第48話 悪い魔王じゃないよ。大事な情報を教えてあげる。

 俺とシャジャラは、日本が作った共和国の地図を眺めながら、街道を歩いて行く。

 あまり整備された感じではない。

 前に話を聞いたときには、大量輸送には船を使うと言っていたのが、正解なんだろう。


 こちらの共和国は、基本的に雨が少なく、がれ場の荒野が広がる。

 ただひたすら広い景色。

 南側には、山脈があるため川はあるが、きちっとした灌漑はされていない。

 王国からの輸入に頼り切っているのだろう。


 だから村があるのは、何かの鉱脈が発見されたとか、そんな所に村ができる。

 露天掘りか坑道。

 その周辺に、精錬用の施設が出来て、その周辺にさらに加工用の人間が集まり町が出来て広がって行く。


 さてと、一番近い村はこれか?

「ずいぶん、くたびれた感じだな」

「なんだよ兄ちゃん。人の町に来て一言目がそれかい」

「おっとすまん。門番が居たのか」

 そう返す俺の格好を、じろじろと見て来る。


 まあ珍しいだろう。

 おれもシャジャラも、下はジーンズそれにTシャツ。

 お揃いでパーカーを羽織っている。

 ちなみに、俺のTシャツにはでかでか『魔王』と漢字で書かれている。

 まことがひどく興奮した状態で買ってきて、仕方が無く着ている。


「変わった格好だな? どこから来たんだい?」

「日本と言う国だ。しばらく前に大陸が、地球と呼ばれるこの星へ転移して来たんだ。ほら地面が揺れただろ」

「おっおう。あった。あの時そんな事が起こったのか」

「なんだ国からも、何も通達が無かったのか?」

「ああこの町は、採掘していた鉱石。主に銅と鉛。たまに金が採れていたんだが枯れちまってな。今丁度管理が、採掘関係のカイボストを治めている統領ヘイモ・コイヴィスト様から、錬金関係のアーケミヤ統領のアーヴェ・ペルトラに管理が移ってな大変なんだよ」

「そうなのか」

 俺は悩むふりをする。


「じゃあ、ひょっとして、資源を得るために、シウダー王国にちょっかいを出して、そこに居合わせた国とも、戦争になったのを知らないのか?」

「戦争? 嘘つけ」


「少し前から変なものが空を飛んでいるだろう。見たことないか?」

「おうあるぞ。あれはうちで開発中だった、飛行用魔道具じゃなかったのか?」

「おうさ。あれは日本の物だ。言っちゃ悪いが、この国とは比べ物にならん」

「なんだよそりゃ。自国のひいきか?」

「ちがう。おれはシウダー王国も見た。あそこと100年くらいの差なら話にならん」

 そう言うと、怪訝そうにしながらも悩みだす。


「どれだけ違うんだよ?」

「いま。この国もシウダー王国も馬で移動しているだろ。日本はな、空を飛んで音よりも早く移動する。この大陸なんぞ一瞬で行き過ぎるぞ」

「いっいやそれは嘘だろう。俺もここの住人だ。音はな、1秒で300m以上も進む1時間なら千km以上だぞ」

「ああ実際は、毎秒340m。時速なら1,225kmだ。日本なら5歳の子供でも知っている事だ。ちなみに光は秒速29万9792km。時速なら10億7900万kmだよ」

 ちょろっとメモを見たが、気が付いていないな。

 目が落ちそうになって驚いている。


「そんな速度、どうやって測るんだよ」

「それができるのが、日本なんだよ。日本は部屋に座っていて、この国を攻撃できる。馬に乗ってわーなんて進軍していたら、全滅して終わりだぞ。そう言えば国境の警備兵が一瞬で数千人消滅したって聞いたし、主要な街ではすでに攻撃用魔道具が壊されたと聞いたぞ」

「なっそんな話は…… いや少し前に、セントラリスから魔信機を持って来ていたな」

「そんなことがあったのか? 国境の壁から誰にも会っていないぞ」

「壁? なんだそりゃ」

「シウダー王国との境じゃないのか?すごく立派な壁が、山まで繋がっていたぞ」

「そんなもの知らない」

 呆然とした顔をしている。

「じゃあまあ、行商か何か来たら聞いてみろ。そう言えばシウダー王国と戦争なら穀物なんかの物資も入らなると言う事だよな」

 そう言うと、完全に血の気が抜ける。


「そうだ。それが本当ならヤバイ」

「ああ皆に教えてやれ。あんたいい人だな。名前は?」

「そういえば、言っていなかったな。ブルーノ・ステンホルムだ。2等兵士だよ」

「おれは、諏訪真司。こっちふうに言うと、真司諏訪だな。隣はシャジャラだ。会った人って、最後に町の名前が付くから、最近まで気が付かなかったよ」

「最後に町の名前って、そりゃ町長か代表じゃないか。あんた一体?」

「細かいことは気にするな。それじゃあ、みんなに教えてやれ。じゃあな」

 そう言って、次の村の近くへと飛ぶ。


「あの人。町って言っていましたね」

「ああ住人には住人のプライドがあるのか、最近までは町だったのかもな」

「ああ資源が尽きて、人が減ったのですね」

「そうだ」

「うふ。こうやって歩くのも良いですね」

 そう言って、しなだれかかる、シャジャラの頭をなでる。



「おう。ここはなんていう街だい?」

「なんだアンタら。何処から来たんだ?」

「日本と言う国さ…… そういや、あんた知っているかい?」


 そんな事を、飛び回りながら繰り返す。

 仕掛けた以上、備蓄などはあるのだろうが、皆が買いに走ればどうなるかな?

 真実の中に、嘘を紛れ込ませて誘導する。

 もうすぐ買い付け騒動と、下手すれば暴動でも起こるだろう。商人を通じて飛んできた何かで、魔道具が壊されたことも、シウダー王国と戦争中なのも知れ渡る。

 共和国の統領達は、どう対処するかな?


 にやにやしていると、シャジャラから突っ込みが入る。

「真司様。悪いお顔になっていますよ」

「ああ。魔王だからな」

 そう言って、またにやける。

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