第34話 現役幼なじみと昔の幼なじみ

 

 俺が小学1年生の時。

 小学生に入学すると、神様のいたずらか、また菜摘と田辺と一緒になったと同時に、俺は高村紫苑と出会った。

 紫苑とは、1年生で同じクラスになり、2年生では違うクラスだったが、3年生で再び同じクラスになった。勿論、菜摘と田辺はずっと一緒だった。

 当時の俺は、今では嫌いな、わんぱくで生意気なガキで、菜摘と田辺を引っ張っていて、そして次第にムードメーカーの高村と出会い、意気投合もして、そして3年生で一緒なクラスになると、互いに好きになっていた。


 互いに両想いで、俺は高村に告白しようと決意した日に、紫苑に呼び出された。もしかして、高村から告白して来るのかと思い、浮足立って、高村と話した。


『私、来週からオーストラリアに行っちゃうんですよ~』


 話の内容は、高村が海外に引っ越すことだった。理由を聞いたら、親が転勤するからだった。


『あっははは……せっかくマロンと仲良くなって、……このまま仲良しで、マロンのお嫁さんならいいなって思った時に……本当に、人生って何があるか分からないですよね~!』


 高村はどんな時も笑っていた。例え、もう二度と会えないような時でも、高村はいつも笑っていた。


『そ、そうかよ。まあ、俺は紫苑ちゃんと離れるのは寂しいとは思わないぞ。何せ男はな、寂しいとか思っちゃダメだし、泣いちゃダメなんだよ。ヒーローは泣かない、どんな時でも涙を見せちゃいけない生き物なんだ』


 そして俺は、当時に他の男子にいじめられていた。高村や菜摘といつも一緒にいた事を妬んだ奴らが、俺をいじめの標的にして、今思い返しても辛くなる、陰湿ないじめを受けている最中だった。

 そして高村や菜摘、田辺に心配されないよう、いつもみたいに気丈に振る舞っていたが、高村を巻き込まないよう、距離を置こうと思っていた頃でもあった。


『まあ、俺は紫苑ちゃん――美島の事は何とも思っていないし、俺の事なんか忘れて、海外の生活を楽しめよ。コンクリートジャングルの東京、陰湿な日本人より、広大な土地のあるオーストラリアとか、アメリカの方が、きっと人生が楽しくなるし、美島の正確なら、すぐに外国人と仲良くなれるな。俺の事なんかさっさと忘れて、他の奴らにも別れの挨拶してこいよ』


 俺は、高村を突き放すような、強がりを言った会話を最後に、高村とは音信不通になった。俺自身に、色々悪い出来事が重なって、高村の電話番号も、引っ越し先の住所も聞けないまま、今に至る。





「うんうん。私より小さかったマロンが、今では私より大きくなって……そして、格好良くなっちゃいましたよ~」

「……しお――高村もな。……すっかり大人になって、美人になったな」


 マロンと言うあだ名。俺の正義の『マサヨシ』が砕けて行き、マヨ、マヨン、訛ってマロンになって、それが可愛いと言う事になり、高村だけマロンと呼ぶようになった。


「マロン? 私の脚に、何かついていますか?」


 自然に、高村の絶対領域を見ていたようで、高村に変に疑われていた。スカートと白ニーソで出来る絶対領域。楠木とはまた違う、素晴らしさがある。


「なるほどですよ……。私は安心しましたよ~。マロンは、すっかり大人の男性、むっつりさんになっていますよ~」

「女子が喜ぶことじゃないと思うぞ……」


 俺が、いやらしい目で見ていたとしても、高村はいつものように笑っていた。


「私は、マロンが好みの女性になれたって事ですね~。ママに聞いた甲斐がありましたよ~。今どきの日本の女子高生は、ツインテールでニーソックスを穿いておけば、大抵の男の子はノックアウトに出来るって言っていました~」


