第51話 魔王諏訪と、新規事業
「この、後ろに建っている塔はなんだ?」
目ざとく、ビルに気が付いたようだ。
「ニスカヴァーラ様。それは彼らの住居のようですわ」
写真の後ろに書かれた、説明を読み上げる。
「コンクリートと鉄を用いて建築。300m以上の高さあり。だそうですわ」
「コンクリート? あんなもの固まるまでに長い時間がかかる。いや、組成が違うのか?」
「情報が書かれています。この世界では、もう少しで1000mを越える建物が造られそうだと」
裏の注釈を、皆が見始める。
「空母だと。それに、イージス? こんな。200個以上の目標を追尾。また10個以上の目標を同時に迎撃」
「まあ日本についてはそのくらいですが、さらにその後ろに諏訪王国が控えております」
「諏訪とは、この前の偉そうな男だな」
「ええそうでございます。お姉さま曰く。かの方は偉そうではなく偉いのですわ」
そう言うと、ビルギッタは呆けた顔を見せる。
「あの方は、異界から来た魔王を倒し、その後をとったお方。その力は、日本の兵器をもってしても相手にならないようですわ。そして、うちの国境警備3000の兵を一瞬で消滅させたのはあのお方。もうゾクゾクです」
「なっ。魔王だと」
ニスカヴァーラの驚いた時の顔で、勘違いを察する。
今まで魔王と言えば、封印されし魔王が一般的。
「ああっ。そうですわね。先ほどの説明。聞いていました? 諏訪様は封印されている魔王とは違います」
そう言ったときの彼女の顔は、嫌いなGでも見たような顔に一瞬なる。
その後、ぱっと明るい顔になり、語り始める。
「地球生まれで、彼の方が力を見せ、異界の魔王からその王位を奪っただけ。ほかの地球人とは違い、魔法を操りそのお力は日々育っているとの事」
そう言ってまた、うっとりするビルギッタ。
だが別に、真司に口説かれたわけでも、抱かれたわけでも何でもない。
会ったときに、王様それも魔王。この方しかないと突っ走った結果、半ば自己暗示のように、ビルギッタの中で真司の好感度が、上限突破しているだけである。
そもそも、白馬の王子様症候群のようなものを患っていたビルギッタ。
そこに現れた、少しちょい悪な雰囲気を持った王様。
もうね。いたずらを考え、にやけていた真司の顔が、真剣に何かを考え。すごく高尚な結末まで、すべてを見通すお釈迦様の様な顔に見えていた。
「まあどっちにしろ、この国に未来はありませんわ。お優しい日本は、この国の民に危害は加えないだろうという予想ですが、便衣兵(べんいへい)でも使って抗戦すればあの方が、きっとすべてを無慈悲に破壊するでしょう。この国は更地になって終わりでしょう」
そう言って両手を持ち上げ、首を振る。
その様子を見ていた、ペルトラが頭を抱える。
「もう遅いわ。コイヴィスト達が命令して、兵たちに難民のふりをさせ、荷車に武器を隠して日本へ向けて出発をしたはずよ」
「おバカさんね。日本は、神のごとくずっと見ているのに」
現諏訪王国との国境。
集まった兵たちは、日本を攻撃するどころか。
それ以前に、旧シウダー王国との国境にできていた、門を越えられなかった。
梯子を壁に掛けると、なぜか燃え上がる。
「どうします? 隊長」
「どうするもこうするも。こんなもの聞いていない。大槌でもびくともしないんだろう?」
「あの門を、燃やしてみろ」
「それがあの門の表面、焼き物が張られていて燃えません」
「焼き物なら、割ればいいだろう?」
「それが、割れないんです」
すぐ脇の壁に、
『新型セラミックサイディング。高耐久性と 耐衝撃性を実現。お問い合わせはこちら。諏訪建材』
と看板があるが、日本語の為、気が付かないようだ。
なぜ日本語か、それは、アングルを調整したカメラが、攻撃されている門を撮影している。そう、経費を掛けず無料で攻撃してもらえる。その状況を撮影して、CMを作っていた。
一般家庭向きなら十分な強度。
ちょっとした火矢や、槍。破城槌(はじょうつい)位なら平気です。
そんな画が撮影される。
新型セラミックサイディングは接合用中間剤に、シリコンベースで開発された、衝撃吸収と難燃性を持たせている。
諏訪王国。錬金部門の試作品だ。
その下にも、最初に作ったセラミックスが張ってあるが、試してくださいと言われて、ちょうどいいので施行をした。
「どうしましょう? 海へ回るか、山脈。どちらかへと迂回しないと、無理そうですよ」
「海。船か?」
「ずっと続くわけじゃないので、浮桟橋で行けるのではないでしょうか? あの山脈を登るより現実的だと思いますが?」
そう言って、皆がぞろぞろと移動をする。
海岸へ行けば、予想通り10mも沖に行けば、壁は海中に没している。
計画通り、周辺から木を伐採して、丸太を組みいかだを作る。
それを繋ぎ、表面に板を張って、浮桟橋を作成していく。
やがて、壁の先まで来た時、今までと同じように、丸太を組んだいかだを押し出す。
すると、壁の幅で海が消滅した。
「おっおい。なんだ今の?」
「もう一個持ってこい」
「いくぞ。せーの。いけぇ」
バシュッと音がして、また海が消える。
「あーだめだ。何か魔法が撃ちだされている。戻ろう」
戻って指揮を執る隊長に報告をする。
「ダメです。沖側に出たとたん、魔法が発動して消滅です」
「なんだと? それじゃあ山も一緒だろうな」
頭を抱える隊長。
「ダメもとで、船で沖を回ってみますか」
「誰が乗るんだ?」
言った本人も、あーという顔をする。
「さっき見たとき、底にも壁が見えました。それが切れるまで行きますか?」
そう言われて悩むが、そもそも難民の集団としたもの。
行動としては、怪しすぎる。
「門まで戻って、キャンプだ。だれか統領へ使いを出して、指示を仰ごう」
それを聞いた兵は、胸をなでおろす。
そして、振り向いて海を眺め、ゆっくりと向き直る。
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