第55話 お彼岸に帰ってきた雪子と翔流『Love Storyを君に……』

同窓会からいつの間にか電光石火のように月日は流れ、私は21歳目の誕生日さえも忘れ、いつの間に過ぎていた。


そして、新しい年を迎え、季節は3月―――ーー。


ピンク色をした桜の花びらが目立つようになってきた。



私と春陽はるき社長はいまだ変わらず平行線状を同じ間隔をあけて

歩いている社長と秘書の関係。


告白のタイミングを逃し続けている私は『今日こそは…』と、

毎日 思っているが、春陽はるき社長にまったく隙がなく

何の進展もないまま今日まで来たということだ。


たまに一緒にご飯を食べることはあるけど、親子ほどの歳の差が

互いに次のハードルを越えられないでいた。

春陽はるき社長が私のことをどう思っているかは分からないが、

私の想いは一方通行のまま、想いがつのるばかりである。



今、私は春陽はるき社長が運転する車の助手席に乗っている。


いつもは後部座席に乗るが、今日は助手席に乗ってみた。


「お前が助手席に乗るなんてな、今日はどういう心境だ?」


春陽はるきは『ふっ』とほころんだ笑みを見せ鼻で笑う。


「別にいいでしょ。助手席から見る眺めはどん感じかなって思っただけだよ」


私は口をとがらせて言ってみせた。


相変わらず春陽はるき社長は上から目線で笑っている。


でも、助手席から見る春陽はるき社長の横顔がイケメンすぎて

めっちゃカッコいい…… 


後部座席から見る後ろ姿とはまた少し違う……


「ーーで? そこから見える眺めはどうだ?」


見透かされてる? 春陽はるき社長はたまに意地悪だ。


「――ん? 別に…あんまり変わんないや」


相当、私もひねくれている。

やっぱり、あまのじゃくの子はあまのじゃくなんだろうか……。



車は海岸通りへ入って行く、、、何十分経ったのだろう…

でも、かなりの距離を走行しているのは確かだ。



後部座席には途中で花屋に立ち寄って買った花束が2つ……。


私は横目でその花束に視線を向ける。


だいたい向かっている先は見当がつく。でも、かなり遠回りしている。


もしかして、2人でいる時間を作ってくれているのだろうか?


……いや、春陽はるき社長に限ってそんなはずはない。




少し開けた窓ガラスから差し込んできた風が気持ちがいい…。


一定速度を保ちながら安全に運転する春陽はるき社長の車は

どこの座席に座っても居心地がいい、私の落ち着く場所だ。


なんだか眠たくなってきた、、、そのうち私の瞼が次第に落ちていった。


完全に眠りについた萌衣の寝顔を春陽はるきが横目で見ている。

「……」

春陽はるきは何の飾り気もない無防備にリラックスして眠る萌衣を

愛しく想い気づけば「ふっ」とほこんだ笑みが零れていた。

「…!?」

我に戻った春陽はるきは赤く火照った頬を隠すように手の甲を頬に当てて、

正面を向き直す。


車の走行音だけが静かに流れていたーーー。




春陽はるきが運転する車は墓地が見える駐車場へと入って行き、

停車した。


「おい、着いたぞ。起きろ」


遠くで春陽はるき社長の声が聞こえる。


「はっ!!」


春陽はるき社長!!


