第14話 至高の領域

 

「おはよう、ヒロ君」

「……菜摘、また勝手に家に入ってきたな」


 週末。俺はせっかくの休日をアニメ三昧で過ごす計画を立てて、それで昼まで寝て、昼頃から部屋にこもろうと思ったが、朝の5時に菜摘が起こしにやって来た。本当に、菜摘に合鍵を渡したおふくろを恨む。


「今日は一人にさせてくれ。今日は部屋にこもってアニメ鑑賞の日なんだよ」


 俺は布団をかぶって、菜摘にそう言ったが。


「ヒロ君。今日はお日柄も良くて、絶好のアキバ日和だね~」


 何だよ、アキバ日和って。休日の晴れた日は、何故アキバ日和なんだよ。


「菜摘。あそこは休日に行くもんじゃないんだ。バカみたいに人はいるし、尚更外人も増えるんだ。わざわざ疲れに行きたくない」

「欲しい本は無いの? 確か、数日前に欲しい本があるって言ってなかったっけ?」

「あれは放課後に買いに行く。だから今日は家から出ない」


 菜摘から顔を逸らして、俺は目を瞑る事にした。せっかくの休日なのに、早朝の5時に起こされられる身にもなってみろ。俺は心が広いから怒らんが、他の奴だったら怒るぞ。


「……せっかく休みなんだから、私と遊んだ方が、有意義な休日を過ごせると思うな~?」

「ラノベ、アニメ三昧の方が、俺にとっては有意義な休日になる」

「……遊ぼうよ~っ!」


 心の広い俺でも、休日の睡眠を邪魔にされて腹が立ったので、俺は菜摘のTシャツの襟をつかんで、そして部屋から追い出した。そして入って来られないように、扉の前にとにかく重い物を置いて、簡単に入って来られないようにした。


「……さて、寝るか」


 布団の中に入り、昼まで寝ようと思ったが、今の菜摘の行動のせいで、すっかり目が覚めてしまったので、設定を解除するのを忘れた平日の時に鳴る携帯のアラームが鳴って、7時に起きる羽目になった。



「……勉強でもするか」


 アニメは、菜摘と勉強をして溜まったストレスを発散するときに見るとして、俺は机に向かい、来週行なわれる中間テストのテスト勉強をやる事にした。

 今回の中間テストは、本当に勉強しないとやばい。このテストで、これからの学校生活が天国になるか地獄になるか。それがかかっている。

 いつもは3日前ぐらいからするが、今回は特別だ。少しだけ早めにやる事にした。


「本当に、家に出る気は無いんだね~」

「ほっとけ」


 俺が朝食を食べるためにリビングに行くと、いつも通りに菜摘が俺の家で朝食をご馳走になっていていた。通りで俺が外に追い出しても静かだと思ったら、1階のリビングに行き、俺のおふくろと話し、そしてテレビを見ていたのか……。

 それで朝食を終えると菜摘は俺の部屋で、自分の部屋のように横になってゴロゴロしていた。

 Tシャツに、ミニスカート。少し体を翻しても、見えそうなぐらい短い物を穿いているので、凄く目のやり場に困る。


「やっぱりヒロ君の部屋は落ち着くんだよね~」

「そうかい」


 のんびりと寝転んで、足をぱたぱたと振ってリラックスしている菜摘に俺は。


「と言うか菜摘。菜摘は特に勉強しないとマズいだろ。入学直後にやった実力テスト。ほとんど赤点だったんだろ?」

「そうだね~。凄く難しかったんだよね~」

「中学校までに習った範囲だったよな?」


 菜摘はこのマイペースのせいで、勉強は全く出来ない。授業中でもぼーっとしていることが多く、ノートすら取っていないようだ。


「……そうだ。……おい菜摘。勉強するぞ」

「私の辞書に勉強と言う言葉はありま――痛いよ、ヒロ君?」

「現実から逃げるな」


 大の勉強嫌いの菜摘は、勉強と言う言葉を聞いた途端、耳を塞いでいたので、俺は菜摘の頭にチョップした。


「……私の話を聞いてくれる?」

「何だよ」


 耳から手を放し、そしてここで俺の顔目前に菜摘の顔を急接近させる、『ずっと菜摘のターン』が発動していた。


「私にとって、勉強は息をするなと言うほどの無理な事なんだよ? 勉強はしなくても人は生きていけると思うよ? 勉強って学校で習うより、日頃の生活で何かを学んだほうが身のためになって、個人の意見を無視して、無理矢理やらせる学校の勉強は、全く役に立たないと思うんだけど、違う?」

