第50話 幻想は潰える

「お前、本当にラポラなのか?」

「ええ。もちのろんでございます。知りえた情報を、皆様に伝えましょう」

 そう言って、高機能魔道具眼鏡をくいっと上げる。


 そして、どうやっても不可能だろうと思える胸の谷間に、意味がありそうな感じで右手を持っていく。

 その手はそのまま、逆の左手が、カバンから一本の巻物を取り出して、何もなかったように読み始める。


「日本国は、軍隊等を持たず、防衛のために武力を持っている。でございます。で・す・があぁっ、その装備。うちの国はもとより、センダスサテラ。今となっては、元居た星となってしまいましたが、全勢力を持ってもプチっとつぶされ終わるでしょう」

「なっ。何の根拠があってそんなことを」


 そう聞かれると、大きく手を広げ、声を発する。

「お聞きなさ~い。わが軍の攻撃用魔道具。最大距離で頑張って1km。弓など数百m。唯一試作品の魔力干渉型レール弓が、矢が溶けなければ、数10km飛ぶらしいとなっています。まあ技術者は、材質さえなんとかなれば、数100kmでも問題ないと言っていますが。そ・れ・でも、話になりません。日本では射程1000キロを超える武器もあるとか。噂にもなっていますが、向こうではありませんね。我々が来てしまった、こちらの世界では、それが当たり前。それが基本。私たちのレベルなど、とっくの昔に、過去の歴史へとなっているような、装備しか持っておりません」

 そう言い切ると、大きく息を吐く。


「そんな、情弱。ああ、こちらでは情報を知らない愚か者をそう称するとの事。ほかにも『井の中の蛙(かわず)大海を知らず』などと言う言葉もあるとか、こちらでしたら、籠もる研究者、銀貨1枚の価値も無し。ですわね。自分が研究している魔道具が、実はすでに銀貨1枚で売られていることを知ったとき、その絶望する顔はゾクゾクしますわ……」

 そこまで言って、みんなが引いていることに気が付く。


「こほん。失礼。それと、私。日本から入手したと言われるもので、こんな便利な物を見つけました」

 そう言って、今度は素直に長方形の紙束? を取り出す。

 そして、紙の隅を持つと、ばさっと広がる。

 それは、ミウラ折りされた地図 。


「折り方が特殊なため ほら簡単。ですがその中身は……」

 そう言って、2枚の紙を見せつける。


「なっこれは」

「そう。我が共和国。セトプレコウグニアスの詳細図と地図。それも、我が国秘蔵のタイオス様作成テラグランデ詳細全図よりも、はるかに正確で緻密。見てください。こちら、衛星写真と呼ばれるものらしいですが。ほら、ここ。この中央議会会館の脇で兵がさぼっているところまで見えますわね。わたくし、最初にこれを見たとき、驚きで足が立たなくなり、少しちびってしまいましたわ」


 そう言うと、ダメ押しとばかりに、ファイルが取り出されていく。


 その写真には、真司がお遊びで混ぜた、宇宙を飛べるタイプの大和や、宇宙空間で戦闘できる人搭乗型のロボット。それが、さっそうと盾と赤く光るサーベルを持った物。ご丁寧に、足元に人が立っている。これは、実物大の物が公開された時の写真に盾とサーベルを加工したもの。背景のビル群なども重要な情報。

 当然この国に、そんな建物は無い。


 そして、大部分は外見だけではあるが、陸海空の主要装備。

 裏を返せば、ちょっとした基本性能が書いてある。


 飛行機の写真をぴらっとひっくり返し、

「ニスカヴァーラ様。飛行機。空を飛べる戦闘専用飛行機だそうですわ。F-35A。音の速さの1.5倍で飛ぶことができて、2200kmも飛べるのですって。この前来ていたのは、輸送用と…… ああこれですわね。戦闘ヘリコプターAH-64D アパッチ・ロングボウ。詳細は読んでもよくわかりませんが、30mmの礫を毎分600個も撃てるようですわ。弓など番える暇がありませんわね」


 ニスカヴァーラをはじめ、ペルトラもカルミも冷や汗を流しながら食い入るように見ている。

 特に、ペルトラは錬金術師。距離にはこだわる。

 魔道具作成で長さというものは、非常に重要だ。

 地図を眺め、衛星写真を見て自分の記憶と比較する。特にこの建物と入って来た門。

 そして玄関から、この部屋まで。


「自分の記憶と、比べて見て」

 そう言って、カルミに渡す。


 カルミも装飾関係だ。長さにはこだわる。


 これ、空から写したのよね。

 すでにこの国にも、画を撮る魔道具は存在している。


「確かこの辺りに」

 そう言って見つけたのは、地球の衛星写真に、誰かが精神感応セルの入ったフレーム素材同士が、共振を起こし煌めいている所を合成したもの。

「これだわ」

 その画を、ペルトラに見せる。


「これは、この青い。ああそうか、白いのは雲ね」

「そうよ、彼らはすでに飛ぶことができる。ということは、弓など役に立たない高さから、画が撮れる」

「じゃあ今もずっと、見られているの?」


「「ははっ」」

 そう言って力なく笑うと、二人とも涙を流す。

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