られていた。どの写真にも同じ男の子が映っている。


男の子の幼い頃から思春期~19歳までの成長記録の写真である。



「‥‥‥」



春陽はるきの視線が一枚の写真立てに向くと、次第にその手は写真立てを

目指して一直線に伸びていく。



春陽はるきが手にした写真立てには息子が最後に見せた笑顔の写真が

写っていた。



「翔流…お前が好きだった初恋の彼女が

今、俺の秘書をしているんだ。奮闘しながらもよく頑張ってるよ…」




「お前が生きてりゃ…な……」

   


春陽はるきの口から溜息が零れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る