幼なじみと一緒にいたら、スクールカーストの底辺になった

錦織一也

スクールカーストを実施してもいいですか? ダメですか? けど、実施します。

第1話 スクールカースト

 

 満開の桜の花びらが舞い上がるこの季節。

 俺は今日から高校生だ。中学を卒業して、俺のアニメ観賞ゴロゴロ生活は、不条理に鳴ったスマホのアラームによって終わりを告げられた。


 俺は真新しいブレザーの制服を着込んで、朝食を済まして眠気を堪えながら家の玄関を出ると。


「あっ……」


 玄関を開けた途端、俺の目の前にはシワのついていない、真新しい制服を着込んだ、俺の幼なじみが玄関の扉を開けようとしていた。


 俺の幼なじみ、松宮まつみや菜摘なつみ


 こいつとは生まれた月日、時間。そして病院が一緒。幼稚園も一緒、小学生もずっとクラスが一緒、中学校も一緒。部活の卓球も一緒。小中の修学旅行、宿泊学習、遠足の時のグループまで全く一緒。


 焦げ茶色の髪にゆるふわとしたボブの髪型。顔は幼げで可愛らしく、育つところは育っている容姿にはまったく文句はない、ゆったりと話すおっとりな性格。見た目だけなら非の打ち所がない女子だ。


「何だよ。今日からは赤の他人を演じる約束だろ?」


 高校まで一緒に通うと言って、菜摘は駄々をこねた。

 今日から通う高校は、さほど偏差値は高くはないので、真面目に勉強をしていれば、合格できるはずだ。

 まあ受験で色々と苦労して、そして何とか合格したが、俺は一緒に通う条件にある条件を出した。


 それが先ほど菜摘に言いつけた、高校では俺と菜摘は赤の他人の関係になる。


 高校で男女がイチャイチャ。俺と菜摘がベタベタくっついているのはどうだろうか?


 男子には妬ましいと思っている顔で憎まれ、そして女子には気持ち悪いと陰口を言われ、俺は高校で彼女が出来ない生活を送ることになるだろう。だからその条件をつけたのだ。

 だが、菜摘はその約束をすっかり忘れているようで、俺の家に来たのだろう。中学校でもこうやって雨の日でも、風の日でも嵐の日でも、俺の家にやって来ては、一緒に登校する羽目になった。


「……えっとね。……今日だけは一緒に行っても良いかな? ……きっと私は迷子になるよ?」

「……毎日のように、学校までの道のりを教えたぞ」


 春休みになっても、菜摘は俺の家にやって来ては、俺と一緒にアニメ観賞をしていた。そして毎日のように、菜摘が一人で学校に行けるように、道のりを教えたが、今日に至って覚えていないようだ。


