第14話 降臨

 テレーザは、真司が頭に手を置いた際、女神の声が聞こえて天啓を受けた。

 『彼に従いなさい』そうはっきり。



 帰りながら、真司はまことの頭に手を置く。

「何か感じる?」

「あったかくて安心する」

 そう言って、まことはにこにこしている。

 そして自衛官の視線が刺さる。



 真司はその後、住所を聞かれて一度帰る事とした。

 だがその2時間後、また呼び出される。



「呼び出してすまないね」

 目の前に居るのは、この作戦の隊長さん2等陸佐で55歳だそうだ。

 渡辺さんと言うようだ。

「先ほど君に参加してもらった現場検証時に、現地人の人に懐かれたと報告があってね」


 そう言われて、テレーザの事を思い出す。

「ええまあ、神の使いと勘違いされたようです」

 そう言うと、渡辺さんは申し訳なさそうに言ってくる。

「我々の隊員が行っても言葉が通じず、敵意ばかりが高くてね。目の前で連行をしたので、力を分かってくれたのか、直接的な攻撃はなくなったのだが……」


 そう言って目を伏せる。

 がばっと頭を下げて、言葉を紡ぐ。

「本来民間人である君に、こんな危険なことを依頼するのは、社会的にも常識的にもだめだと言うのは理解している。だが早くここでの事は講和に持ち込み、安全を確保しないと君たちを含む一般市民の生活が復旧できない。本当にやばいのは森の方で我々は…… あっ、いや」


 そう言うと、深呼吸をして。

「すまない。だが、ここは人の集落。話し合って、住み分けなりなんなりで収められるはずなんだ。時系列で考えると、あの二人。首を切られた日本人の為に、此処まで関係がこじれたのかもしれない。まあこれは憶測だが」

 疲れた感じがあるな。事態が発生したときから、もしかすると動きっぱなしなのかもしれない。俺は、渡辺さんの肩に手を置き、疲れを癒すイメージで力を発動する。


「うん。これは?」

 頭を抱えていた渡辺さんが、顔を上げてパタパタと自分を確認している。

「君。今、何かをしたね?」

 おれは、首を振り、

「危険が無いようでしたら、説得と言うか会話をしてみましょう。守っていただけるんですよね」

 とだけ答える。

「ああ。それはもちろん」

 すごく訝しげな目で、渡辺さんは答える。




 結局、3台の車に分乗して、一度テレーザの家へと向かう。

 テレーザを乗せるためだ。

 通りで車を駐車する。見張りが残り、残りは俺が先頭になり、テレーザの家へと行く。


 ノックをすると、すぐに顔を出して来た。

〔御使い様。どうされました?〕

 俺の顔を見ると、にこやかに問いかけて来た。

〔ああいや、キミに頼みたいことがあってね〕


 そう言うと、まあと言う顔で、頼みごとの説明をすると、

〔では先に、兄の所へ向かいましょう〕

 そう言って、丘の方へと向かおうとする。


 通りに出て、テレーザに声をかける。

〔一緒に行こう。これに乗って〕

〔これは馬車?〕

 きょろきょろと、車の周りを回って確認している。

〔みたいなものだよ〕

 そう、俺が言ってドアを開ける。


 恐々、乗り込むテレーザ。

〔行きましょうか。住民を刺激しないようにゆっくりと〕

 そう言って出発をする。

 

 3台のうち前後は、警官と自衛官。

 真ん中の車には、助手席に俺が乗って、後席はまこととテレーザ。


 車で、15分かけて丘へと登って来る。

 途中から、屋敷の残骸なのだろう、結構大きな石がそこら中に置かれている。


「これはすごいな」

「おれがぼやいていると、前の車が止まり、前側に棒きれや石を持った男たちが立ちふさがり、やばい雰囲気がしている。

〔テレーザ。すまない説得を頼む〕

 そう言って振り向くが、車からの出方が分からないのだろう。

 俺は助手席から降りて、後部のドアを開ける。

 この車だけ5ドアなんだよね。


 立ち並ぶ男たちの中に、兄を見つけたのか、テレーザが走って行く。

 双方に緊張が走る。



〔テレーザ。蛮族と一緒に? なにもされていないのか?〕

 そう言って、カリストはテレーザの様子を確認する。

〔あの襲って来た2人。あいつ達だけが荒くれ者だったみたい。それと、私スサーテラ様。女神さまの声を聴いたの〕

〔なに? 何時どこで?〕

 テレーザの両肩をつかみ、慌てるカリスト。


〔ふふふっ。あの方が御使い様なの〕

 そう言って、近づいて行っていた俺を、手を伸ばして迎える。



〔現地人じゃないか。御使い様?〕

〔そうよ。私たちは彼に会うために、この世界へ来たのかもしれなくてよ〕

 そう言って、嬉しそうな微笑みを浮かべるテレーザだが、カリストは浮かない顔をする。

 その時。矢が飛んできて、俺の胸にあたる寸前。俺は掴む。

〔これを撃ったのは誰だ!!〕

 俺が叫ぶと、つい力が入り何かが発動したようだ。

 目の前に居た人たちは、跪き? 力なく膝立ちになり蹲(うずくま)る。


 すぐ横でそれを見ていたテレーザは、一瞬驚いた顔をしたが、御身の力。御見せ頂きましたわぁと言う感じで…… きらきらした瞳で俺を見る。

 カリストは呆然として、矢を持って仁王立ちする俺と、跪(ひざまず)いた者たちをきょろきょろと見ている。


 すると、テレーザは俺の前に出て来て、

〔この方は、スサーテラ様。女神さまの御使い様です。無礼なことは止めて下さい〕

 仁王立ちで、腰に手を当て堂々と言い放った。


 すると、ざわざわと広がって行くざわめき。

 それを見て俺は、ああうん。どうすりゃいいんだ? そう困惑をした。

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