夏は、幼なじみと共に
第48話 終結する4軍
今日から夏休み。
部活動に励む生徒の姿もあれば、大学受験のため、暑い中、自習しに学校に来ている人も多かった。3年生は、週に3日は補習が組まれているようで、3学年は夏休みが無いようなものだ。あと2年で俺らもなるので、貴重な夏休みが学校の補習で消化されて行くのが凄く嫌だと、今から頭を抱えている。
「……まだ補習よりマシね」
「そうだな」
俺ら4軍も3学年と同じぐらい学校に行かないといけない。成績不良者の集まりとなっている4軍。週に3日は必ず登校し、そして1日は補習。残りの日は学校の中での雑用をさせられる。
そして今日は、全国大会に出る部活動の為の壮行会を行うため、周りに飾り付ける催しを作る作業を、4軍全員、20名で空き教室でする羽目になった。
空き教室なので、当然机は少ししかない。わずかな机は、俺よりも順位が上の奴らが使用して、俺ら最底辺は地べたで作業をしている。
クーラーは設置されているが、運の悪い事に故障中。窓を開けると埃が舞い上がり、環境が悪くなるため、少しだけ開けているが、風が生温かいので、全く涼しくない。過酷な環境で、作業をやらないといけない。
こう言うのは、生徒会がやるんじゃないのだろうか? 何故俺らがやらないといけないんだと、横で作業をしている楠木と愚痴っていた。
「……」
俺たちは一番多く作らないといけない、薄い紙で作る、パーティーなどによく見る丸いペーパーフラワーを作っているのだが、俺の目の前で作る木村は、意外と手先が不器用のようで、花ではない何かが出来ていた。
「もぐもぐ……」
俺に寄りかかって作業をしている菜摘。お菓子を食べながらゲームをやるような感覚で、菓子パンを食べながら、マイペースに折り紙で作る輪っかが繋がっている輪飾りをのんびりと作っていた。
「……松宮、手先は器用なのね」
菜摘は、好きな物の記憶力と、そして手先だけは器用だ。小学生の家庭科の授業、誰もが苦戦する針に糸を通す作業。それを初めてで一発で通した菜摘。針に糸を通す快感が心地よかったらしく、家庭科の授業中ずっと、次の授業が始まる数分前まで、ずっと針に糸を通して遊んでいたこともあった。
「……うう~っ。……同じ物ばっかり作っているので、飽きましたよ」
菜摘と同じ、輪飾りを作っていた紫苑は、単純作業が嫌いらしく、まだ10分ぐらいしか経っていないのに、埃っぽい床に寝転んでしまった。
「マロン~。私、こんなもの作るより、プールで涼んで遊びたいです~!」
「それなら、今から水泳部に入部してこい」
水泳部なら夏休み、毎日のようにプールに入っているだろう。運動神経は良い紫苑。紫苑のコミュ力があるなら、すぐに馴染んで選手として選ばれるだろう。
「それなら、マロンも一緒に入りましょーうっ!」
「断る」
部活なんかに入ったら、尚更俺のプライベートの時間が削られる。夏休み、俺は涼しい部屋でアニメや、ゲームをして、そして昇格に向けて勉強するって決めているんだ。
「松原~! これ、ごみ箱に捨てて来いよ~」
そう思っていると、俺の背中に空き缶を当てられた。どうやら、数少ない机を占領している4軍の中でも順位が上の奴が、投げたらしい。
「おい、そっち回れよ!」
「おう。……って、うわ~死んだ~!」
「何やってんだよ~」
しかもそいつらは、学校にゲーム機を持ってきて、4人で通信して一狩り行っているようだ。こうやって俺らは真面目に作業をやっているというのに、あいつらは楽しく一狩り行っているのが、凄くムカついてくるんだが。
「……私もやりたい」
木村は手を止めて、ペーパーフラワーではない、何かを見つめてそう嘆いていた。
木村はゲーマーの一面もある。以前に俺の部屋に来た時も、俺が持っているゲームソフトを興味津々と見ていた。そうなると木村もやっているのか、なら休みの時でも木村と一狩り行こうか。
「……ったく」
「捨てに行かなくていいわよ。ああ言う奴らこそ、ペナルティを受けるべきなんだから。放っておきなさいよ」
空き缶を放置しておくのもどうかと思ったので、自販機近くのゴミ箱に捨てに行こうとしたら、楠木に止められた。
確かに、俺がここで素直に捨てに行ったら、あいらが調子に乗るだけだ。俺より少し偉いってだけで威張るのが気に入らないので、俺も考え直して、再びペーパーフラワーを作り始めた。