「……ダメ? ……ヒロ君?」


 捨てられる寸前の子猫のような表情で、俺に首を傾げておねだりをしてきた。

 菜摘は容姿だけが良いから困る。こんな風にお願いされてしまっては、健全な男子は断れないだろう。


「……分かったよ。……校門までだぞ。……って、パン食うな」

「お腹が空いたので~」


 俺の幼なじみ、松宮菜摘。


 見た目とは裏腹に、こいつは凄くマイペース。完全に自分のペースで物事を進めて、周りに、特に俺に迷惑をかけている。

 小学校では授業中、テスト中にずっと居眠りし、先生に怒られていた。体育の時は飛んでいたトンボを追いかけ、校庭から脱走することもあった。

 中学校の修学旅行の時なんて、関西の寺院を観光をしていて、目を離した途端、すぐにどこかに消え、一時先生が警察に捜索届が出されたまでだ。


 そんな在学していた学校に逸話が残るほど、この菜摘はマイペースのレジェンドだ。猫のようにマイペースで、前世は猫ではないかと疑ってしまう。


「角でばったり運命の人って、パターンはないかな?」

「それは漫画の話だ。実際にあったら、殆どこの町はカップルだらけだ。ほら、さっさと行くぞ」


 すると菜摘は少し頬を赤く染めながら、俺の腕にしがみついて来て。


「私とヒロ君もカップルだよね~」

「違う。俺とお前はただの偶然が揃いすぎる幼なじみだ」


 俺は菜摘をただの幼なじみだと思っている。

 たまに見せるやんわりとした表情にドキッとすることもあるが、決して恋愛感情を抱いている訳ではない。

 菜摘は俺の返答が不満だったのか、俺の傍から離れた。だが、未だに呑気に菓子パンを食べている菜摘と一緒に歩きながら、俺と菜摘は新たなる高校生活が始まった。



「……おっ。俺と菜摘は初めて別々になったな」


 徒歩と電車で都立の高校に到着し、そしてクラス分けされた紙を確認してみると、俺と菜摘は初めて別々のクラスになっていた。

 俺が少し嬉しそうに、ずっとくっついている菜摘に声をかけると、菜摘は2個目の菓子パンを地面に落として、そして落としたパンを拾って、菜摘は動揺して、体をがくがくさせて何度も俺に確認させていた。


「……ヒ、ヒロ君。もう一度、確認してほしいな~」

「ここを見ろよ。5組の欄に橋爪さんの下、南さんの上。その間に松宮菜摘って名前があるだろうが」

「……ち、違うよ~。私は村田……さんだよ~」


 菜摘の奴、俺の名前の下に書いてある村田さんと名乗ってきたんだが。どう見たって、俺の下の名前の人は男だ。村田尚樹って書いてある。


「諦めろ。お前はマイペースクイーンの松宮菜摘。俺は3組。それで菜摘は5組。学校の決定事項なんだから、菜摘がどう駄々をこねても、変えることは出来ないんだよ」


 流石に学校の決定では、俺はどうすることも出来ない。そもそも高校では別々に過ごすと言うのが、俺と菜摘の約束だ。この結果に俺はありがたいと思っている。


「だよね……」


 菜摘も俺の言葉で諦めたのか、しょげた顔をしたが、すぐにいつものやんわりとした、マイペースな顔をしていた。


「じゃあヒロ君~。教室まで案内をお願いします~」

「だから言っただろ。学校の敷居に入ったら、俺と菜摘はただの同級生だって」

「……いいの? ヒロ君?」


 菜摘は俺の顔の間近まで顔を近づけて、俺の唇に指を突き付けてきた。これは菜摘の技の一つだ。可愛い顔を近づけて、一気に相手を落とそうとする。小悪魔的な技だ。

 こんなに近く菜摘の顔があると、ずっと一緒にいても、こう言った仕草にはドキッとしてしまう。可愛らしい顔の菜摘、何故か俺にだけこんなに懐いているせいで、こういう仕草には何の抵抗もないようだ。


「私だけで学校の中を歩いていたら、他の男性に声をかけられてナンパ……、されちゃうかもしれないよ? それでヒロ君は嫉妬しちゃうかもしれないよ?」

「いや、俺は菜摘が他の男子に話しかけれていても、俺は嫉妬もしないし、むしろ精々する……って、何だよその目は」


 俺がそう話すと、菜摘は冷めた顔、そしてジト目で見ていた。この様子だと、菜摘は怒ったか?


「ヒロ君の頭に、桜の花びらついてる」


 怒っていないんかい。なら、なぜそんな冷めたような顔をしたんだよ。

 菜摘は俺の頭に付いていた、桜の花びらを手で取って、そしてその花びらの裏表をじっと見つめていた。

 折角学校に着いたのに、菜摘のせいで教室に入るのが間に合わず、遅刻扱いになるのはごめんだ。


「……教室までだからな」

「もうちょっと待って~。今、花びらを見ているから~」


 よく、もう少しで入学式が始まるって言うのに、よく暢気にマイペースに花びらなんて見ていられるよな。花びらなんか見て面白いのか……?

 だが、このままだと本当に遅刻だ。菜摘のマイペースで、学校にも着いているのに、遅刻して怒られるのはごめんだ。


「菜摘。行くぞ」


 無理矢理でも菜摘の制服の袖を引っ張って、5組の菜摘の席まで菜摘を送って、席に座らせた。引っ張られていても、菜摘はずっと花びらを見つめていた。

 菜摘を座らせてから、俺はすぐに3組に向かい、先生が入るギリギリに俺は3組に到着し、そしてそのまま入学式に出席した。


 かったるい入学式。校長が適当に話し、生徒会長のあいさつを聞いて、そして入学式は終了。後は生徒指導の先生がこの学校の諸注意の話を聞いた後、俺たちは各教室に戻り、クラスでホームルームをやる事になった。

