第25話 ゲームセンター

 アニメショップ、ねこのあなの隣に立つゲームセンターに、先程菜摘のマイペースの餌食となった2軍の法田、榎本、森本。そして懲りずに無理矢理2軍の撃奴らにアキバを連れ回されている4軍の塩田が、そのゲーセンに入っていった。

 今回は特に俺らに害を及ぼしていないので、スルーして行こうとしていたが、菜摘がマイペースにゲームセンターに入っていってしまったので、結局関わる事になってしまった。


「……ああっ! ここのアーム、弱すぎるのよ! 詐欺でしょっ!」


 ここはさっさと菜摘を見つけ出し、このゲーセンを出たいのだが、尾行の事なんて忘れて、楠木は普通のお客と同じように、クレーンゲームをしていた。そしてデカい縫いぐるみに対して、アームの力が弱く設定されているクレーンゲームにイライラしていた。


「ヒロ。ここで取れたら、すっごくカッコいいと思うわ」

「……ったく、ゲーセン泣かせと言われた、俺に頼むか?」

「え? もしかして、色んな物を一発で取るとか? 初めてヒロが活躍する所見れんじゃん」


 俺は100円玉を入れ、1プレイ。有名なアニメ制作会社の世界的に有名なマスコットキャラの大きめだが、可愛くデフォルメされた縫いぐるみの中心をアームで掴もうとした。


「……あまりの下手に、陰で店員にゲーセンの笑い泣かせって言われていた」

「あ、そっちの方ね……」


 俺は、どうもクレーンゲームは苦手だ。景品を取るには、アームで掴むだけではなく、アームで景品を押したり、ずらしたり、上手い事に隙間にアームの爪を入れて景品を取る。そんな高度なテクニックは、俺は持ち合わせていない。遠くから見ている店員が良く笑っていたと、菜摘から聞いている。


「……木村、行けるのか?」

「……仇を取る」


 今度は木村がクレーンゲームを1プレイした。


「……ここ」


 この流れは、木村はゲーセンのすべてのゲームが得意。このようなアームが弱いクレーンゲームでも、一発で取れるのだろう。木村は、縫いぐるみの足の方を掴んでいたのだが。


「……木村も得意じゃないだろ?」

「……」


 俺がそう聞くと、木村は頷いた。失敗した瞬間、木村は顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。カッコつけようとしていたようだ。


「塩田は、こう言うものが好きなんじゃないか~? 遠慮せずに取れよ~」


 2つ横に、法田たちがいて、塩田にクレーンゲームを強要させていた。強要させていたものは、ゲーセンで取るとすごく恥ずかしい美少女フィギュアだ。


「……じ、自分は、アニメにはまったく興味ない。どちらかと言うと、リアルのアイドルの方が好きなんだ」


 塩田は、オタクはオタクでも、俺らのようなアニメオタクじゃない。最近ではたくさんのアイドルが日々結成されては、日々解散していく。二次元に興味ない男子たちの唯一の癒しと言える存在。塩田はアイドルオタク、通称ドルオタの方らしい。同士だと思っていたので、少しガッカリだ。


「……尾行はやめるか」


 俺らのアニオタと、塩田のようなドルオタ。よく一緒にされるが一緒にしないでほしい。色々とネットでこれで論争になった事もあったので、兎に角アニオタとドルオタは一緒にするのは両方とも嫌のようだ。


「……って、聞いているのか?」


 俺がそう言っても、楠木と木村はこの縫いぐるみを取るのに、凄く必死になっていた。


「聞いているわよ。どうしたら、このムカつく音声を黙らせることが出来るかって事でしょ? いけ~とか、そこって言っている割には、全然取れない。煽ってるとしか思えないわ」

