第37話 安藤に粛清を


 翌日、俺の隣の席に、紫苑がやって来た。一番前の席は、4軍と決まっていているので、隣りにやって来たという事は、紫苑は4軍に振り分けられたという事だ。紫苑の胸元には真っ白なバッジがあり、放課後にやった試験は、散々な結果だったようだ。


「昨日、あんな偉そうなことを言っていたのに、あんたも4軍じゃない」


 俺の目の前で土下座している紫苑に、楠木はそうツッコんでいた。


「申し訳ないのですよ……。私、英語が読めなくて……」

「よく海外を転々と出来たわね」

「ハロー、センキュー、いぇーい、ありがとーって言っておけば、コミュニケーションは取れたのですよっ!」

「ありがとうは、日本語よ」


 楠木は、紫苑の様子に呆れていた。話を聞く限り、英語が0点で、他のテストでも赤点ギリギリだと言う話らしい。紫苑も、選ばれし4軍の生徒のようだ。


「そんで、ヒロは考えてきたの?」

「一応な」


 俺は、安藤に直接勝負しても勝てないと思い、俺は回りくどいが、いくつかの嫌がらせのような作戦を考えてきた。


「一人になった所で、膝カックンし、ベルト抜いてズボン降ろし、最後に黒板消しをぶつける」

「それをやるぐらいな、普通に勝負を挑んだ方が良いと思うけど」


 俺には、それぐらいの事しか思いつかない。過激すぎると、俺が悪者になってしまうので、俺が出来るのは、これが精いっぱいだ。


「……バッジをすり替えるとか?」


 ボソッと、木村がそんな提案をしてきた。


「……ありだな」


 幼稚な作戦を考えていた俺を、誰か叩いてほしいぐらいだ。4軍のバッジを安藤に身に付けさせて、安藤にも4軍の苦しみを味わさせる。それで電流を止めて、そのままスクールカースト制度は廃止になったら、俺たちの勝ちだ。


「……報復なら、それぐらいが良いかもしれない。……けど、どうやってすり替えるかが問題だけど」


 そして木村は、続けて問題点を挙げる。今日は体育は無いし、安藤は部活動に入っていないという事で、制服から体操服に着替えた隙に、バッジを取り換えるチャンスが無い。


「菜摘。出来るか?」

「余裕だね~」


 いつの間にか、俺の後ろにいた菜摘にそう聞くと、菜摘はそう答えた。気配も消すことが出来る菜摘が、その役に適任だと思う。


「それなら、昼休みに決行だ」


 単純そうに見えて、とても難しい作戦だ。菜摘がいないと成立しない作戦であって、俺もちゃんと行動しないと、すぐに失敗して、安藤に成敗勝負をされるだろう。




 そして昼休み。最近の安藤は、休み時間になると、即行で姿を消すので、俺もすぐ廊下を出て、安藤の後を付けた。


「何を企んでる? 松原?」


 安藤も空気を読んだのか、まだ誰もいない廊下で、俺に話しかけた。


「生憎、お前と違って、俺は忙しいんだ。ハーレム王のお前なら、あの豚と違って、昼休みぐらい退屈しないだろ?」

「おいおい。もう塚本は3軍だぞ? 好きな女の為に、容姿を変えた、努力家な奴なんだぞ?」

「お前も酷いな。俺は塚本と言っていないのによ、豚イコール塚本と結びつけるなんて、お前も最低だな」


 俺が何か言えば、安藤も何か言い返してくる。やはり俺は、安藤が嫌いだ。


「そんで、何の用だ? スクールカースト制度を撤廃しろと言いに来たのか?」

「そうだな。それに近い事を言いに来た」


 俺の考えた作戦は、こうやって安藤と話し込んでいるうちに、菜摘がさり気なく、菜摘のバッジと安藤のバッジを入れ替える。そして俺と菜摘が、安藤を怒らせるような事をして、電流を流す。そして安藤に電流の痛みを知ってもらおうと言う作戦だ。


