第12話 全校集会
菜摘は俺に向けて恐ろしい微笑みをした後、いつの間にか現れた菜摘を見て驚いていた楠木の前に立ち、そして楠木の前でしゃがんでいた。
「楠木さん。ちょっと、二人だけで話してもいいかな?」
「な、何をする気よ……?」
「今日は天気が良いよね~。だから、楠木さんの断末魔が、外に響いちゃうかも~」
「本当に何する気なのっ!?」
しゃがんで楠木に微笑みかけていても、菜摘の表情は変わらない。口角は釣りあがっていて、目は微かに開いている。
この菜摘を見るのは、中学校以来だろうか。あの時は、俺が菜摘と仲が良い事を男子にからかわれている時に、菜摘が男子たちに向けていた顔と一緒だ。
あの時は中2で、今では高校生。可愛く、色々と大人っぽくなった菜摘は、今の怒った顔が結構怖い。
「貴方は、さっきスマホを取り上げられていた子だよね? ヒロ君から、スマホは帰って来た?」
菜摘は、木村に話しかけて、そして木村はすぐにスマホを取り出していた。
『はい』
「やっぱりヒロ君はカッコいいよね~」
俺は何もしていない。取り返したのは、菜摘であって、俺は猪俣の威圧に少し臆してしまっていた。
「それはそうと。ヒロ君は、いつからそんなに女の子にモテる、ハーレム主人公になっちゃったんだろうね~?」
やはり、楠木と木村に好意を持たれている事が、菜摘にとって不満のようだ。
「入学式の日に聞いていたよね? 私はヒロ君のお嫁さんって。こんな可愛くて、誰よりもヒロ君想いの幼なじみがいると言うのに、二人はヒロ君を狙うのかな?」
小さい頃からの付き合い。昔はずっと俺の後についてきた菜摘が気になって、そして幼稚園の頃、菜摘に好きと言って告白した記憶がある。その時にあげたのが、何度も折り直してしわしわとなった、不格好な折り紙で作った指輪だ。それを今でも菜摘は大事にとっといてあるようだ。
その頃からでも、菜摘はマイペースで、『うん』としか返事をしなかった。きっと恋愛とかそんな感情を知らなかったのだろう。のほほんとした感じで、軽い返事だった。
それから、菜摘とはほぼ毎日いて、歳を取っていくと、菜摘の見方が変わっていた。恋愛として見るより、ずっと幼いころから一緒の友達と言う感覚に変わっていた。
俺も次第に菜摘への恋心は薄くなり、ただのマイペースで世話の焼ける幼なじみになっていた。
「松宮。ヒロが、私に絶対揺るがないという保証はないわよ」
まず最初に、楠木が反論した。
「あんまりヒロに迷惑かけると、いつか愛想尽かされるわよ。面倒見のいい、メイド喫茶で人気の私が彼女になれば、ヒロは私に振り向くかもしれないわ」
「いいね~。私も、楠木さんのご奉仕をお願いしたいな~」
菜摘はそう言って、木村の前にしゃがんだ。
「木村さんだっけ? 貴方は?」
「……」
木村は、菜摘から視線を外して、黙り込んでいると、菜摘はすぐに俺の前にしゃがんできた。
「ヒロ君も成長したよね~。今までは、私と爽やか君以外、誰も寄り付かなかったのに、今では楠木さんと木村さんのような、美人で可愛い女の子と仲良くなった。高校生になって、ヒロ君の魅力に気付く人が増えたのかな~」
菜摘が、俺に近づく人間を排除していたからだとは、言い返せなかった。
「ヒロ君に、友達が出来て、私も嬉しいかな~。だから、これからも幼なじみの私も、一緒に仲良くしてくれると良いかな~」
そう言っている菜摘だが、目は全く笑っていなかった。
どんな話をするのか、固唾を飲んでいると言うのに、俺の後ろの村田が緊張感無く話しかけて来た。
「おい、松原」
「何だよ」
そして運命の放課後。緊急の全校集会をやる事になったので、ホームルームが終わった後、全校生徒は体育館に集合された。
「どうやったら、女子にモテるんだよ? 松宮に楠木、そして昼休みから戻ってきた時、あの攻略不可能と言われていた、木村まで攻略していたじゃないか?」
恐らく、村田は般若のような顔をしているのだろう。この全校集会じゃなくても、振り向くことは出来ないだろう。
