第16話 話し合い(物理での体話)

 俺はな、最悪の状況で落ち込む暇もなく、自分でもよく分からない力を貰い、訳の分からないうちに使途にされ、周りから好きかって言われて、知らないうちに騒動に巻き込まれたんだ。これ以上出て来るなよ。

 自分でも、何を言っているか分からない。


 そんな事を考えながら、歩いて行くと。

 なぜか、さっき偉そうなことを言っていた奴が、下がって行く。

 イノシシ君はお座りをして、その後伏せをする。



 自衛官は、焦っていた。

 報告にあった個体。この辺りに出没し、小銃などいくら食らわせても豆鉄砲状態。

 噂では、01式軽対戦車誘導弾を食らっても平気だと言っていた。


 その個体に対し人が連絡を行っている間に、通訳さんが車を降りて行ってしまった。彼は現在この世界で唯一の通訳さんだ。丁重にと言われている。

 さっき確かに、冗談で、話をしてみるかと言ったが、あくまでも冗談だ。俺のせいじゃない。

 大体あんなヤバそうなやつに向かって行くなんて、あの通訳、どこかぶっ壊れているんじゃないか? 何があっても、守れなんて言われているが、勝手に出て行ったんだ。俺は悪くない。

 そう言って、自身を納得させてハンドルに顔を伏せる。


 まことは、真司が出て行ったのは知っている。

 でもむこうに居るのは人型なので、話でもしに行ったのだろうと考えて気楽にしていた。そんな事より、お母さんに娘をよろしくと言われ。真司は、はいと答えた。

 これで公認だわと、頭に花が咲いていた。


 行政の担当者。

 彼も連絡を受けている。

 この周辺の警戒レベルが下がらない原因。

 複数の、巨大なイノシシと、巨人。

 有無を言わさず攻撃をしてくる。

 外出時は注意をしろ。

 注意と言ったって、どうするんだよ。

 あの通訳さんが出て行ったが、大丈夫なのか?

 話が通じれば、確かにこの辺りは安全になる。

 そう思いながら、そっと、覗き見る。


 

 真司は尋ねる。

〔なんで下がるんだ?〕

 聞かれて、自分が下がっていることに気が付いたようだ。

〔うぬ。俺としたことが。何者だお前?〕

〔俺は…… なんだろう?〕

 さっき自問した通り、よく分かっていない。

 

〔巻き込まれ体質の、お兄さん〕

 そう言われて、納得できるはずもない。

〔魔王テスタ様に仕える。四天が一人。リーゾ参る〕


 そう言ったと思うと、踏み込んでくる。


 うーん。早いが、向かってくる右手を右手でぺしっと払い手首をつかむ。その勢いのまま回り込み左手で肩を押し込む。

 それだけで、リーゾは肩を極められて跪く。

〔ぬおっ。なんだこれは〕

 力を抜き右手首を持ち上げて、一緒に上がって来た顔面に膝を入れる。

 それだけで、リーゾはあおむけになり大の字に倒れた。


 真司は、体は大きいがこいつ意外と弱いぞ?

 そう考えていた。



 車の中から見ていた自衛官は、全くやり取りが見えず。気が付けば鬼が倒れていた。

 なんだ、あの通訳?



〔勝ちで良いのか?〕

 そう聞いてみると、

〔もう一度だ〕

 そう言って、立ち上がり向かってくる。


 飽きもせず同じように殴って来た。今度は、右手の手首をつかみそのまま巻き込むように体を回転させる。

 リーゾはそのまま転がって行く。


 うーん。意外と面白い。


 なんだっけ? 合気だったか?

 相手の力をそのまま流すだけで、転がって行く。


〔ええい。打ち合え〕

 そんな事を叫びながらやって来る。

 それじゃあ。クロスカウンターでどうだ。

 リーゾの首。すごくゆがんだけど、大丈夫か?


〔おい。生きているか?〕

 俺が聞くと。

〔まったくあんた一体何者だ? 魔王様より体術では絶対強い〕

 ぶっ倒れていたのが、起き上がり。

 胡坐を組んで座り、そんな事をぼやく。


〔とりあえず、言ったことは覚えているか?〕

〔分かった。森からは出ん事にしよう。この辺りには居るから魔王様に合うならこい。連れて行ってやる〕

〔そんな事は無いだろうが。またな〕

 そう言って別れると、イノシシを連れて森の中へと消えて行った。



 車に戻り、

「話はつきました。森からは出てこない事になりました。帰りましょう」

 そう言うと、変な雰囲気のまま車は移動を開始した。



 家に帰っても、電気は復旧したが、水道はまだらしい。

 分断された主管の末端部分を処理しないと、当然ながら水が噴き出す。

 主管の末端は、行き止まりで水が停滞するような構造であってはならないため、単純に潰せば良い訳ではない。その為、設計をし直す必要があるらしい。


 急遽図面を書きなおし、わずか3日後。

 各所で工事が始まる前の晩、隊長さんがやって来た。

「諏訪さんこの前、鬼と話が通じたとか?」

「ええ。一緒に乗っていた隊員の方が報告書は書くから大丈夫と言ってくれたので帰ってきましたけれど」

 そう言ってみると、目を丸くした隊長さん。


「報告書は、『話はついた。もう出てこない』と書かれていてね。全く報告書になっていなかった」

 そう言って嘆いていた。


 あーまあそれしか、伝えていないよな。

 俺は納得したが、それではだめらしい。


 事の顛末を説明する。

 話し合おうとしたが、自分より強くないと従わないと言われたので、こぶしで話し合ったこと。相手は、テスタと言う魔王が治める国の四天王という役職でリーゾと言う事。会うなら魔王を紹介してくれるらしい。までを説明した。

 まあ、目は真ん丸で、口パクパク状態だったがメモをして帰った。


 なんだか、またすぐ呼び出されそうな気がするな。

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