 数学担当、女の先生の吉田先生が俺らの担任の先生。吉田先生も菜摘のようにおっとりしていて、すごくゆるーいクラスになりそうだ。


 再びこの学校の説明を受け、クラス全員が出身校と自己紹介をして、ホームルームは終了。今日の学校はこれで終わりだ。明日から普通に授業が始まり、そして一日中授業漬けになる。

 先生が教室を出て、俺らも出ようとしたら。


「はいはい~。前に注目~」


 さっきまで先生が立っていた教卓の場所に、長髪の茶髪でいかにも不良って言う見た目の男、さっき自己紹介をしていた安藤あんどう春馬はるまが俺らに注意を向けていた。

 そして、ほぼ金に近い髪色にしてウエーブをかけた女子、猪俣いのまたしずくも安藤の横に立っていた。


「帰んなよ。俺はこの1年3組を楽しくしようと、面白いルールを提案するわ」


 チャラい安藤が何を提案するのか。俺は固唾を飲んで聞いてみると。


「お前らさ、歴史の時間にカースト制度って習わなかったか?」


 カースト制度。


 確か古代のインドから取り入られている身分制度。王が偉いのは勿論だが、神官、貴族、商人、そして町人に農民の順で数えられる差別制度だったはずだ。


「そのカースト制度を、このクラスに設けるわ」


 な、何……!


 つ、つまりこのクラス内だけ、俺らは差別制度を受ける羽目になるって事か?

 折角の晴れやかな高校生活を送れると思ったのに、こんな奴らが入学してしまったせいで、俺の高校生活に暗雲が立ち込めていた。


「ヒロ君。かーすとせいど? ……って、何?」

「お前、習っただろ。しかも受験の時に散々とぁーー!!?」


 今回、俺の席が一番後ろで助かったが、俺の机の横に立って、そうマイペースに尋ねてくる菜摘の姿があった。いつの間に入ったのかは知らないが、後ろの席のおかげで、安藤はまだ気づいていないようだ。


「ヒロ君。どうしたの?」

「どうしたの、じゃないだろ! 菜摘、菜摘のクラスはどうなったんだよ?」

「えっとね~。ずっと机の模様を見ていたら、いつの間にかみんながいなかったんだよね~」


 つまり、ずっとぼーっとしていたら、いつの間にかホームルームが終わって、気が付くとただ一人取り残されえていたって事か。


「いいから、教室に出てろ」

「ヒロ君が傍にいないと、何か調子狂うんだよね~。いいのヒロ君? 私が一人で歩いていたら……」

「……その話は何度も聞いた。……分かったから、しゃがんで俺の後ろに隠れて待ってろ。俺らのクラスはまだ終わっていないんだよ」

「は~い」


 菜摘は嬉しそうに俺の席の後ろに隠れて、そして持参した水筒のお茶を取り出して、ティータイムしていた。本当にマイペースクイーンの菜摘だ。

 この先、例え教室が違っても、こっそりと教室を抜け出しては、俺に会いに来そうだ。菜摘ならありえる。


「まあ、俺は猪俣の話を聞いて乗っただけだしな。後は猪俣から説明を聞け」


 きっと、こいつらが一番偉くなるのだろう。頂点は安藤、そして猪俣が君臨するのだろう。

 そして安堵が猪俣に話を譲り、長い髪をかき上げて、話を始めた。


「あたしね、アンタらみたいな奴と同族って言うのが嫌なのよ。冴えてるあたしと、冴えていない根暗な女。安藤みたいにカッコいい男に、デブでキモオタの男。そいつらと一緒って言うのが嫌。だから優劣をつけて身分を明確化にするのよ」


 何て個人的な理由なんだ。俺は猪俣の我儘に付き合わせられるって事か。


「ふ、ふざけんなよ! 誰が、お前の言う事なんかに付き合うかよ!」

「そうよ! 猪俣の遊びに付き合ってられないわよ!」


 当然、クラス中から不満の声が出てくる。こんな事、安藤と猪俣以外は賛成しない――


「……面白そう。……俺、その話に乗る」


 俺の斜め右の感じ悪い男、確か森下って名前だったか?そいつが猪俣の話に乗っていた。やっぱりいるんだよな、こう言った頭のおかしい奴は少なからずいるもんだ。


「へえ~。いいわよ、確か森下って言うのよね?森下の雰囲気が好きだし、森下もあたしたちと一緒で、1軍に入れてあげる」


 これで森下もこのクラスでトップになってしまった。


「……な、なら僕もその話に賛成だよ!」


 今のやり取りを見たら、誰かは森下の真似をすると思った。こうやって猪俣の話に肯定すれば、今、賛成をした完全に根暗な見た目の男、太ったオタクの見た目、塚本でも1軍になれるかもしれない。そう思って挙手して猪俣にそう話しかけたが。


