第15話 対話と安定。状況の説明

 なぜか話は、スムーズに終わった。

 災害救助として、自衛隊が手伝うと話が決まり、町の人たちにも物資の援助を行う。

 基本的な方向として、一時的にだが特別自治区と決まった。だが、領主が亡くなっていれば、日本へと帰化するようだ。


 説明とお触れは、残った騎士団と兵士がすることとなった。


 そして次の日。フォークグラップル装備の、重機による作業効率のアップで領主さんは見つかったようだ。

 崩落による圧死状態で。


 崩落の中で幾人かは、崩れたときに地下に落ちて助かった人がいた。

 家宰さんと領主の娘。それと、おつきのメイドさんが2人。

 同じように地下に落ちても、そのまま石の直撃を受けた人たちもいたので、運が良かったのだろう。

 ただ衰弱はひどく、俺のお節介が発動した。


 メイドさんは、別の町を治める領主さんの娘と言うのも良かった。

 アドリア・デマルティーニさんとベネデッタ・アンブロジーニさん。

 貴族として、この町ペルディーダ家が位が高く、修行を兼ねてメイドをしていたようだ。

 後日この国、シウダー王国の地図と町の配置をざっとで書いてもらう。


 距離の単位は、馬車で何日だ。



 その後。俺を通訳に、お嬢様フィオリーナ様と家宰さんアルチバルド・デル・コルヴォさんを連れて、会議を行う。

 基本専制政治(せんせいせいじ)の国家。上が決めてお触れを出せば、民は従う。

 ところが、お嬢さんを含めて、常識と基本的知識が俺達から見ると全くない。

 生きていた時代背景が違うのだから仕方が無い。

 しばらくは、元のままで生活をしてもらい。援助しつつ、勉強をしてもらう事になった。


 そこでだ。

 優先的に俺たちの住む辺りの、ライフライン復旧を行ってくれることになったのは良い。

 だが、な・ぜ・か、お嬢様と家宰さん。テレーザとカリストがホームステイをすることになった。

 この話を持ってきた行政担当者に文句を言うと、国としてはテレーザとカリストは考えていなかったが、この4人に生活をしながら言葉と勉強を教えてくれ。

 その代わり、多くはないが給料は出すと言われて、なぜか俺の口が勝手に「はい。喜んで」と答えやがった。

 物資も、優先的に回してくれたし、お嬢さんや家宰さんのついでに服も貰えたから良いけどさ。

 この、行政担当者。関係省庁担当が集まって急遽できた、対策室。まだ正式に名前も決まっていないようだ。

 次から次へと出てくる問題。

 外務と、防衛。インフラ整備。

 聞くところによると、日本は大陸になったようだし大変だ。


 この一連の騒動で、まことのお母さんに会うことができた。

 さすがに元気ではないが、病院の事務方だった為、連勤記録に挑戦中だとわかった。

 残念ながら、お父さんの会社や、俺の会社は森になっていた。


 まことのお母さんに、自衛官と行政の偉い人を連れて一緒に会いに行った。

 まことの家も、国が使って良いかを許可を貰いに行ったのだが、疲れ果ていたおかあさん。

 まことの顔を見て、大泣きして大変だった。

 まことも喜んでいたが、俺の紹介を優先させて、出会いからの説明をする。

 その時の物語を語るまことの顔を見て、お母さんは何かを感じたらしく、ふつつかな娘ですがよろしくお願いしますとお願いされた。思わず「はい」と答えたが、いや、それはそれで、良いのか?


 その後、無事話も終わり、帰ろうとした俺たちにこそっと混ざり、帰ろうとしたお母さん。 

 目ざとい同僚に引きずられて「もういやー」と叫びながら、ゾンビのような同僚が徘徊する、事務所の奥へと連れていかれた。

 聞いたところによると、いつの間にか食料を求めた人たちが住み着いていたりして結構本業じゃない業務が大変らしい。

 救急はやって来るのに、退院がさせられないどうしようもない状態。


 それを聞いて、

「あーまだ、一般的な外出禁止が解かれていませんからねぇ。一度帰ると戻ってこないのが分かっているんでしょう。もう少しですよ」

 行政の担当者は軽く言っていた。


 でも、その後ろで

「その少しが大変なんだよ」

 そうボソッと、隊員がつぶやいた。

 その言葉が引っかかる。


「隊長さんも言っていましたが、森の方って大変なんですか?」

「ああ。映画に出るようなすごいのが出て、小さな武器じゃあケガもしないみたいでなぁ。聞くところによると、何か言葉を喋りバリアみたいなのも張るみたいだぞ」

「それって、知的生命体では?」

 俺がそう言うと、

「行って話をしてみるかい?」

 そう返して笑って来た。


 そんな事を言った帰り道、町の中で熊さん? に出会った。

 巨大イノシシを傍らに連れて、額に巨大な角を持つ3mほどの身長。

 体毛はなく、腰には何かの皮を巻いている。


「見た感じ、伝承の鬼に近いのですかね?」

 俺がのんきにそう言うと、自衛官はひたすら無線に何かを言って武器の使用許可を求めていた。

 イノシシ君は倒せるし、話をしてみるか?


 車のドアを開けて出てみる。

 すると結構距離があるのに、こちらに気が付いたようだ。

 おおよそ、30mくらいだろうか?

 イノシシは気にせず、周辺にある車転がしをして遊んでいる。



「こんな所に出て来て、何をしているんだ?」

 俺が声を張り上げると、

〔なんだお前。原住民か? まだ小さいようだな。引っ込んでいろ〕

 と言われた。

 いま、178cmくらいはある。

 そりゃ、あんたに比べりゃ小さいけどな。


〔こっち側は、俺たちの町だ。森から出てこなければ、危害を加える気はない〕

 そう言ったら、思いっきり笑い。

〔危害は加えないだ? 弱者は強者に従うものだ。従えたくば、勝ってみせろ〕

 そう言って、ふふんという感じで笑ってやがる。


 俺は根拠のない自信を持ち、歩みを進める。

 見た目だけで、人のことを弱者だと決めつけやがって。

 俺にはなあ。訳の分からない力があるんだ。たぶん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る