「それがゲーセンのやり方なんだよ」


 アームが移動する際に鳴る、クレーンゲームの音声が、楠木をキレさせようとしていて、そのせいか、尾行の事はさっぱり忘れている様子だ。




 楠木と木村が縫いぐるみを取れずに諦めると、俺たちは法田たちにばれないようにこの場を離れて、エスカレーターで2階に上がった。

 2階も主にクレーンゲーム。ジャンル的には、アキバの利用客向けの物が多く、フィギュアとかタペストリー、キャラの絵が描かれたコップなどが景品になっていた。


「やっと来たね~。来るの遅い――痛いよ~ヒロ君~」


 そして2階の所で、菜摘は自販機の横に立って、マイペースにジュースを飲んでいたので、俺は菜摘の頭をぐりぐりした。


「松宮見つけたし、もう出る?」


 もうゲーセンにいるのが飽きたのか、楠木は眠そうに欠伸をして俺に聞いてくると。


「まだ早いよ、楠木さん?」


 ここでなぜか『ずっと菜摘のターン』が発動していて、菜摘は楠木の顔に急接近させていた。


「せっかくアキバのゲームセンターに来たのに、クレーンゲームだけで終わらせようとしていない?」

「別にいいじゃな――んっ!」

「甘いね、楠木さん?」


 そして楠木の唇に指を置いた菜摘。そして菜摘は楠木の唇に指を置きながら、俺の方を見てきて。


「ヒロ君。下に降りて、あのゲームをやろうか~」


 あのゲームとは、どれの事をあげるのか。下の階には色んなゲーム機があるし、菜摘はどれを差しているのか。

 疑問に思いながら、俺はマイペースに行く菜摘の後をついて行くと、菜摘はゲーセンの入り口付近に設置された、音ゲーのゲーム機の前にやって来た。


「ヒロ君。一緒にやろう?」

「嫌だ」


 菜摘はこういったゲームもすごく上手いので、凄い動きをして、皆に注目されて、最終的にはSNSであげられるだろう。


「出来ていないじゃない」


 菜摘一人でプレイしたが、今回は失敗して、楠木は苦笑していた。


「思った以上に速くてね~。けど、もしヒロ君が一緒にやっていたら、私は成功できたんだけどな~?」


 ゲームを終えると、菜摘は顔を急接近させて、そう言ってきた。

 菜摘の事だから、こういったゲームは出来るはずだ。だがワザと失敗して、俺と一緒なら成功できると言って、一緒にやらせようとする魂胆だろう。


「松宮。私もやっても良い?」


 楠木は今のほんの少しのゲームを見ていただけで、楠木もやりたくなったようだ。


「いいんじゃないかな~」

「じゃあ、やるわね」


 菜摘はもう俺としかやらないようで、あっさりと楠木にゲームを譲っていた。


「ヒロ君。どうしても、私とやるのが嫌なの?」


 楠木がプレイしている最中、菜摘がそう聞いてきた。


「対戦なら、確実に菜摘に負ける。男が女に負ける光景なんて、この公にさらしたくない」

「対戦なんてしないよ?」


 じゃあ、菜摘はどうやって俺と一緒にやる気――


「まさか、一つのゲーム機で、体を密着させながら、俺と一緒にやる気だったのか!?」

「正解~。ヒロ君もその方が喜ぶんじゃないかな~。プレイ中に、私の胸やお尻に当たって、ヒロ君が喜ぶ――」


 変な事を言いだしたので、菜摘の頭を叩いて、菜摘を轟沈させた。

 そんな光景を作り出すなら、俺は菜摘と戦って負けた方がいい。男女が一つのゲームで一緒になるなんて、周りから痛い目で見られるだろう。一体、菜摘は何を考えているんだ。


 ……まあ、誰も居なかったらやってみたい気もするんだが。


「……このゲーム、結構疲れるわね」


 プレイを終えた楠木は、やり切ったようにふーっと息を吐いて。


「もうゲーセンはいいでしょ? ねえ、帰りにどこか食べに行かない?」


 俺は楠木の意見に賛成だ。

 確かにもうゲーセンはいいと思う。クレーンゲームにアーケードゲームをやれば、もうやる事は無い、十分のはずだ。


「それなら、パンケーキが美味しいお店でお願いします~」


 食べに行くと聞いた菜摘は、すぐに復活してまたパンケーキを食べたいと言っていた。


「……パンケーキはもういいでしょ。甘い物ばっかり食べていると太るわよ?」

「太らないよ~。ちゃんと量は考えているから~」


 本当に考えているのか? 菜摘の欲望のままに食べているようにしか見えないんだが。


「さっきでも食べていたんだから、ヒロに好かれたいなら、今回は我慢しなさい」

「それなら、間を取って、ドーナツだね~」


 俺と楠木の制止を聞かず、菜摘はふらりと出口に向かって歩いてしまうと、厄介な奴らと遭遇してしまった。


「……お、お前! さっきの最低メイド!」


 運悪く、出口の付近で2軍の法田たちと遭遇してしまい、そして菜摘の姿を見ると、法田たちは菜摘を思いっきり睨み付けていた。

 やはりメガネだけでは効果は無いようで、普段通りの菜摘でも、すぐにあのメイドとバレていた。


「……おい。……こいつ、松宮だろ? 俺らの学校の5組で4軍。すごいマイペースで有名な」

「こいつがっ!? 噂では聞いていたが、見た目は可愛い奴なんだな……」


 もう菜摘のマイペースは、学年中に知れ渡っているようだ。流石、マイペースクイーンの菜摘だ。


「そうだ。さっきの仕返しも兼ねて、松宮に……」


 法田は、菜摘を見てにやにやして、最後の方はゴニョゴニョ言って聞こえなっかたが、何か企んでいるようだ。厄介事はごめんなんだが……。


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