第47話 秘密

藤城コーポレーションの表札を抜け社内へ入って萌衣がエレベーターの前まで

行くと、ちょうど下りてきたエレベーターの扉が開き数名の社員が出てきた。

入れ違いに萌衣がエレベーターへと乗り込む。


萌衣の人差し指が【閉】ボタンを押すと扉は閉まり始め、

3分の2ほど閉じた所で男の手が入り込んできてピタッと止まり、

エレベーターの扉は自力で開けられ男が入り込んできた。

「ふぅ…」

春陽(はるき)である。


「セーフ」


「社…社長、、、」


「おお」


エレベーターのドアが閉まり上昇していく。



萌衣と春陽はるきは程よい間隔をあけて立つ。


「お前は今頃 出勤か」

「社長こそ、今日は遅いですね」



「……」



再び沈黙になる。


春陽はるき社長からシャンプーの香りが

漂ってきた。


〈この香りは…ジャスミンの香り、、、ああ、クラクラしそうだ…〉




「ああ社長、そういえば商談はどうでしたか?」


「その事なら大丈夫だ。無事にプロジェクトも続行できる」

春陽はるきは萌衣から視線を背け顔を手で塞ぐ素振りをする。

その脳裏には今朝まで一緒にいた田処社長が浮かんでいた。


「そうですか…よかった…」


その後、春陽はるきは青ざめた顔をすると、肩からゾっと震えがきた。


「社長? 顔色悪いですけど大丈夫ですか?」


萌衣が心配そうに春陽はるきを覗き込む。


「ああ、大丈夫だ…」


「あの…今日は接待もないですし、仕事終わったらどっか食べにいきませんか?」


私は思い切って春陽はるき社長を誘ってみた…


「……」


春陽はるきは真顔で黙ったまま、スーツの内ポケットでブルブル震えるマナーモードの震音に耐え切れず、スマホをポケットから取り出し確認する。

「……」

メールは田処からの食事の誘いだった。

それを見た瞬間、春陽はるきの体は拒否反応を起こし、再びブルッと悪寒が走った。


そして、エレベーターは社長室がある階に到達し、その扉が開いた。


「あ、ダメならいいですよ。無理ならほんとに…気にしないでください」


それは私の片足がエレベーターを出たとこだった。


春陽はるきのポケットから再び鳴る震音を掻き消すように春陽はるき

口を開いた。


「いいだろう…」


「え? ほんとですか?」


「ああ…」


嬉しさのあまりエレベーターを降りた弾みで足がもつれフラついた私は

春陽はるき社長の腕に支えられた。


「……」

かあああああ、、、、、

心臓がヤバいくらいドキドキ高鳴っている。


「大丈夫か…気をつけろ」


「ああ、ありがとうございます…」


バランスを崩した体を立て直した私は春陽はるき社長から離れる。



「あ、社長は何が食べたいですか?」


「なんでもいい…お前にまかせる」


「じゃ…私、店予約しときますね」


「ああ…」


萌衣はルンルンで春陽はるきの先を歩く。


ブーブー。春陽はるきの内ポケットに入ったスマホからマナーモードの震音が数回鳴っていた。


「‥‥‥」



春陽はるきがLINEメールを開くと、全て田処からのメールだった。


【藤城君、今日 飲みに行きませんか?】


【藤城君、例のプロジェクトのことで打ち合わせがしたいんだが今日はダメかな?】


【藤城君、いい焼酎もらったからさ、仕事終わったら一緒に飲まない? 

今夜、藤城君のマンションに行ってもいいかな?】



ぶるるるる…。


〈さぶっ……。ダメでしょ…〉



春陽〈はるき〉は再び肩からビリッと静電気が走ったような寒気を感じていた。


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