第3話 オタクって、悪いことなんですか?
「猪俣さん! 好きです! 僕と付き合ってください!」
放課後、本当に塚本は帰りのホームルームが終わった途端、クラスの中で猪俣に好きと告白した。
「は? 死ねば?」
もちろん、塚本は猪俣にフラれた。当然の結果だ。リア充の猪俣がキモオタの塚本を簡単にオッケーを出すとは思えない。
「おい、塚本くん。なに1軍の猪俣さんに告ってんだよ~? 豚と人間が付き合えるはずないじゃないか~」
ゲラゲラと笑いながら、安藤と佐村がやってきて、佐村がそう塚本に話しかけていた。
「マジでキモい。めっちゃ不愉快なんですけど」
塚本をキッと睨み付け、猪俣は日下部と共に、他の2軍の女子と数名で教室を出ていった。
「おい、塚本。ちょっと俺たちと遊ぼうや。付き合えよ……!」
きっと、佐村は正義のヒーローだと思い込んで、猪俣を不快な思いをさせた塚本を報復させようとしているのだろう。
佐村は、塚本の尻に蹴りを入れ、蹴られた反動で、塚本は顔に黒板を思いっきりぶつけていた。
そしてうつ伏せで教室の床に倒れた塚本の制服の上着の襟をを掴んで、無理矢理起こし、塚本をどこかに連行して行った。
塚本は、鼻から血を出して、そして涙と鼻血で顔はぐちゃぐちゃに。そしてメガネにはヒビが入っているように見えた。
今の出来事に、クラスは静まり返ったが、塚本や安藤たちが出ていくと、すぐにいつもの教室の雰囲気に戻り、部活の見学や、ゲーセンに寄ろうなど、放課後の日程を決めていて、塚本の事を助けよう、哀れむ声は一切なく、今の事はなかったことにされていた。
これはクラスメイトの判断が正しい。
4軍の塚本を助けたって、俺たちには何の得はない。かえって損をする。
1軍に逆らったとして、かえって助けた自分が塚本と一緒にいじめられる結果を招く。
塚本のあんな見た目のせいで、助けよう、友達になろうと思う奴は一生出てこないはずだ。
いじめの標的が、塚本に向けられていれば、他の奴らは危害は自分に及ばないだろう。それを思って誰も助けようとは思わないのだ。
だから俺も4軍だが、全く安藤たちが絡んで来ないわけだ。
「おい。松原。一緒に部活見学にでも行かないか?」
ほとぼりが冷めたときに、村田が鞄を背負って俺に部活見学の誘いをしてきた。
部活か……。
卓球はやりたいと思わないし、また違う運動部にでも入ってみるのも悪くないかもしれないが。
「……遠慮しておく。菜摘が来るかもしれないしな」
きっと俺にくっつこうと、絶対にこの教室にやって来るはずだ。
俺が村田と一緒に部活見学なんかしていたら、菜摘は俺を探そうと辺りをふらつき回るだろう。勝手にふらついて、勝手に迷子になるのも、俺は後で面倒な事になる。マイペースに校内を歩き、そして学校外に出て、都内をずっとさ迷い続け、迷子になるのは目に見えている。
「そうか。なら俺は卓球部に行ってみるかな。松宮さんと一緒に来るなら、デートとして来てもいいぞ。そう言うことで、じゃあな松原」
「……おう」
俺は村田と別れて、少なくなった教室で菜摘を待つことにした。
ホームルームが長引いているのか、学校終了のチャイムが鳴って結構時間が経っているが、一向に現れる事はなかった。
自分の席に座り、俺は菜摘が来るまで、頬杖をついて教室の様子を見渡していると、ずっとスマホをいじっている、4軍の木村がまだ席に座っていた。
あいつは一体スマホで何をしているのだろうか。
ずっと1人でいるので、友達と一緒にアプリでトークをしているとは思えない。
幼い顔つきで、明るく振る舞っていれば、木村も普通に1軍にいられたはずだ。
「……ねえ、松原君」
そう思って木村を見ていると、確か2軍の楠木、渡邉だったはずの女子が、俺に心配そうに話しかけてきた。
全く面識はないこの2人。一体俺に何のようなのか。デートのお誘いなら喜んで受けるが?
「……松原君の彼女が――」
「彼女じゃねえ。幼なじみだ」
すぐに菜摘との関係を言い直すと、渡邉がとんでもない事を話した。
「あのオタクをかばって、安藤たちと喧嘩しているんだけど」
……は?
菜摘が、あの安藤たちと喧嘩しているだと……?