「安藤。今すぐにでもやめないと、この学校は終わる」

「そうか? アニメオタクだらけになった学校になった方が終わるけどな」

「お前、ニュースを見ていないのか? 最近、体罰にはものすごく厳しい、こんな事はすぐにバレるし、せっかく入学した学校が閉校することになる」

「その点は心配するな。ちゃんと許可を取っているし、電流もちゃんと生徒に考慮して弱くしてある。品の無いバラエティー番組でも電気を流しているだろ? あれと同じだ」


 誰に許可を取ったのか。こんな暴挙、誰も許すはずがないだろう。


「ヒロ君~。こんな所にいた~」


 そして菜摘が、俺と合流した。安藤は気付いていないようだが、安藤の胸元には白いバッジがある。本当に、いつの間にすり替えたのだろうか。


「ヒロ君~。今日は授業を抜け出さず、ずっと昼寝していたんだよ~」

「おい。その言い方だと、毎回教室を抜け出している事になるんだが?」


 これは、安藤じゃなくても、俺がペナルティを執行したいぐらいだ。


「お前ら、本当に仲良しだな? まあ、松原は何となくムカつくし、松宮の行動も問題だな」


 そして遂に、安藤が4軍のペナルティで、電流を流す時が来た。


「4軍の松原、そして松宮にペナルティ執行」


 俺に電流が流れ、そして菜摘のバッジが付いている安藤にも電流が流れる。これで作戦は成功したと思ったが。


「意外か? 本人以外じゃないと、バッジは起動しない」


 しかし、安藤が痛がる様子もなく、俺を嘲笑っていた。今回の作戦は、失敗に終わった。


「ま、仕組みはブラックボックスだから言えねえけど、俺は幸せだな。松宮がさっきまで身に付けていたバッジが俺の胸元にあると思うと、すごく興奮する」


 安藤の発言に、俺だけではなく、菜摘も冷め切った顔をしていた。


「松原。こんなセコい手を使わずに堂々と下剋上勝負を仕掛けてこいよ。俺はいくらでも相手になってやるよ。まあ、俺はお前より頭は良いんだ。勝てないと思うが」


 電流がようやく治まった頃に、安藤は痛みを堪えている俺の胸ぐらを掴んで、見下した目をしていた。


「負けるのが恐いのか? ハーレムになった、せっかく仲良くなった女子たちに惨めな姿を見せたくないのか? 嫌われたくないのか? お前、本当にクズだな。最底辺にふさわしい生徒だ」


 安藤にぼろ糞に言われ、俺は何も言い返す事が出来なくなっていた。

 今の出来事は、姑息と言えば姑息。卑怯と言えば卑怯だ。一泡吹かせたい気持ちで行動したが、安藤たちが考えた勝負の方が正しいと思えてくる。正当な成敗、下剋上の方法だと思い始めた。


「それでも、松宮はこのクズオタクに好意を持つか?」


 俺を散々否定し、そして俺の評価が下がり切ったところで止めに菜摘に意見を聞く。これだけ俺の事を否定しておけば、菜摘も考え直して安藤に興味を持つと考えたのだろう。


「私のヒロ君の想いは変わらないな~」


 だが菜摘は俺に対する気持ちは変わらなかった。今まで通りに菜摘は俺の横にぴったりとくっついていた。


「ヒロ君は自分の勝手な見解で語らないし、他人を見下すことはしない。それに比べて、ナルシスト君は自分が絶対に正しいと思い込んで、トップにに立って、弱みに握るために絞り出すように相手の悪い所を探して批判する。それって、勉強や運動が出来ない人よりかっこ悪いと思うよ?」


 安藤、猪俣など。兎に角1軍の奴らは優劣をつけて、トップに立ち、高みの見物をしている奴らばかりだ。底辺の気持ちも分からず、ただ俺たちの事を何も知らずにただ悪く言う。それは菜摘の言う通りにカッコ悪いことかもしれない。


「みんなは顔、見た目で決めるって言うけど私は違うかな~。私が思う本当にかっこいい人って言うのは、他人を想い、気遣いが出来て、常に笑っている人。それにすべてに当てはまるのがヒロ君。ナルシスト君には一つも当てはまらないから、私はナルシスト君はどうでもいい。むしろ嫌い、大嫌い」


 最後の方の菜摘は、安藤にあの冷ややかな目で見て、そして唾でも吐き捨てるような勢いで、淡々と話すと。


「ナルシスト君。他人から仕返しされるという事は、みんなナルシスト君に反感を持っているって事だよ。みんな、この変なスク……何とか制度に賛成じゃないって事。それも気づかないから、貴方はヒロ君に勝てないんだと思うよ」


 菜摘がそう言い切ると、安藤は精神的にダメージを受けたようで、フラフラになり、ずっと掴んでいた胸ぐらを離すと。


「……しろよ」


 かすれながら安藤は何かを話したが、俺はあまりにもかすれていてよく聞こえなかった。


「……勝負しろよ。……俺とお前で、勝負しろよ」


 俺を憎むように見る安藤は、確実に俺と勝負したいと思っているようだ。その目は恐怖を感じるほどの鋭い目だった。プライドをズタズタにされ、菜摘ではなく、何故か俺に怒りの矛先が向けられていた。


「ああ。丁度いい機会だからな」


 俺はRPGでラスボスの前に立っているような感じで、安藤との成敗勝負を受けることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る