「デブ。アンタあたしの話を聞いてた? アンタは豚の見た目のキモオタ。キモオタは、何を言われようがカースト制度の底辺、奴隷の立場よ。と言うか、豚があたしに話しかけてくんな」


 塚本はカースト制度の底辺になってしまったようだ。気の毒に。猪俣のきつい言葉を浴びせられて、塚本は顔を俯かせ、涙を溢していた。


「一番偉いのは、あたしたちみたいにキラキラしていて、顔も良くてイケてるのが1軍。顔だけがいいなら2軍。ブスだけど面白い奴なら3軍。そしてキモオタ、デブ、根暗でつまんない奴、がり勉の奴は4軍。4軍は奴隷って事だから、もし2軍や、3軍でも1軍に逆らうって言うなら、問答無用に4軍だから」


 マジか……。

 こいつの優劣の付け方は、ただイケメンか美女なのか。イケメンが上に立ち、ブスは立場が低い底辺。完全に、猪俣の勝手な都合に付き合わせられるって事じゃないかよ……!

 だがこの調子だと、俺は完全に4軍。奴隷にの立場になってしまうじゃないか。当てはまるとしたら、オタクの点だ。今日は鞄に美少女キャラのストラップが付いている。これを見られたら、確実にオタクと認識され、カースト制度の底辺になってしまうだろう。


「さっきの自己紹介で、あたしは顔と自己紹介の話で、クラス全員の位をもう決めてあるの。順に発表してあげる」


 そして猪俣は1軍から発表していき、1軍は予想通りの安藤と猪俣、佐村って男子に、日下部くさかべって女子。そしてさっき猪俣に認められた森下が入る事になった。

 そして2軍を10人ほど公表し、3軍の名前を公表している時だった。


「……手島に、松原。村田……」


 良かった。俺は4軍ではなくて、3軍に入ったようだ。奴隷のように扱われる4軍にならずに良かった。だが、3軍ってブスだけど面白い奴だったはず。俺は自分ではカッコいいとは思っていないが、こうやってブスだと思われていると思うと、地味にショックだ。


「最後に4軍。木村きむら茉莉香まりか塚本つかもと太我たいが山路進やまじすすむ。この3人が4軍、奴隷よ。他の奴もこの4軍の奴らを好きにこき使えばいいから」

 そしてクラスメイト全員を位を定めた猪俣雫。


「1軍の俺らの命令は絶対な」


 そして安藤春馬。この二人がこの教室の支配権を握ってしまった。

 4軍の奴らには悪いが、俺は3軍から4軍に下げられないように、あいつらの言う事を聞いて、逆らわない事だ。ずっといい顔をしていれば、4軍には下げられないはずだ。


「ねえ~。ヒロ君まだ~? 私、しゃがんでいるの疲れちゃった~」

「ちょ、今出てくるな!」

「お腹空いたし、パンでも食べようかな~」


 菜摘はマイペースに立ち上がり、俺の横に立って再び菓子パンを取り出して、暢気に食い始めた。まだパンを持ってきていたのか。


「……松原正義」


 流石に俺の横でパンを食っている光景は異様だったか、猪俣は目つきを鋭くして俺の名前を呼んだ。


「その女は、松原の彼女? 入学式初日、3軍のくせに、もう彼女がいるの?」

「か、彼女じゃねえ――」


 機嫌を悪くした猪俣に、俺は厚みが彼女じゃないと弁明しようとしたが。


「ヒロ君は、私のお婿さんだよ」


 パンをもぐもぐと食いながら、菜摘はバカな回答、空気が読めない答えをしたので、俺は思いっきり吹き出した。


「へえ~! つまり、彼女って事でいいのよね?」

「ち、違う! 菜摘は俺の幼なじみだ! 彼女とか、そんな恋愛的な関係では――」

「えっ……? ヒロ君、幼稚園の約束は嘘だったの? 将来。結婚しようと言ってくれて、折り紙で指輪を作ってくれたのに?」


 本当にマイペースで空気は読めない幼なじみだ……! どうしてそんな事を他人の大勢の前で言えるんだよ!

