第20話 早速表れた4軍の効果
昼休み。
今日から全学年でスクールカーストが施行されているが、特に俺らのクラスに変化はない。
今朝の猪俣と楠木との一触即発があったぐらいで、あれ以降、1軍が4軍に手を出す事は無かった。
楠木は、猪俣にノートを書けと命令されていたが、楠木は猪俣の言いなりになるのが嫌で、楠木でも読めない字でさらさら書いたような字で書いていた。怒られるのは、俺なんだが、これを続けていけば、いつか自分でやるとか言い出すだろう。
「ヒロ。付き合って」
「……はいはい」
財布を持っているって事は、今日は購買で昼飯を買うようだ。自分の弁当を食べる前に、今日も楠木に付き合うことになった。嫌ではない、むしろ可愛い女子と一緒にいれるだけで嬉しい事だ。ただ、タイミングが悪いと言った方がいいのか。弁当が食い終わっていたら、俺は快諾していただろう。
「……」
「ん? 木村か?」
楠木と共に購買に行こうとすると、木村が俺の制服を引っ張っていた。
『私も、一緒に良い?』
木村も購買で昼飯を買うようで、木村のスマホの画面には、そう入力されていた。
「ああ。一緒に行くか」
そして嬉しそうに頷く木村。菜摘よりも背が低い木村。こうやって俺の制服をつまんで引っ張っている光景は、何だか年が離れた妹が出来た気分だ。
内気な性格の木村。
あの日以降、口を開くようになると木村は、俺たちと仲良くしようと、周りに人がいない時には、小さな声で話そうとしてくる。
少し頬を赤らめ、もじもじとしている木村の行動に、俺は菜摘と楠木以外の女子を可愛いと思い、ドキッとしていた。
「木村も来るの? 来るんなら、早く来なさいよ」
楠木にそう催促され、俺たちは教室の扉付近で待っている楠木と合流した。
「ヒロ、どしたの?」
「……いや、何でもない」
菜摘は今日は来ないのだろうか。いつもなら、弁当持って、俺の横に立っているはずと思いながら、俺たちは購買を目指した。
「あいつら、4軍だ……」
「よくも堂々と4軍が歩けるな」
俺らのクラスに変化は無くても、他のクラスや学年には早速効果が表れたようだ。
昨日まで何とも無かった廊下が、俺らが歩いているだけで、ひそひそと陰口をたたいていた。
廊下で他の生徒とすれ違う時、俺らが制服の胸辺りにつけている、制度の位を表すバッチ。バッチは500円玉のような大きさなので、制服につけていると結構目立つ。そして黒の上着に、白で無地のバッチを付けているので、尚更目立って、俺たちが4軍だと言う事が分かってしまう。
すれ違う奴を見ていると、大体が3軍の銅色のバッチ。そしてちらほらと2軍の銀色のバッチを身に付けている人だらけだった。
俺たちのように、4軍、そして1軍はあまり歩いている姿は見られない。
それはそうかもしれない。全学年、210人。そして4軍の比率は20人、1軍も20人。残り170人は2、3軍に振り分けられる。2、3軍の割合の方が多いので、現状としてはそうなってくるのかもしれない。
「おいおい~。4軍は、廊下の端に歩けよ~」
悪ふざけで言っているのだろうと思い、見知らぬ男子生徒の言葉を無視して歩くんだが。
「みんな4軍に近づくなよ~。4軍に近づくと、不幸な事が起きるらしいぞ~」
黒猫が横切ると不吉な事が起きるのような、そんな根拠のない噂が、いつの間にか流行っているようだ。
「は? あんたら、何訳分かんない事を――」
「相手になるな、楠木」
今の言葉に楠木はカチンと来たのか、変な噂を言った男子生徒に文句を言おうとしていたが、俺は楠木を止めた。
ここで楠木が何か問題を起こしたら、噂が本当になってしまう。俺たち4軍に遭遇したら、喧嘩になって本当に不幸な事が起きたとか。そんな噂が流れてしまい、本当に人前で歩けなくなってしまうだろう。
「ああいうのは相手になるな。言わせておけ」
「……ヒロが言うなら」
気が晴れないようだが、俺が楠木の手を掴んで楠木の行動を止めると、少し顔を赤くして、大人しくなった。
それからも、他の生徒に気味悪がれて、避けられたり、他の生徒が飲んだか空き缶を俺に投げつけるなど。不良が集まる荒れた学校になりつつあるこの自由川高校。本当に、このスクールカースト制度は何の為にやったのか。何の為に生徒会が賛同したのか。意味が分からない。
購買に到着すると、結構時間が経っていたせいか、人はそれほど多くなく、まだパンや飲み物が余っているようだった。
「ラッキー。まだ残ってる」
楠木は諦めかけていたのだろう。だが、こんな時間でもパンが残っていると知ると、楠木は嬉しそうにパンが並ぶところに行くと。
「あ、貴方たちは……4軍の人だね?」
購買を担当しているおばさんが、何かの資料を見ながら、パンを買おうとしていた楠木に話しかけた。
「……そうですけど」
「4軍の人は、ここパンは買えないんだよ。4軍の人は、あれだけね」
どうやら、購買で買うものまで、差別が出来ているようだ。
1~3軍は普通に並んでいるパンを買えるらしいが、4軍だけ、特別に違うコーナーを設けているようで、楠木は言われたとおりに、小さく設置された4軍専用の所のパンを見た途端、楠木は俺たちに手招きをしていたので、俺と木村で楠木のところに行くと。
「酷くない?」
「……これは酷いな」
4軍専用に置かれていたのは、製造過程で要らなくなったパンの耳しかなかった。こんなところまで4軍と差をつけたいのか、1軍の奴らは。
こんな待遇を受けるなら、自分で弁当を作って来るか、学校に来る前にコンビニで買った方がいいだろう。一体、こんなアホな事をしようとして、何のメリットがあるのか。
「まあいいわ。パンの耳、くださいな」
「……」
楠木と木村は、結局パンの耳を購入して、木村は廊下を歩きながら、パンの耳をかじっていた。
「……悪くない。……明日から、家からジャム持ってくる」
「マジか」
木村はお気に召したようだ。明日からジャムを持ってくるぐらいなら、学校に行く前にコンビニで買い物した方が、充実した昼食になるだろう。
「私は、購買で買うのはやめるわ。と言うか、教室から出たくない」
俺たちは教室にいる方がいいかもしれない。教室の外に行くと、そこは俺ら4軍を軽蔑する奴らばかりだ。1軍のテリトリーになっているが、1軍のやかましい声を我慢すれば、まだ平和に学校に過ごせるだろう。
「そこ、どいてほしいな~」
「松原のところに行くんだろ? 行かせない」
俺たちは教室に戻ると、教室の前で、嫌がっている菜摘に、安藤が壁ドンをしている光景があった。
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