「何で小説の台詞は覚えられて、勉強は出来ないんだ?」


 だが菜摘は、記憶力だけはすごく良い。勉強はダメだが、好きな物だったら、細かい事まで覚えている。

 今、菜摘が言った言葉は、以前にアキバのアニメショップで買った小説の、菜摘と同じく勉強が大嫌いのヒロインが、先生に対して言い訳をしている台詞だったはず。覚えている俺もすごいと思うが、こうやって全く同じことを覚えている菜摘はもっとすごいだろう。


「……菜摘の気持ちは分かった。……だが、菜摘が勉強すると言うのであれば、俺は菜摘の頭を撫でるんだが、どうする?」

「今すぐやろう。ヒロ君!」


 まあ、こう言っておけば、菜摘は言う事を聞く。昔から、そして受験の時の勉強もこうやって菜摘のやる気を出させていた。


「……最初からやる気を出せよ」


 目をキラキラさせているなら、菜摘はやる気あるようだ。まあ、勉強をやろうとしている動機は不純だが。

 そして受験勉強以来、俺と菜摘は部屋で勉強することにして、俺が菜摘に勉強を教え続けて、そしてあっという間に昼間になっていた。

 勉強するのも勉強になるが、教える側もすごく勉強になる。教えるには、自分にも分かっていないと他人に教えられない。もし教えていて分からないところが出てくれば、そこで自分も調べて勉強をする。それが受験の時にあったので、俺は受験のテストでは人生で初の高得点が出ていておふくろが感動して泣いていた。


「飯にでも食べに行くか?」


 おふくろは昼前にどこかに出かけて、今は菜摘と俺しかいない。飯の当てもないので、菜摘そう提案すると。


「……パンケーキ!」


 まだ菜摘の中でパンケーキがブームのようだ。俺は昼飯でパンケーキなんて、俺は食いたくない。と言うか、今は見たくも食いたくもない。


「どこかのファミレスか、最悪はコンビニのおにぎりでいいだろ。どうする? それでも菜摘も来るか?」

「ヒロ君となら、勿論行かせてもらいます~」


 俺とどこかに行くのが嬉しいのか、やんわりとした笑顔を浮かべながら、返事をしていた。


「じゃあ、菜摘も準備しろよ。俺は――」


 ちゃんと各部屋の戸締りが出来ているか確認しようと、ドアノブに手をかけようとしたら、俺は急に菜摘に背後から押し倒されて、体を翻して起き上がろうとすると、菜摘はそのまま俺の腹の上に座ってきた。


「久しぶりに2人きりだよね?」

「そうだな……」


 こうやって2人で会話するのも、確かに久しぶりな気がする。最近は楠木といる事が多くなり、こうやって菜摘と2人でいるのは、登下校以外なかった気がする。


「どう、ヒロ君?」

「どうって、何が……?」


 菜摘が俺の腹の上に座り、馬乗りになってスカートの端をチラチラしてきた。


「ヒロ君はミニで、それで何よりニーソ好きだよね~? ずっと、楠木さんの足ばかり見ているから~」


 それを菜摘に言われると、俺は菜摘から顔を逸らした。

 正直な事を言うと、俺はニーソが好きだ。色んなアニメを見ていると、色んなヒロインが穿いていることが多い。アニメを見ていると、ニーソとスカートやショーパンで出来る絶対領域、ちらりと柔らかそうな、すべすべした肌が見えているのが、俺はドキッとしてしまい、俺はいろんなアニメを見ていたら好きになっていた。