 菜摘は暗い表情になって、顔を俯かせていた。


「おい、あんな可愛い女子を泣かせたぞ。松原って奴、最低だな!」

「女子を泣かせる男子ってないわー」


 クラスからそんな俺の言動に呆れる声が続出した。何か、俺が全部悪いことになっている。


「……幼なじみ。そして互いに名前で呼び合い、将来を誓った関係。……3軍のくせに、顔はカッコよくないのに、そんな可愛い彼女がいるなんて生意気ね」


 そして俺に向けて指をさした猪俣は、俺に見下した目で宣告した。


「松原正義。アンタは降格、4軍、奴隷の仲間入りよ!」


 ま、マジか~! せっかく3軍でいられると思ったのに、菜摘のせいで4軍、奴隷になっちまったじゃないか~!


「……つまり。ヒロ君が好きな、モンスター育成ゲームと同じで、ヒロ君は3から4にレベルアップしたって事なんだよね?」

「……これはレベルアップじゃないんだよ。……レベルダウンなんだよ」


 話、そしてこのクラスの状況を全く把握していない菜摘。こんな事になるぐらいなら、菜摘と同じクラスで、菜摘にくっつかれようが、5組の方がが良かった。


「……と言うのは冗談かな? 私の中では、ヒロ君は1軍。顔もカッコいいし、面白いし、あと人を傷つける事はしない。……あの人たちより、ずっとヒロ君の方がカッコいいよ」


 俺はどういう顔をすれば良いのだろう。菜摘の告白擬きに、俺はどう返事をしたら良いのか。とりあえず、真っ赤になった顔を隠すため、下に俯いた。


「……見た目によらず生意気ね。……ねえ。松原のお嫁さん」

「私の事?」


 猪俣に呼びつけれられても、菜摘は暢気にパンを食いながら、返事をしていた。


「そうよ。クラスが違う人の名前はまだ覚えていないの。アンタ、名前は?」

「私、今パンを食べているから忙しいんだよね~。ヒロ君、代わりに紹介してほしいな~」


 自分の自己紹介を、俺に委ねる菜摘。そんなのパンを食いながらでも出来るだろうが。


「奴隷の松原。早速1軍からの命令よ。その彼女の紹介をしなさい」


 ここで逆らったらどうなるのか。きっと猪俣たちに嫌な事をされるのは確実だ。カーストの底辺の4軍に下げられた俺には、ただ1軍の命令を聞くしか出来ないようだ。


「……5組の松宮菜摘だ」

「ご紹介に預かりました。私はヒロ君の幼なじみ、そしてヒロ君のお嫁さんになる松宮菜摘です~。他のクラスですが、末永くよろしく、お願いします~」


 パンを食いながらでも、猪俣に向けて会釈出来るのなら、俺にさせなくても良かったんじゃないのか。本当に、こいつのマイペースには呆れる。


「松宮菜摘。要監視人物として覚えてあげる」


 そして猪俣は達成感を感じるような、一息ついてから、教卓を思いっきり叩いて。


「1年3組のカースト制度。本格的なスクールカーストは明日から施行。明日から、有意義な時間、楽しい高校1年生の生活を送りましょうね」


 俺ら全員を見下すような目線を送り、そしてようやく俺らは解放されることになった。


 3軍、4軍になった奴らは暗い顔で教室を出て行くのは裏腹に、1軍2軍の奴らは互いに集まって、この後ゲーセンやカラオケに行こうと和気藹々とした雰囲気で、教室を出て行った。

 これがクラス内格差。スクールカーストと言う奴なのだろう。酷い事態になったもんだ。


「ヒロ君のクラスいいよね~。賑やかで楽しそう」


 こいつは、今の出来事を教室のイベントだと思っているのか?やんわりとした顔で俺にそう話してきた。

 楽しみだった俺の高校生活は茨の道。幼なじみ、そしてこのクラスのカースト制度。嫌なことの板挟みによって、中学のときよりも過酷な1年間になりそうだ。


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