 あながち間違ってはいない。高村の母親、素晴らしいアドバイスだ。


「私の事は、覚えてるのかな?」


 やはりこういう状況で、俺の幼なじみは黙っていない。

 菜摘は以前に見せた冷たい眼差しで、高村を睨んでいた。新たなヒロイン登場という事で、楠木と木村のような女子をならないよう、警戒していた。


「もちのろんですよっ! 菜摘ちゃんも変わりませんね~」

「覚えていてくれて、嬉しいよ~」


 菜摘にも積極的に関わっていたので、すっかり成長して、マイペースクイーンになった現在の姿でも、高村はすぐに菜摘の事も分かり、菜摘の頭を撫でていた。


「あんなに小さくて、ずっとボーっとしていて、無口だった菜摘ちゃんが、今では私より大きくなって……。私、泣けてきましたよ……」

「そうだね~。けど、私の過去の事は忘れて欲しいかな~?」


 菜摘は、小学生の頃を話されるのが、意外と嫌なようだ。菜摘は、マイペースなのは変わらないが、俺以外には口を開かなかった。ずっと俺の後ろにいて、気付いたらどこかで迷子になっていたのは、今とあまり変わらない。


「けど、羨ましいのですよ。マロンと菜摘ちゃんは、あの時からずっと一緒なのですね」

「そうだな。まあ、高校生になって、ようやく別々のクラスになったぐらいで、ずっと一緒だった」


 高村は、俺と菜摘の関係を羨ましく思っているようで、和やかな雰囲気になっていた。


「私は、ずっとマロンの事を忘れませんでした。だから、今でもマロンの事が大好きですよ」


 和やかな空気になっていた時、唐突な告白に、俺だけではなく、隣りにいる菜摘も驚いていた。


「……高村。……俺は、高村の事は、すっかりと忘れていたし、昔の俺とは、全然違うぞ。憧れだった正義のヒーローなんて、クソ食らえと思っている」

「そうだよ~。今晩で、大人の保健体育の教科書を本棚の下に隠そうとしている、高村さんが想像している以上に変わったと思うよ~」


 どうして、菜摘は俺が考えていた、エロ本の場所が分かるのだろうか。


「いいのですよ。私は、純粋にマロンが大好きなのだけですから」

「いいの? ヒロ君は、ずっと高村さんの脚しか見ていないけど?」

「男の子ですからっ! つまり私の体は、マロンにとって魅力的って事じゃないですかっ! 好きな男の子に、そう思ってくれるなら、これ以上ない、幸せな事ですよっ!」


 高村は、菜摘の問いかけに答えた後、俺の前に立った。


「――っ」


 そして、高村は俺の頬にキスをした。


「流石に、キスはやった事が無い様子ですね~」

「そうだね~」


 高村の言う通り、生まれた時から幼なじみでも、俺と菜摘はキスの経験はない。俺は拍子を突かれ、ただ高村の唇があった所に手を添えるぐらいしか出来ず、菜摘は再び、高村を鋭い目つきで見ていた。


「高村さんの気持ちは分かった。ヒロ君は、ずっとカッコいいし、高校生になって、さらに魅力が増したと思うからね~」

「ですよねっ! 菜摘ちゃんも、マロンの事が――んっ」

「ちょっと興奮し過ぎだね~。ヒロ君との再会が、とっても嬉しかったんだね~」


 菜摘は、高村の唇を人差し指で押さえつける、『ずっと菜摘のターン』を発動していた。


「高村さんが、ヒロ君の事を好いてくれるなら、私も誇らしいよ。私は、高村さんの気持ちを否定しないし、これからもヒロ君の事を大好きでいて欲しいかな。けど。ヒロ君はとってもカッコいいから、他の女子にもブックマークされているよ」


 これは、菜摘からの忠告なのか、それとも宣戦布告なのか。ニコニコして答える菜摘の気持ちが分からなかった。


「なるほどなのですよっ! 菜摘ちゃんのアドバイス、感謝しますっ!」

「どういたしまして~」


 高村は忠告と受け止めたようで、ずっと廊下に放置されていた、クラスの分のノートを持ち上げて、再び運び始めた。


「マロン、左右にいた女の子で、どっちの方が、仲が良いのですか~? 是非とも、私も仲良くなりたいのですよ~」


 高村は、楠木と木村と仲良くなると言っているが、高村の背景に見えるどす黒いオーラのせいで、今日は休み時間に昼寝は出来なさそうだ。

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