今日の昼休みになるまで、素っ気ない態度を取っていた木村だが、楠木としばらく話していると、木村もひょこひょことやって来た。
1軍の奴ら、他の生徒がいるせいか、全く声を発する事は無いが、無表情だった木村は、俺たちの会話に頷く程度で、俺たちといるようになった。
「そうだな。そうやって口に出さずに、彼女なんていらないオーラを出していたら、自然に寄って来るんじゃないのか?」
「……つまり、クールキャラになれと?」
そう言っておけば、しばらくは黙っているだろう。村田、結構やかましいから、最近鬱陶しく思っているのは内緒だ。
「そういう事だ」
体育館のステージの方を向いて、今日でこのスクールカーストが終わるのか、ちゃんと聞いておかないとな。
「今日は早く帰れなくて残念だね~」
「そうなんだよ。今日は帰り道に今日発売のラノベを買おうと思っていたんだがぁああ!?」
村田と話している時は、いなかったはずの菜摘が、俺の横に立っていた。俺はびっくりして、いきなり大声を上げたので、周りの人も驚き、そして変な目で見られていた。
「やっほ~。ヒロ君」
「やっほ~、じゃないだろ! 早く元の場所に戻れ!」
「今日はどこで買うの? ヒロ君の聖地のアキバ? 近くの新宿? 吉祥寺? それとも気分転換に、少し離れた錦糸町? 私はヒロ君とならどこにでも付き合うよ」
俺の忠告を聞かない菜摘。もう、俺は知らん。怒られるのは菜摘だから、怒られていても、俺は知らない顔をしていよう。
「これより、緊急の集会を始めます」
もう、先生もクラスメイトも諦めているのか。菜摘が俺の横にくっついていても、誰も連れ戻そうとはせず、菜摘が横にいるまま、集会が始まった。
「今日の集会は、生徒会から重大発表があるために、生徒全員に集まっていただきました。それでは、生徒会長、
整えられた髪型、そして几帳面そうな顔で、優等生と思わせるメガネをかけ、そして体育館のステージにスポットライトを当てられて、立っていた。
初めて見たが、これが俺の高校の生徒会長、烏丸先輩らしい。生徒会長は、俺たちに一礼をした後、マイクを持って話し始めた。
「放課後、このような形で生徒諸君の時間を割いてしまい申し訳ない。だがこれから話すことは、諸君にとって、先生方にとって大事に話になり、今後の学校生活にも重要な話になるだろう」
俺らにとって重要な事は分かるが、なぜ先生にも重要な話になるのだろうか。
「まずは諸君に確認したい。諸君は、カースト制度と言うのを歴史の時間で習ったはずだ」
どうやら、今日で俺たちのスクールカーストは今日で終わりのようだ!
どこからか、俺たちのクラスのカースト制度が生徒会の耳に入ったようで、それをきっかけにいじめが起きて、そして2人、不登校の人が出てしまった。そんな話を聞いて、生徒会が黙っていない。
「……おっ」
そう思っていると、前の方に並んでいる楠木が、俺に向けてグッとしたポーズを送っていたので、俺も楠木にそのポーズを返した。
「習っている事なので説明は省略する。とあるクラスがカースト制度を使って、真新しい事をしていると言う事を耳にした。一人の生徒から話を聞いていると、私は感銘を受けた。上位は優位に立ち、下位は上位のために誠意をもって尽くす。……これは、この学校にも使えるのではと思った次第」
……ん? 何だか、会長の話の雲行きが怪しくなってきたぞ……?
「それで、この自由川高校、全学年、全生徒にスクールカースト制度を運用することを決めた」
これはまさかの展開。生徒会長が注意をすると思って、即廃止を求めてくるのかと思って聞いていたが、まさかこのスクールカーストに感動し、そして学校全体を巻き込んで、スクールカーストを実行しようとするなんて、俺は夢にも思わなかった。
「ヒロ君。カースト制度って何だっけ?」
相変わらずマイペースの菜摘。この状況を理解せず、暢気に俺にそう尋ねていた。
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