第13話 難航する対話

 今回、自衛隊と警察の行った作戦。

 実は、世界中で行われていた。


 物理的に現れた瞬間、彼らを制圧した国。


 日本の様に、対話をしようとして交渉のテーブルに着いた国。襲われた国。

 後者は、今躍起になって翻訳作業を進めていた。

 言い方は悪いが、食べ物で協力者が釣れた。


 そんな状況は、世界中でいくつかの国では情報共有されて行った。



 そんな中、自衛隊と警察は捕えた者たちの治療後。軽傷な者を数人残し尋問していた。

 必要な事を、絵を描き聞くがお手上げ状態。

「どうします?」

 警官も自衛隊員もとりあえず収監して後日にしようか考えていたとき。

「すいません。お手伝いしましょうか? 彼らの言う事がなんとなく分かるんですが」

 そんな事を言って、つなぎを着た男が現れた。


「ありゃ。又兄ちゃんか? こいつらの言葉が分かるのか」

「ええどうしてか。困ったことに。それで、さっき。ええと、あいつだ。あいつが女の人たち攫った奴みたいですよ。話が出来そうなら被害に遭った女の人に確認してもらってください」

 警官と、自衛官はそうかという感じで走り出す。

 ほどなく3人が主犯だと確認できたようだ。


「いや兄ちゃんありがとう。最初に気が付くべきだったが、どの子も状態がひどくてな。それで後ろで引っ付いている子は妹か?」

「いいえ。親が帰ってこなくて食べるものが無いようで、保護しているだけです」

「うーん? 高校生のようだが、手を出していないよな」

「やだなあ。当然ですよ」

 そう言って笑う。まこともうんうんと頷いている。


「なら良い。こんな状態だからこそ民度と言う物をだな。日本国民として……」

 そんな事を言い出したので、話をぶった切る。

「それで、何か話を聞くのならお手伝いしますが?」

「うーんまあ。頼むか。自衛隊の。あああんただ、さっき民家で被害者が見つかったと言っていたよな。この兄ちゃん言葉が分かるらしい」

 通りかかった自衛官を呼び止める。

「本当か? なぜ?」

「さあ不明ですが。聞いていると分かるようになったとしか」

「まあいい。本当なら手伝ってくれ」


 そう言って、隊長の所へ連れていかれた。

「本当に分かるなら大助かりだ。会話用の対応表も作って欲しいが頼めるかね。民間人もかなり敵意が高くてね」

「はいまあ。やってみます」


「おおい、この人を連れて警官と調書を取りに行ってくれ。サポートは3人で付け」

「はい。こちらへどうぞ」

「うん? その子も行くのか?」

 まことに聞いてくる隊長。

「付いて行きます」

「だそうです。この子今回の事で親が帰ってこなくて、一人になるのが不安らしくて」

「ああまあ、皆から離れないようにね」

 隊長さんの目が親の目になった。同じくらいの娘でも居るのだろうか?


「きみ。この子の状態に付け込んで、手なんぞだしていないな?」

 すごい目でにらみ、質問してきた。

「やだなあ。当然ですよ」

「なら良い。今日捕まえた奴らの、鬼畜ぶりにみんな気が立っていてな。すまない」

 そう言って送り出してくれた。


 まああの、女性の状態を見れば想像はつく。

「まこと、気を付けて。離れるなよ」

 そう言うと俺の背中に張り付き、俺の手を握って来た。

「いやそれだと、周りの人たちの目が怖くなるから。ちょっと離れて」

 そう言うと、いやそうな顔をするが、

「私たちも、周りで警戒していますから」

 そう言って、一緒に行くのか、女性の自衛官さんがにこやかに言ってくれた。


 途中まで車。

 これごついけどジ○ニーか?

