第40話 長い長い夜……
私は料亭松戸屋の廊下を懸命に走っていた。
時間は確実に流れているのに私の心は巻かれたネジがゆっくりと次第に
止まっていくようだ。
もう少しだけの辛抱だ。
ここを出るまではどうにか動いていて…まだ止まらないで……
私は止まりそうな心にそう願いをかける……
私は後ろを振り返ることなく走り続けていた。
振り返えれば、
『さっさと行け!!』
あんなに声を張り上げて強く言われたのは初めてだっただけに苦しい。
だけど出口は意外と長く、私の足並みはペースが落ちていきゆっくりと
思うように進んではくれない。
その後、庭先を駆けて行った私は【料亭 松戸屋】の表札を抜けると、
縦列駐車している黒の乗用車へと乗り込んだのだった。
一気に肩の力が抜け、私は窓際に頭を預け呆然と夜景を眺めていた。
「大丈夫ですか?」
「…はい、、、」
走行音と運転手さんの声がするだけで、その後のことは殆んど覚えてはなかった。
運転手さんは何か話をしてくれているみたいだったけど、微かに耳の奥に聞こえる
程度で内容までは聞いてはいなかった。
運転手は萌衣をマンションに送り届けるとすぐに車を走らせて戻って行った。
朝方、ソファーベットで寝ていた私は目を覚ます。
ちゃんとパジャマを着ていた。
私は途切れ途切れの記憶を繋ぎ合わせてみた。
運転手さんに送ってもらったことはなんとなく覚えているが、
その後のことが記憶になかった。
〈パジャマを着てるということはお風呂には入ったってこと
なんだだろうけど…〉
まだ、頭の中が呆然としている。
〈あの後、商談はうまくいったのだろうか……〉
私は
「はあ…」
溜息が一つ零れた。
どんな顔で
また、迷惑かけちゃった……
心は憂鬱だ。でも、仕事に行かなきゃ…
「よし、気合いだ」
仕事モードに切り替えた私はパンパンと頬を叩き気合を入れる。
そして、すぐに支度をして部屋を出た―――ーーー。
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