第49話 思いもよらぬこと。それを予想外という。

「教えていただけるかしら? 代表のニスカヴァーラ様。どうするつもり?」

 来た早々、威圧をかけ文句を言っているのは、アーケミヤ統領アーヴェ・ペルトラ。横には、コリステ統領ジェノヴェッファ・カルミも腕組みをしてにらんでいる。


「商人たちが、穀物や燃料。塩。衣類に至るまで狂ったように買い付けに走っているわ」

 ペルトラが、静かに聞いて来る。

「そうよ。私が管理している町や村も大騒ぎよ。あれじゃあ落ち着いて仕事もできないじゃない」

 カルミは、装飾を基本の商いとしている。

 その為、布や金属、宝石、木や貝殻に至るまで必要なものは多く、流通の滞りは死活問題だ。



「カルミ、ペルトラ両統領。少し落ち着いてくれ。困っているのは君たちだけではない。そもそも、この共和国自体が流通をなくしては生活ができない。現状の危機は君たちだけの問題ではないのだよ」

「だからよ。通常の流通がすべて止められて、今現在、運ばれ売買されている物は穀物が主よ。それがどうしてだか分かる? 読んであげるわ」

 そう言うと、ペルトラが巻物を取り出す。

 重要情報は、途中を入れ替えられないように、巻物でやり取りされるようだ。


「今、国はシウダー王国と戦争をしている。これからは、食料が、穀物が輸入されない。戦局も非常に旗色が悪い。向こうには、この星に原住していた、日本と言う国家が後ろについた。彼らは、我が国などボタン一つで倒せるようだ。実際各町に設置されていた防衛用の魔道具が破壊され無くなっているぞ。本当にやられたんだ。すべて本当だ。早く食料を買いこまないと飢えて死ぬぞ。いやそれどころか、負ければ皆殺しにされる。いや、日本と言う国は民には優しいらしい。だが、シウダー王国は農業国だ人手が欲しいから奴隷にされるんじゃないか? じゃあどっちにしろ民の命はとられないと言うことだ。先のことを言っても仕方がない食い物を買え」

 資料から、目線を外してため息をつく。


「まあいくつかの情報が、流れに沿って書かれているようだけど、おおむねどこで言われている物も同じ。こんな情報が、わが国内どこでも広がっているの。早く手を打たないと、民の暴動でも起これば終わりよ」

 そう言って、どうするの? 早く答えなさいよと目が訴える。


「ああその話は、聞き及んでいる。今回の事態が起こる前。管理貯蔵庫には、穀物各種類5年分の備蓄があった。大体この手の話は、すぐに手を打てば収まる。話が出始めたときに、我々は早々に手を打ったのだよ。普通なら、少し備蓄を放出して、様子を見れば、デマだと皆が理解して、落ち着く目算だった。だがっ、今回はなぜか…… それを放出しても、流通も価格も安定しないんだ。商人や民が、備蓄に走ったとしてもおかしい」

 そう言うと、代表アトロ・ニスカヴァーラはこぶしを握りフルフルと震える。


「秘書官ビルギッタ・ラポラでしゅ」

 ぺらっと、メモをめくると話し出す。

「大体、放出時期になると、変わった格好をした夫婦が現れて、根こそぎ買っていく。ええと他には、いつの間にか倉庫が空になっていた。これは民の為に売る分をぎりぎり調整したかのように、余剰分だけが消えていたようでしゅ」


「そのわざと噛む、うっとしい真似はやめなさい。その、夫婦の商人。どこの者なの?」

「うっとうしくありましぇん。これは私の可愛さです。商人の許可証はたぶん偽物です。と言うかぁ、許可証の記載は本当で、それをもとに探したのですが、該当の商社にその夫婦が存在しませんでした。なお支払った金貨はすべて本物となっています」

 ラポラは言い終わると、ちらっと、ペルトラを上目で見る。


「まったく。私に色目を使ってどうするのよ。そんなものは飲み屋でしなさい。とにかく、その謎の夫婦を捕まえなさいな。人相書きは無いの?」

 ラポラは、ぺらっと紙を差し出す。


「何よこれ? 顔がないじゃない」

「確かに会ったときには顔を見たし覚えていた。だが、奴らが離れるとすぐに忘れてどうやっても思い出せない。で、ごじゃいましゅ」

 

「くっ。じゃあ兵でも、卸の商店へ常駐させて、大量買いをやめさせれば良いじゃない」

「えーとですね、にこやかに微笑む夫人の顔を見ると、なぜかすべてを差し出したくなる。購入を断るなんて無理との事でしゅ」


「何か手はないの? このままでいくと、数週間で民が飢えるわよ。そうすれば暴動がおこるわ」


「文句ばかりではなく、君たちもこの共和国の統領なのだ。な案を出してくれ」

 頭を抱えながら、ニスカヴァーラは二人に告げる。


 そこへ、秘書官ビルギッタ・ラポラは爆弾を放り込む。

「そんなもの、決まっています。シウダー王国と日本。諏訪王国へ向けて、ごめんなさいと言えば済みますよね。その後、食料を売ってくれと言えば。お金は余っていますし問題ないのでは?」

 名案でしょ? そんな感じで小首をかしげるラポラ。


「君なあ、それはだめだろう。優秀だと思っていたが、そんな愚かなことを言い出すとは」

 小首をかしげすぎて、倒れそうになったラポラは、姿勢を正し反論する。

「愚かでしょうか? 今までの付き合いを、先に反故にして、向こうへちょっかいを出し。危険な魔道具を実験して、伝説の魔王を復活させようとする。せっかくここまでやって来て下さった、シウダー王国ほか2国に対して、国力を含む情報を知らないうちに宣戦布告。これが驕り高ぶる愚か者と言うものでは?」

 ラポラはきっぱり言い放ち、胸を張る。

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