「……それって、どこでやっていた?」
「この廊下のまっすぐ行ったところにある空き教室。松原君の彼女さんが、あのオタクをかばって、安藤と佐村と言い争いながら、空き教室に入っていくのを見た――」
その言葉を聞いた瞬間、俺はすぐに教室を抜け出し、その空き教室に向かった。
「どけよ」
「今はここにいたい気分なんだよね~」
「どけよ。
「う~ん。それは無理な相談かな~?」
空き教室の扉の前に立ち、そして扉の小さなガラス越しから、佐村のイライラした声と、怒っていると思ったが、平常運転でマイペースのの菜摘の声が聞こえた。
「なあ。俺は女を殴る趣味は無いんだよ。さっさとどいてくれた方が身のためだと思うぜ?」
「そうかな? 私はここに立っていたほうが、私と塚本君の身のためかもって思うんだけどな~?」
どんだけ安藤と佐村にどけと言われても、菜摘は一歩も食い下がることをしなかった。
何をやっているんだよ、菜摘は……。
そこまでして、塚本を守る事じゃないだろ。どうして、菜摘は今日出会ったばかりの塚本を守ろうとするんだよ。
もしかして、いつも怒っている俺に愛想つきて、塚本と仲良くしようとしているんじゃないよな……!
「なあ、もしかしてその豚と不倫か? 松原に隠れて、今度はその豚を好きになったのかよ? 最低な女だな」
俺と同じこと考えたらしく、佐村は菜摘にそう聞くと。
「好きじゃないよ。塚本君は今日知り合った、ただの友達かな?」
安藤の問いかけに、すぐにそう否定した菜摘。
その菜摘の言葉に少しほっとしていた自分がいた。
「私の好きな人は、ヒロ君ただ一人だけ。幼稚園、小学生、中学生。ずっと私はヒロ君一筋だよ」
あまり俺の事を好きとは言わない菜摘。俺にくっついて甘えてくるが、意外と俺に好きとか恋愛感情は表に出さない。
きっと俺がいないと思っているから、少し頬を赤く染めてこうやって堂々と言えるのだろう。安藤たちの前でなら言うのもどうかと思うが。明日から安藤たちに何を言われるか。
「なあ。4軍の松原を好きになるよりさ、俺たちと好きになった方が良くないか? あいつといて面白いか? 冴えない顔をしているし、お前の以外の奴と、仲良くなろうとしない。根暗な性格だぞ」
「ヒロ君は面白いし。顔もカッコいいよ?」
佐村の追及の言葉に、全く食い下がろうとはしない菜摘。だが、安藤たちも食い下がらない。
「なあ松宮。あいつも塚本同じで、アニメオタクなんだろ? さっきチラッと見えたんだが、鞄に何かのアニメのキャラのストラップを着けているのが見えた。間違っていないよな?」
「は? マジかよ」
隠しているようにして鞄を机の横にかけておいたんだが、安藤には俺が鞄につけているストラップを見てしまったようだ。佐村は驚いているようだが、佐村は知らなかったようだ。
「マジかよ。松原、アニメオタクかよ。4軍にしておいて正解だったかもな」
「ああ。あんな美少女、この世に存在するわけないだろ。なのにオタクって、あんな絵だけの女を好きになるんだ。絶対にありえない髪色にして、顔を可愛くして、胸もデカくしてさ、気色悪いツンデレって性格にでもしておけば、オタクなんてすぐに好きになるんだ。あんなのが好きになるなんて、俺には理解できない。マジでキモイと俺は思う」
どうやら、何故1軍の奴らがオタクを4軍にするのか。ようやく分かった。あいつらは、アニメオタクを偏見でして見ていないから、俺らを4軍にして、そしていじめの対象とするのだろう。
本当に、あいつらは自分勝手な奴らだ。
「俺もそれは同感だわ。前に秋葉原に行った時なんて、暑苦しいデブしかいなかったもんな。それに何かのアニメキャラのTシャツを着て、ブヒブヒ言って、塚本みたいなやつがたくさんいたし、マジで不愉快だったわ。二度と行きたくないと思ったわ」
本当に、こいつらは偏見でしか物事を語らない。
秋葉原。通称はアキバ。以前は電気街として栄えていた町だったが、いつの間にかメイド喫茶と言う物が出来て流行り出して、そして気が付くと多くのオタクが集まる街と化していた。
メイドを求めてやって来る人、100人以上いるアイドルの劇場を求め、やって来るオタク。そして俺たちみたいにアニメのキャラのグッズを求めてやって来る人。そんな町に、アキバは変わり果てていた。
そして安藤は、溜め息をついたあと。
「アニメキャラを好きになるぐらいなら、現実の女を好きになれって思う。あんなもので金をかけるより、自分を磨くために金をかけろってな。あんなキモイ女を好きになるから、現実の女に嫌われるんだよ。マジで、キモイアニメオタクって、バカだよな。生きる価値無し、同じ空気を吸わないで欲しいし、日本から出て行けってな」
……何だよ。
……アニメが好きで何が悪いんだよ。
隙を見て菜摘を助けようとしたが、これは強行突破で突入するしかない。
俺はずっとアニメを否定し続けるこいつらに反論するため、空き教室に入ろうとしたが。