 現実では、そんなに穿いている人は多くない、アイドルやコスプレイヤーさんが穿いていることが多くて、日常的に穿く人はあまりいないだろう。

 だが楠木は、黒ニーソをいつも穿いているので、俺はいつもチラ見程度だが、いつも足に目が行ってしまう。もはやチラ見ではないかもしれない……。


 ……そう思うと、ニーソって最高だと思います、はい。


「私も楠木さんみたいに着てみたけど、どうかな?」

「……」

「照れているって事は、興奮しているんだね。分かるよ、顔真っ赤だもんね~」


 俺の幼なじみの菜摘は美少女だ。そんな菜摘が、ミニでニーソを穿いているとなると、俺はずっと菜摘の足ばかり見てしまう。ニーソとミニスカを穿いた自分を見てほしくて、こうやって押し倒したのだろう。


「……似合ってる」

「ありがとう、ヒロ君」


 俺がそう言うと、菜摘はようやく俺から退いて上機嫌になった。


「ヒロ君が望むなら、私はいつもで穿くよ? 何なら学校でも穿いても良いけど?」

「……いや、菜摘は今まで通りで黒のハイソックスでいい。楠木は楠木でいいんだ。菜摘は菜摘で、今まで通りの菜摘が俺は好きだ。菜摘は楠木に合わせる事は無いぞ」

「つまりヒロ君は、私の生足が良いって事? いいよ、ヒロ君がそう望むなら、私はこれまで通りにハイソックスで……」


 せっかく素晴らしい絶対領域が出来ているのに、菜摘は俺の前で脱ぎだしていたので、俺は菜摘を脱ぐのを止めさせた。と言うか、いきなり女子が男子の前でソックスを脱ぎだしたら、誰だって止めるだろう。




「……さて、どこに行くか」


 玄関の鍵を閉めて、俺たちはとりあえず駅の方に向かって行った。

 菜摘が嬉しそうに俺の横にくっついて歩いていると、俺のズボンのポケットに入れていたスマホから、着信音が鳴っていた。


「ヒロ君の携帯に電話がかかって来るなんて珍しいね~。いつも、私かおばさんだけだよね?」

「うるせぇ。……楠木からか?」


 楠木とは、以前に電話番号とメアド、それとラインのIDを交換しておいたんだ。こんな休日の昼下がりに、楠木は俺に何の用なのか。電話に出ると。


「やっほー。ヒロ」


 もしもしと言わず、やっほーと挨拶をする楠木。


「ヒロ。もしかして休日だからと言って寝てた?」

「いや、早朝から起きている」

「へえ~。ヒロって早起きなのね~」


 菜摘が起こしに来たから起きているだけなんだが、楠木に好印象を持たれたのなら、菜摘には少しだけ感謝だ。


「ねえヒロ。3時ぐらいから暇? 私はまだバイトが残っているんだけど、バイト終わったら暇だからさ、どこかで待ち合わせして、食べに行かない?」


 楠木にご飯を誘われた。バイトって事は、きっとメイド喫茶でバイトの事だろう。


「別にいいんだが、俺は今から菜摘とファミレスでも食べようと思っているんだ――」

「店長! すみませんが、急用が出来たんで、今日は早退します!!」


 余計な事を言わない方が良かったかもな。楠木は、俺が菜摘と食べに行くと知ると、一旦耳元からスマホを話して、店長に向けて大きな声で早退していた。どんだけ俺と食いに行きたいんだよ。


「……ごめんごめん。それでヒロはどこに行くつもり?」

「……近所のファミレスでもいいかと思っていたんだが。……何なら、今からでもアキバにでも行くが?」

「そ、それじゃあ! 私は電気街口で待っているわね! うふふっ~。凄く楽しみ~!」


 そして楠木との電話が切れた。

 きっと最後のは、俺には聞こえていないと思って、嬉しそうに呟いたのだろう。あえて、ツッコまないでおくか。


「結局、アキバに行く運命なんだよ、ヒロ君」

「そうらしいな……」


 アキバで楠木と待ち合わせすることになり、休日の人が多いアキバに行くことになった。まあ、一人で行くよりかは、女子と2人でアキバを散策するなら嬉しんだが。


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