第42話 新たな実行委員長 榊原四季
翌日。俺たちは体育館に集められた。まだ終業式ではない。夏休みに入るにはまだ日数がある。今回、この集会に何の意味があるのか、誰もが分からなかった。
「もぐもぐ……」
例えこんな集会でも、菜摘は絶対に俺の傍から離れない。今日も菜摘は菓子パンを食べて、集会に臨んでいる。
「ま、松宮さん……っ!」
俺の後ろに並んでいる村田が、菜摘に包みで包まれた小さなチョコを差し出していた。どうやら、菜摘に良い印象を持たれようとしているようだ。
「良かったら……」
「そういう事なら、ありがたくいただくね~」
村田からチョコを受け取って、それをポケットにしまうと、特に村田と話そうとはせず、菜摘はすぐに体育館のステージがある正面に向き直していた。菜摘は、本当に俺以外の男子には無関心だ。
「それではスクールカースト制度についての集会を行います。まずは生徒会長、烏丸光徳からのお話です」
ようやく始まったこの謎の集会。まずは烏丸先輩がステージに上がり、マイクを持った。
「先日、スクールカースト制度の実行委員長が不祥事を起こし、辞任した。これは生徒会長の私にも責任がある。この場を借りて、全校生徒に謝罪させていただく。申し訳ありませんでした」
烏丸先輩は、深々と頭を下げた。有名人が謝罪会見をしているような、烏丸先輩が頭を上げている間は、静まり返った。
「実行委員長が不在のため、数日で次期実行委員長を募ってみたが、募集はゼロだった」
それはそうだ。俺と菜摘、そして葛城で募集者はゼロにしたんだ。きっと今頃、応募した法田たちは驚いている事だろう。
「誰も興味を持たず、応募しなかったため、こちらで決めさせてもらった。誰も立候補しなかったため、反対は一切受け付けない」
果たして誰がなるのだろうか。安藤のような全く人の気持ちを考えない最低な奴じゃなければ、俺は黙認する。
「2年4組、
ステージの横から出て来たのは、木村よりも小さな女子。地面に着きそうなぐらいの長い髪、そして眠そうな目をして、どこか遠い所を見つめている、全く実行委員長で仕切る人とは思えないんだが。
「……こんにちは。……この度……スクールカースト制度……実行委員長に就任した……1軍の榊原です」
声も小さく、そして木村に似たすごく可愛いらしい。ひ弱そうな女子生徒が、全校生徒の上に立ち、指揮できるとは思えない。
「彼女が、これからのスクールカースト制度を仕切っていく。彼女なら、更にスクールカーストを素敵な物に変えてくれるだろう」
烏丸先輩はステージから降りて、そしてステージには榊原先輩が残された。一人だけになると、榊原先輩は少しオドオドしていたが、すぐにマイクを口元に当てて。
「……全学年の4軍に、ペナルティ執行」
俺たちは何もしていないのに、一斉に体育館にいた4軍は電流に堪えられずに、地面に倒れこんだ。
「……現状がこれ」
見せつけのために、俺たちに電流を流すな……。いつか電流を流されて、ショック死で死人が出るぞ……。
「……このペナルティ……まだ生ぬるい」
……は? あの榊原って言う先輩、何を言っているんだ……?
「……4軍のペナルティ。……さらに強力な物に変更する……意見があれば、私に教えてください」
「おい! ふざけんじゃねえぞ! それって体罰じゃないのかっ!?」
2年生の方から聞こえる、大きなヤジ。声からしてかなり怒っているようだ。4軍の生徒なのか、強力なペナルティになってしまうのが、反対のようだ。
「……言い忘れていた」
そんなヤジを無視して、榊原先輩は、俺たちの方、正面のどこか遠くを見つめて話していた。
「……ペナルティ……2軍でも……3軍にも出来るようにする……これで皆平等です」
その榊原先輩の話を聞いた瞬間、多くの生徒が驚いていた。
「……Ⅱ年1組、3軍の大堂俊介を含めた全学年の3軍。……連帯責任とし……ペナルティ執行」
大堂って言うのは、きっと今ヤジを飛ばした人の名前だろう。その人がヤジを飛ばしたせいで、全学年の3軍の人に電流が流れ、一斉に蹲っていた。
「……挨拶は以上……ありがとうございました」
深くお辞儀をした後、榊原先輩はステージを下りて、烏丸先輩と何か話をしていた。
「……松原。……お前、いつもこんなのを受けていたのか」
「嫌だろ?」
後ろの村田は3軍。そして今の出来事で村田に初めての電流が流れたようだ。やはり初めてだと凄く痛いよな……。
「ヒロ君。何かあったの?」
ずっともぐもぐと菓子パンを食べ続けていた菜摘。さっき4軍に電流を流されたはずなのに、何故か菜摘は平気そうにパンを食べていて、俺にそう聞いてきた。