私の目がパチッと大きく見開いた。


「ヨダレの跡がついてるぞ」

真顔で春陽はるきが言った。


「え、え、え、え……」


私は慌てふためきながら動揺していた。


「ジョーダンだ。バーカ」


「……」

〈……う、、、。春陽(はるき)社長はホント性格悪っ〉


「降りろ」


「……うん」


私と春陽はるき社長は車から降りて墓地が見える方へと並んで歩く。


春陽はるき社長の手には花束が2つ。

数ある中の花から店員に聞きながら選びぬかれた花たちとはいえ、

春陽はるき社長にしては地味な花束である。

まあ、お供え用だから仕方ない。


毎年、父と千恵子さんと墓参りに来ていたけど、お彼岸の日にまでは

来たことはなかった。多分、父と千恵子さんはお彼岸の日も欠かさず

来ていたのだろう……。


私と春陽はるき社長が母のお墓に来た時にはすでに花が生けられていて

消えたばかりの跡が残る線香が3本ずつ両脇の線香立てに突っ立っていた。



初めて母のお墓に春陽はるき社長と来た。


春陽はるき社長は花束を奉納すると、手を合わせていた。母と何を話しているのだろう。

私は気になりながらでも、その隣で同じように手を合わせる。



私は横目でチラリと春陽はるき社長に視線を向けていた。




母の墓参りが終わると、私と春陽はるき社長は別の場所へと移動する。


翔流かけるが死んで、俺さ…認めたくなくて、ワザとお彼岸やお盆、

正月にも仕事してた」



「じゃ、今日はなんでお墓参りに来る気になったんですか?」


「さあな、、、」

春陽はるき社長はその後に続く言葉をグッと飲み込み心にしまい込んだ。


でも、なんとなくわかる気がする……。私も同じだった、、、、


残された人間は辛いんだよね……



翔流かける君のお墓には花と線香が立てられていた。


多分、葵さんだーーーーー 宮川さんと一緒に来たのかな。


私は葵さん達と春陽はるき社長がバッタリと遭遇しなくて

良かったと思った。



春陽はるき翔流かけるが眠るお墓に花束をお供えすると、

線香に火をつけ線香立てに立てる。


煙は空にどんどん舞上がっていく――――――ーーー





『萌衣、お線香の奇跡って知っている?』


誰かの声が耳元で囁くように聞こえてきた。

とても優しくて懐かしい声だった。


幼稚園の時におばあちゃんが病気で亡くなった。

それは49日が終わり、お墓に父が線香を立てた時に泣いている私の横で

母が言った言葉だった―――ーー。


『おせんこうのキセキって?』

私はキョトンとした顔で母の顔を見ていた。

『うん…。ほら煙が昇っていってるでしょ?』

『うん』

『死んだ人はね、あの煙に乗ってあの世に行くんだよ』

『え? じゃ、みちしるべだね』

『うん、そうだね。だから、お彼岸やお盆はお墓参りをしてお線香を立てるの。

そうすると、亡くなった人はね、あの煙に乗って帰ってくるんだよ』

『え、ホントに? でも、たましいだけじゃみえないね』

『そうだね…』

『かえってきたときくらい、みえたらいいのにね』

『うん…そうだね(笑)』


そうやって、母は笑っていた―――ーーー。



ねぇ、お母さん……今ならあの時の言葉がわかるよ。


もしも、本当に奇跡があるのなら母と翔流君に会いたい、、、


今もこの煙に乗って帰って来てるの?




その時だった―――ーーー




線香の煙は青空へどんどん広がり、舞い上がっていった。それは、次第に線を帯びた道筋へと変わっていった。


ーーー奇跡だ。



決して人間には見ることができない故人の姿。


だけど、萌衣と春陽はるきの目にはその姿、形がくっきりと映っていた。




「え?」


風が煙を掻き消していく。人影は2人いたーーー。


「萌衣……」

「萌衣ちゃん……」


私の名前を呼ぶ男女の声がする。


女性の声は聞き覚えのある声だった。


煙が完全に消え、出てきた2人の姿に私も春陽はるき社長も驚いていた。


目の前に母と翔流君がいたからだ。



信じられない…奇跡が起きた―――――ーーー。


「ユキ…翔流かける…」


春陽はるきが呟いた。


「ただいま…ハル…」

「お帰り…ユキ…」


「ただいま、、萌衣ちゃん…。僕の名前は藤城翔流だよーーー」


「おかえり、、、翔流かける君ーーー」



これは夢なの? それとも、現実?


夢でもいい、、、夢でもいいから、もう少しだけ…神様お願い、、、


私は翔流かける君に聞きたいことが沢山ある。



だから、夢ならもう少しだけ消えないでーーー。




私は驚きと同時に喜びが心から溢れ出していたーーー。


















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