 ゴトゴトと、2台で向かう。

 警官2名と自衛官。護衛が3人と車の見張り2名のようだ。

 まことが増えたので、警官一人はラゲージルームに座っている。

 ここはまだ、誰の土地か分かっていないから、道交法に抵触しないとの事。


 この家だ。

 自衛官が、周りを警戒しながら、ドアをノックする。


 中から女の子が顔を出す。

 高校生くらいだろうか? 俺たちを見て顔を引きつらせる。

〔ごめんな。中で死んでいた男たちのことで話が聞きたい〕

 俺がそう言うと、女の子はびっくりした顔になる。

 少し考えこむが、

〔どうぞ〕

 そう言って、中に入れてくれた。


〔俺たちはこの町の外の国。日本という国だ。そこの自衛官と警察でね。うちの国民が死んだとなると調べなきゃいけないんだ〕

 そう言ってから、自衛官と警察で通じるのかと思ったが、

〔そうですか日本と言う国。兵と衛兵。でも悪いのはあの二人で、いきなり私を襲って来たんです〕

 必死な目をして、訴えて来る。

〔ちょっと待って〕

「あの二人が、いきなりこの子を襲って来たようです」

 後ろを振り返り、警官に説明する。

「詳しく状態を聴けるかね」

「聞いてみます」


〔その時の事詳しく教えてくれる?〕

 そう聞くと、少女は頷き、奥の部屋へ案内をしてくれる。

 中に入ると床には、乾いて入るが血だまりが残っている。


〔この部屋で、領主様の館が崩れて救出に向かう、兄の着替えを手伝って居たんです〕

 そう言って、入り口のドアの脇を指し示し、

「この辺りに兄が居て、私はこちらです」


 話を警官に伝える。

〔そうしたらいきなり、ドアが開いて男が1人。私に襲い掛かってきて服を破かれたところで、兄が首を撥ねたんです。そのすぐ後にも男が入って来て同じ感じで〕


「だそうですよ」

 警官に言うと、

「なんと馬鹿なことを。この世界が現れてすぐの事なんだな」


 そんな話をしていると、彼女が名刺入れと財布を持って来た。

「これは、その男たちの持ち物だそうです」

 警官が受け取り確認する。


 名刺を見つけて、

「美濃と伹野か」

「「えっ」」

 俺とまことが反応をする。


「知り合いか?」

 怪訝そうに見られる。

「そいつら、俺の彼女を寝取って居た奴らで、俺が家から追い出したんですが、すぐにここへ押し込んだのですね」

「そりゃ、なんというか。屑だな」

 するとまことが、

「美濃と言う方。家の叔父です。すみません」

 そう聞いて、警官は目を丸くする。

「叔父だとしても、君は関係ない。悪いのはこのおじさんだ。君もいいね」

 なぜか警官は俺に念を押す。


「あーと。お兄さんは領主の館か。名前だけ聞いて帰るか。名前あるのかね」

〔俺の名前は、諏訪 真司だ。君とお兄さんの名前は?〕

〔兄はカリスト。私はテレーザです。兄は私を守っただけです〕

〔大丈夫。分かっているから〕

 そう言って、何となく彼女の頭をなでる。

 その瞬間、彼女は俺に跪き、祈り始めた。


 困惑する一同。

 頭をなでる行為に、何か深い意味があったのか? だとするとまずい。


 俺があせっていると、テレーザは、

〔私たちの言葉を使い、おかしいと思ったら、あなたは女神の御使い様だったのですね。そうおっしゃってくれれば、みな従いますのに〕

 そう言って、テレーザは俺の手を取り涙を流す。

 横で、まことはふくれっ面をして、周りの警官や自衛官は訳が分からなそうだ。


「何か俺のことを、女神の御使い様だと言っています。どうしましょう?」

「御使いと言うと、使徒とかキリストの事ですよね」

「よく分からんが、協力をしてくれるならそれで良い。それで名前はさっき聞こえた、テレなんとかさんかな?」

「そうです。お兄さんがカリストさんで、この子はテレーザさんと言うそうです。お兄さんは私を守っただけですと言っています」


「うん分かった。礼を言ってくれ。帰ろうか」

「あっいや。手を放して貰えないのですが」

「羨ましい。こんなかわいい子に。あっいや。君、その手を放してくれんかね」

 目線を合わせて、警官がそう言うと、そっと手を放す。理解してくれた様だ。



「いやあ助かったよ。君について、謎が増えたが、それは私たちの領分ではないが、報告はさせてもらおう」

 そう言って笑う警官。

 俺は、いやな予感しか、しないよ。

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