第43話 BLは出会いの場
「……ま、松原君。……付き合ってほしい」
残り数日となった1学期。半日で終わるので、最近色々あって、疎かになっているアニメ鑑賞をするために、さっさと家に帰ろうとした時、少し顔を赤くした木村が俺にそう言ってきた。
「……つ、付き合うっていう意味は、ただ、私の買い物に付き合って欲しいって意味で」
それぐらい分かっている。もしも、もう一つの方の理由だったら、俺は夢かと思って、教室の壁に頭をぶつけているだろう。
「行ってきなさいよ。木村、アキバとかそういう所を一人で歩いていると、声かけられるらしいから」
横で話を聞いていた楠木が、そう俺に忠告してきた。見た目は小さく、そしてアニメで言うとロリッ娘に分類される木村。アキバとかに行ったら、それはオタクたちにとっては、木村は注目されるだろう。そして何より、アキバの人の量。木村では押し流され、目的地のねこのあなまでに疲れてしまうだろう。
「私はバイトだから、今日はいけないの。ヒロと木村で行ってきなさいな」
楠木がそう木村の背中を押して、鞄を持って教室を出ようとすると。
「……く、楠木さん」
「何?」
「……っ」
まだ楠木に地声で話しかけるのはなれていないようで、黙り込んだ後、すぐにスマホを取り出して、凄い勢いで文字を入力した後。
『私と、松、野郎と、一緒に、行けば、いい、だろ。メイド、痴女』
「誰が痴女なのよ……っ!?」
相変わらず、木村がスマホの音声機能で話すと口が悪くなるのは変わらないようだ。
「い、いふぁい……」
当然、楠木は木村に怒り、小さな木村の顔の両方の頬を引っ張っていた。
「変な事言うからよ。バイトは怠いと思っているけど、メイド服着るのは、結構好きなのよ」
まあ、メイド喫茶の楠木の衣装は、胸や、足の露出が多いので、同性の女子から見ると、痴女と思われても仕方ない。けど、楠木がメイド服を着るのが好きならば、今の木村の発言は聞き捨てならないのだろう。
「仲が良いよね~。何だが、私とヒロ君の昔のような光景だよね~」
いつの間にか現れた菜摘をツッコまないとして。
「来るのか」
「勿論~。私はヒロ君の傍にいるからね~」
段々、木村が抱いていた俺と二人っきりの買い物からは遠ざかっているような気がする。申し訳ないと思いながら、俺は木村に菜摘の事を話すと、木村は残念そうな顔をせず、こくりと頷いた。
俺たちは秋葉原、通称アキバにやって来た。今回、俺には何の目的はないが、木村の買い物がアキバにあるらしいので、その目的のために来たのだが。
「ほうほう。ここが日本の首都、アキバですか~」
「いつからアキバは日本の中心になったんだー?」
紫苑は、物珍しそうに秋葉原駅、電気街口を抜けた先にある広場を見て感動していた。
本当は、俺と木村、菜摘、そして途中まで楠木で来る予定だったのだが、木村の頬を引っ張っていた楠木の光景を喧嘩だと思って勘違いした紫苑が、仲裁に入り、そして楠木から話を聞くと、一度アキバに行ってみたいのと、俺がいると言う理由でついてきた。
「ヒロ。私は行くから、変な事は起こさないようにね」
「……ああ」
楠木は、マイペースクインの菜摘、天真爛漫な紫苑がいるので、この先の事を心配して、楠木はバイト先である、アキバのメイド喫茶に向かった。
「松原氏。まずはどこに向かおうか。フィギュアか? 美少女フィギュアか?」
「一人で行け」
そして、俺の話を勝手に聞いていた塚本は、俺たちと一緒にアキバにやって来た。塚本は、どうしてもフィギュアを見たいようだが、この態度がウザいので、俺は適当にあしらっておいた。
「マロン、マロン! 私、アキバは初めてなので、マロンがエスコートしてくださーい!」
塚本の誘いを断ると、紫苑が俺の背中に飛びついてきて、俺の背中に紫苑の柔らかい物を当てながら、そう言ってきた。
「ヒロ君。私もアキバは初めてなので、エスコートをお願い――痛いよ、ヒロ君?」