「放課後。また視聴覚室に」
集会が終わって、菜摘が横にいたまま、教室に戻ろうとすると、突然背中を誰に叩かれた。
楠木かと思ったのだが、それは黒髪をなびかせた俺らの学年のトップ、葛城だった。また視聴覚室で作戦を練る気のようなので、俺は仕方なく、視聴覚室に向かい、葛城と合流した。
「予想外だったわ」
額に手を当てて、溜息をつく葛城。
俺は何となくそんな感じになるだろうとは思っていたが、まさかあんな小さな女子が恐ろしい事を考えるとは思っていなかった。これなら、法田が実行委員長になって、スクールカースト制度を滅茶苦茶にしてくれた方が、俺たちはラッキーだったかもしれない。
「まさか、生徒会長さんがロリコンだったなんて」
それは、俺も予想外だった。烏丸先輩が推薦したのだから、そう思われても仕方ないかもしれない。
「と言うのは冗談。私の予想では、生徒会長さんが実行委員長を兼任して、確固たる力を得ると思っていたの。けど。違う学年の1軍を使う事で、自分に批判されないよう、身代わりを置いた感じね」
葛城は、悔しそうに爪を噛んでいた。
「つまり、葛城がやったことは無意味。更に悪化したって事だ」
「そうね。こうなった以上、この状況を受け入れるしかない。私たちは、臨機応変、様子を見ながら、抵抗して行きましょう」
あの新たな実行委員長、榊原先輩に逆らうと何をされるか。きっとまだ何か企んでいるだろう。ここは下手に動かずに、様子を見た方がいいだろう。
「1軍には特に変わった事は無し。4軍にされていたことが、2、3軍にも出来るようになった。ある意味、良い結果を招いたかもしれない」
「どういう事だ?」
「2、3軍にもペナルティが科せられるとしたら、今まで威張り散らしていた2、3軍は大人しくなる。下手に動けば、ペナルティが執行される。そしてペナルティの痛みを知れば、2、3軍も良心が出来て、4軍をおもちゃのように使わなくなるかもしれない。結構4軍にとってはいい話かもしれないわね」
そんな風になるだろうか。結局、俺たちが一番位が低いのは変わらない。適当に言い訳を付けて、2、3軍は1軍に頼り、そして4軍をいじめる事には変わらないと思う。
「……さて。……今日は松宮さんはいない。……二人っきりね、松原君」
今、俺と葛城だけの二人っきりで、この場に菜摘がいない。いつもならチャイムが鳴った瞬間、菜摘は俺の真横に現れる。だが、珍しく菜摘は俺の所に来なかった。
「余計な邪魔が入るのが嫌だったから、松宮さんには教室で待機してもらったの」
最初から、二人にしようとして、手を打っていたって事か。きっと菜摘にパンで餌付けしてこないようにしたのだろう。
葛城は俺の顎を撫でるように触り、女狐のような色っぽい顔をして、俺を見つめていた。
「4軍の松原君。私みたいな女性は好き?」
「き、嫌いじゃない」
そう言うと、葛城は昨日のように俺の手を持って、そしてそのまま再び葛城の胸を鷲掴みにされた。
「本当にスケベ」
再び葛城の胸を触って、俺は顔を真っ赤にしてしまうと、葛城が可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「興奮しているのなら、もっと触っていいの。私、いつもクールを装っているけど、中は下心だらけで、むっつりスケベな男子はが好きなの」
少し息が荒くなってきた葛城。
まさか、こんなエロゲのような展開になるなって思ってもいなかった。そういう事にはまったく耐性が無いので、俺は顔を赤くして、鼻血を堪えるのがやっとだった。
くそ……。こういう時に、菜摘がいてくれればいいんだが……。
「……ふふっ。冗談よ。ちょっとからかってみただけ」
俺の反応を堪能したのか、ようやく俺の手を離した葛城。だが俺の手には、葛城のあの部分の柔らかさが残って、少し余韻に浸ってしまった。
「むっつりスケベはどうでもいいの。ただ、からかい甲斐があって、可愛い男子が好き。それが松原君」
用は済んだのか、葛城は視聴覚室を後にしようとしていたが、扉に手をかける前、再び俺の方を向いて。
「ニーソなら、これからも穿いてきてあげる。私の足と胸ばかり見ているし、好きなんでしょ? この変態さん?」
完全に俺は葛城のおもちゃにされてしまったようだ。2、3軍にからかわれるよりも、1軍のトップ、葛城のからかわれるのが、一番嫌だと思ってしまったが、明日も、葛城がニーソを穿いてきてくれると言った時は、すごく嬉しかった。
……俺って、本当に変態だな。
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