「あなた達の方がバカじゃないかな?」
俺が入る前に、菜摘が安藤たちに反論した。
「は? どこがバカだっていうんだよ? 俺たちは正論を言っているだけだぞ? 絵の女を好きになるより、現実の女を好きになった方がいいに決まっているだろ」
菜摘にバカと言われ、すぐに佐村は反論したが、すぐに菜摘も反論した。
「現実の女性を好きになるか、人の手で書かれた絵の女の子を好きになるなんて、それは個人の勝手だと思うけど、違う?」
「勝手とか、そう言う問題じゃないんだよ。よく考えてみろよ、お前が好きな松原が、絵の女が好きだと言い出して、お前を放置されたら嫌じゃないのか?」
「ううん。ヒロ君がそうなったら、私もその女の子を好きになるよ」
「は?」
菜摘の回答に、1軍の2人は拍子抜けた声を出していた。
「私は嫉妬なんてしないかな? ヒロ君が好きになった女の子は、一体どこの魅力に惹かれて好きなったのかなって思うし、ヒロ君が好きになる女の子は、女性の私でも皆可愛いと思うよ」
俺がアニメオタクになって以降、菜摘も俺のアニメをする話をちゃんと聞こうとしてくれるし、どんな内容でも菜摘は一緒にアニメを見ようとしていた。
どうしてそんなに俺と一緒にアニメを見るのかと思っていたが、そう言う理由だったのか。
本当に今の菜摘の言葉をアニメ嫌いのお偉いさんに聞かせたい。
「それより、あなた達ってアニメは見たことあるの?」
「……」
菜摘の問いかけに、2人は黙り込んだ。
「見た事ないのに、まさか否定をしていたの? それはダメだと思うな~」
それは菜摘の言う通りだ。何も知らない奴に、俺たちはずっと否定されていたのか?
「それが一番失礼だと思うよ? ちゃんと分かって否定をするなら分かるけど、何も分からずにただ否定だけするって、それは一番、人として最低だと思うかな? そうなると人間性とはしては、あなた達は4軍だね~。あっ、つまりヒロ君は1軍って事だ~」
おっ、もっと言ってやれ。菜摘。
「……けっ。……気に食わねえ女だ」
「そうか? 俺はこういう女性は、好きだな」
佐村は今回の事で菜摘が嫌になったようだが、安藤は何だか菜摘に感心したようだ。
「松宮だったか?」
「松宮菜摘だったかな~?」
どうして、自分の名前を疑問形で答えるんだ?
「今度、一緒にお茶でもしないか? アニメの魅力、教えながらでもさ」
さり気なく、菜摘をデートに誘うとしている安藤。今の一件で、菜摘の事が気になったようだ。
「それは無理かな~」
「どうしてだ?」
「私は、今度ヒロ君と一緒にパンケーキを食べる約束をしているんだ~。ずっとヒロ君とスイーツを食べる予定が入っているし、一生無理かな?」
昨日の帰りに約束されたパンケーキを食べる約束、ちゃんと覚えていたんだな……。少し安心した。
と言うか、これからずっとスイートを食べに行く約束なんて、俺は全く聞いていない。
「……最後に1つ聞かせろ。お前は、松原の事が好きなのか?」
「好きだよ。昔から、出会った時からずっとヒロ君のことが好き」
「……そうか」
「ねえ。私にも聞かせて欲しいな」
今度は菜摘は安藤に尋ねる為、いつも俺がやられている、他人の顔に急接近させる行動に出ていた。
「本当に、あなたはアニメが嫌いなの?」
「ああ、嫌いだ」
「ふ~ん……。そうなんだ~」
そして菜摘は安藤から離れて、そして安藤の言葉を信用して、安藤の回答に納得していた。
「……聞きたいのはそれだけか?」
「うん。私の質問に答えてくれて、ありがとうございます~」
マイペースに菜摘は答え、そして安藤は俺がずっと立っている扉の方にやって来た。
「佐村。その豚をいじめるのは止めて、とっととゲーセンでも行こう。ゲーセンのパンチングマシーンで殴っていたほうが楽しいぞ」
「……おう」
そして安藤たちは、空き教室の扉を開け、俺は咄嗟に掃除用具入れの後ろに隠れて、安藤たちがどっかに歩いて行くのを見送ると、俺は菜摘がいる空き教室に入る事にした。
さすがに男子高校生に面と向かって立ち向かったのだから、きっと今ごろは腰を抜かして座り込んでいるだろう。それが心配で教室に入ると。
「怖かったよ~。松宮殿~」
「よしよし。怖かったね~」
菜摘が塚本を膝枕をして、塚本の頭をなでなでしていたので、それが何か心の中で、もやっとしたので、何となく塚本の顔を思いっきり蹴飛ばした。
吹っ飛んだ塚本は、さっきよりもひどい顔になって、見るのも耐えないぐらいの不細工になっていた。
「もうダメだよ、ヒロ君。怪我人にさらに追加攻撃するなんて~」
「ひどいぞ、松原氏……」
塚本を保健室に連れていき、菜摘が塚本の顔に絆創膏を張り、塚本を治療していた。
「……何か、もやっとしたんで、つい出来心で」
こうやって塚本が菜摘にちやほやされている光景を見たら、心の中がもやっとした。
まさか、塚本に嫉妬しているのか……?そんな訳ないよな?