この教室には1学年、4軍が集結している。総勢20名、ほとんどが男子で、菜摘、楠木、木村、紫苑の4人を含めて、女子はたった6人しかいない。残り14人は男子だ。
俺は初めて俺たち以外の4軍の生徒を知った。俺たち以外、どうやら本物の4軍がたくさんいるようだ。
「ドゥフフ~。小野氏、やはり女は2次元に限る~」
「
この会話をパソコンに表したら、草が生えまくっていて、顔文字やネット用語溢れていそうだ。
教室の端っこでは、5人の男子が抱き枕カバー、18禁の絵を吟味していた。俺の知らないキャラ達なので、きっとPCゲームのエロゲーのキャラだと思う。あれは、紛れもないオタクだ。以前の塚本のような見た目が2人。がりがりでメガネをかけているのが1人。顔がニキビだらけ、ニキビ跡だらけの奴が2人。あいつらは4軍が合っているだろう。
そして俺らの近くには、以前に法田たち、2軍の奴らにアキバを連れ回されていた塩田を含めた3人のドルオタが集まっている。
そして一狩りに行っている机を占領している4人、残りの2人の女子はこの男子グループと一緒にいる。こいつらは素行の悪い奴らに入るのだろう。見た目は結構怖く、裏ではカツアゲとかいけない事をしていそうな奴らばかりだった。あまり近寄りたくない奴らだ。
そして残り2人の男子は、俺と安藤。安藤はこの部屋にはいない。きっと底辺な人たちと一緒な空気を吸いたくない。同族になりたくないと思って、この部屋に姿を現さないのだろう。
「……何で、真面目に取り組んでいる俺たちが、こいつらより順位が下なんだ?」
「気にしたら、余計に傷つくわよ」
本当に、何故こいつらが俺たちよりも順位が上なのか。全く納得がいかないんだが。楠木もそれを気が付いているようで、気にしないようにと黙々とペーパーフラワーを作っていた。
「お疲れ様。4軍の皆さん」
時計の短針と長針が12をぴたりと差した時、空き教室に俺らの監視として1軍のトップ、葛城が部屋に入って来た。
昨日、俺と共に保護者の学校に対する抗議の会議を盗み聞きをしていた葛城。烏丸一族が、この学校の支配権を握っていると知ると、葛城は敵わないと思ってか、小さな溜息をついた。
『けど、これだけ相手が強い敵だと知ると、尚更スクールカースト制度をぶっ壊したくなって来ない? 松原君?』
真の相手は教育委員長兼、内閣の文部科学大臣の烏丸大臣。そんな強大な相手を知った葛城は、しばらく不安そうな、少し悩んだ顔を見せていたが、俺の顔を見た瞬間、すぐにいつも俺をからかう時のにこやかな顔をして、最後には俺を無理やり葛城を押し倒させて、俺は気が付くとまた葛城の胸を触ってしまい、そしてずっと猫のように昼寝をしていた菜摘がその騒動で起きて、俺は菜摘に耳を引っ張られたってオチだ。
「暑い中、本当にご苦労様です。次は2日後になります。頑張って準備をしましょう」
葛城が軽くお辞儀をした後、手を挙げて、口元をニヤリとさせていた。
「この教室にいる4軍全員に、ペナルティ執行」
そう言って、葛城は俺たちにペナルティとして、電流を流した。
「ある所には、ゲームで狩りに行くグループ。エロゲーで盛り上がるグループ。アイドルのグラビア写真集で盛り上がるグループ。今日は壮行会の準備をする為に集まっているんです。遊びではないんです。次は真面目に取り組むようにしてください」
俺と共にする、俺をからかう事を面白がっている、いつもの葛城ではない。1軍のトップらしい、凛とした姿で、俺たち睨んで教室を出ていった。
いつも、こんなんだったら良いのにな……。
電気から復活した他の4軍は、葛城を悪く言いながら、教室を出ていった。
今日は解散。それで俺も腹が減ったので、帰ろうとしたが。
「……菜摘。もういいぞ」
「もう少し作っていたいんだよね~」
流石マイペースクイーン。例え電流を流されてもビクともせず、菜摘は菓子パンを食べながら輪飾りをのんびりと作っていた。梱包材のプチプチを潰す感覚みたいに、たった数時間で菜摘は体育館が一周するぐらいの長い輪飾りを作り上げていた。
そして菜摘は、時計の針が1時を指すまでのんびりと、マイペースに作っていた。
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