「お前は何度も来ているだろ」
紫苑に対抗してなのか、菜摘は俺の腕に抱き着いてきて、変な事を言ってきたので、俺は菜摘の頭を叩いておいた。俺がいる所に菜摘あり、じゃないのかよ。
「マロン。日本のお人形は、クオリティーが高いと聞くのですよっ! 塚本君が見たいと言っているのですから、フィギュアも見て見たいのですよ~」
「良かったな塚本。紫苑が一緒に行ってくれるようだぞ」
「あ、マロンが一緒じゃないと嫌ですよー」
紫苑が、一瞬で冷めた顔で、塚本と一緒にフィギュアを見に行くのを嫌がっていたので、塚本は駅の建物の近くで落ち込んでいたが、菜摘が慰めていた。
「けど、最初の行き先は決まっているんだよ。木村、ねこのあなに行くぞ」
「……待ってた」
本来の目的は、木村の買い物に付き合う事だ。木村がアキバに来るとなると、同人誌を主に販売しているねこのあな、だろうと思い、俺は木村にそう聞くと、木村は嬉しそうに頷いていた。
そして俺たちは、秋葉原の町を歩きだした。秋葉原のメインストリート、中央通りを出ると、平日だと言っても多くの人が居る。学生服の人もいるので、俺たちみたいに学校帰りにアキバに寄っている人も多いようだ。
「マロン。あの緑の横にかかっている橋は?」
「電車の高架橋。よく秋葉原を紹介するときに、アニメなどに描かれている事が多いな」
「つまり、アキバのシンボル……?」
まあ、そうなるだろう。アキバのメインストリート、中央通りを真ん中に描き、そして上には電車の高架。そして横にはゲーセンや、大きなビルを描いておけば、大体の人は秋葉原だと言う事が分かってしまう。紫苑の言う通り、アキバのシンボルと言っても過言ではないかもしれない。
そんな感じで、紫苑にアキバの事を紹介しながら、俺たちはねこのあなに到着した。来るのは1、2ヶ月以来だろうか。
「……変装完了っと」
今回は紫苑のように長いツインテールにして、変装用に黒縁メガネを装着して、ねこのあなの階段を駆け上がって行った。
俺たちもついて行くと、木村は目をキラキラさせて、たくさん売られた少しヤバいBL同人誌を手に取っていった。
「……松原君は、どれがお好み?」
「男にBLの好みを聞くか?」
BLなんて全く分からない。絵柄が少女漫画のようで、あまり好きな絵ではない。
「……これか?」
ラノベの絵でありそうな本を手に取ると、木村は興奮したように、俺にぐいぐいと顔を寄せて。
「……さすが松原君。……この作家さんは、とっても話の構成が上手。……読んでいるだけで、鼻血が止まらない」
木村が、鼻血を出して本を汚しそうになっていたので、俺は今日の朝に貰ったポケットティッシュを取り出して、木村の鼻を押さえた。
「じっとしてけ。落ち着いたら、買ってこいよ」
「……うん」
木村の顔が赤くなっていた。きっとBLの話を妄想して、興奮してしまったのだろう。
「……買ってくる」
「おう。行ってこい」
鼻血が止まってから、木村は両手いっぱいにBL本を持ってレジに向かった。レジには多くの客が並んでいるので、暫くかかりそうだ。木村が会計をして待っている間。
「ほうほう。これが最近の漫画ですね~。話はよく分からないですけど……」
そんな楽しそうにBLの本を読むんじゃない。紫苑が変な趣味に目覚めてしまったら怖いんだが。
「楽しい?」
「……よく分からないですが――って、あなたは誰ですかっ!?」
「誰でしょう?」
紫苑の肩に手をかけて、それはBLの男子の絡みのように、紫苑にあごクイする女子は、最近なって、俺に近づいてくる女子。
「奇遇ね。松原君? 女子と一緒にBLを買いにくるなんて、変わった趣味ね?」
あの有名なモナリザのような、うっすらと魔性の微笑みをした、1軍のトップの葛城が、ねこのあなにいた。
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