「……松原氏。……松宮殿。……今回は皆に迷惑をかけた。本当に申し訳ない」
「まあ、そうだな」
今回は、塚本が猪俣に告らなければ起きなかった話だ。まあ、告白しろと言ったのは、俺たちなんだけどな。俺たちにも責任がある。
「それで、今回の出来事で某は反省した。……すべて、この某の醜態の体のせいだ」
まあ、そうだな。塚本が4軍の理由は、ほぼ太っている体型のせいだもんな。
「……某は、これからイメチェンの旅に出る」
「つまり、ダイエットって事か?」
「ああ。きっと痩せれば、猪俣殿も某を見てくれるだろう」
まあ、痩せてカッコよくなれば、猪俣も振り返るようにはなるだろう。
「……では、某は一ヶ月、学校を無断欠席し、かっこよくなって戻ってくる」
塚本は立ち上がり、そして制服の上着を着直して、塚本は俺たちに手を振った。
「……松原氏と松宮殿は、俺友で語り合った、某の大切な共だ。また一ヶ月後に、俺友について語り合おう。……今日は楽しかったぞ、松原氏、松宮殿。では、さらばだ!」
「じゃあね~。また明日~」
菜摘の奴、絶対に塚本に絆創膏を張った後、ぼーっとしていただろ。全くこの状況を理解していない。明日から無断欠席するって、俺たちに堂々と宣言していたじゃないか。
塚本は保健室を出て行き、そして保健室には俺と菜摘だけとなった。
「……ヒロ君」
「何だよ」
「私の膝。何か寂しんだよね~」
そう言って俺の顔をチラチラとみてくる菜摘。
「や、やらねえよ!」
「ふ~ん。じゃあ、何で塚本君を蹴り飛ばしたの?」
そんなの、菜摘に膝枕されている塚本が羨ましかったとは言えない。
「甘えてもいいんだよ?ヒロ君の為なら、私はこの身を捧げるから」
「変な事言うな……」
菜摘はちょっとだけスカートをずらし、菜摘の白くてすべすべしていそうな太ももを見せつけていた。
さっき扉越しで聞いていた、菜摘が俺を好きと言う気持ち。そしてこの保健室の静かな雰囲気。菜摘がちょこんと可愛らしく座っている姿を見ていると、段々と顔が熱くなってくる。
中学の時は、そんなこと思わなかったのに、何故か菜摘を見ていると、顔が熱くなって目を逸らしてしまう。
「ヒロ君」
「……何だ―――なっ」
油断していると、いきなり菜摘は俺の手首を引っ張って、そして菜摘の太ももの上に、頭を乗せられた。
ま、何が起きたんだ……!
俺は倒されて、そして見上げると菜摘の顔と、菜摘の発達した部分が菜摘の顔を遮って見えて、そして後頭部には、菜摘の太ももの柔らかい感触が……!
「ヒロ君。これで塚本君と一緒……ってヒロ君。顔が真っ赤で頭から湯気が出ているよ?大丈夫?」
どう見たって、俺の状況は大丈夫じゃないだろ。
俺の体温が高くなり、体中が真っ赤になると、俺はあまりにも体温が高くなって、菜摘の膝枕で気を失う羽目になった。
「……そう言う、私に好きと言う感情を見せない、ツンデレのヒロ君も私は好きだよ」
気を失う前に、菜摘がそう呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます