第3話 日常?

 そんな事を思いながら、外を見るのをやめて部屋に向き直る。

 薄暗い部屋を見ていてふと、寝る前にあったことを思い出す。


 人気のない室内。

 寝室へと向かい、いやだが買いなおすのももったいないと、シーツをめくり洗濯機へぶち込む。部屋中に抗菌消臭剤を振りまいて、むせながら出て来る。


 そして、洗濯機を回そうとして、電気が止まっていることを思い出す。

「ああ、そうだったな」

 スマホを確認して、キャリアが立っていない事を確認する。


 さてどうするか、うんそうだな。

 着られそうな服を探して、着なおす。

 と言っても、スエットだが。


 そして、自分のスマホを見なおして驚く。

 3日も経っている。

 3日欠勤だ。まあ電話も通じんし、具合が悪くて連絡が取れなかったと言う事にしよう。しかし、あの外の光景。会社もあるのか分からんな。無くなっていれば彼女に会う事もないし嬉しいのだが、生活をどうしよう。


 そんな折、外から外出禁止のアナウンスが聞こえて来る。

 ベランダに出て、ぼーっとその声を流しているパトカーを見ていると同じマンションの幾カ所からか、音が聞こえ人の頭が出て来た。

 ほかにも人がいたのか。ついその方向を見てしまう。


 すると、たまたまだろうが、そっちの人もこちらを見上げて目が合った。

 つい手を上げて挨拶をする。

 するとその子は、こちらにお辞儀をしようとしたのだろう、ベランダに額をぶつけた。思わず噴き出したが笑い事じゃない。

「大丈夫ですか?」

 と聞くと、

「大丈夫です」

 と返事が返って来たが、まだ額を押さえている。

「冷やした方が良いですよ」

 そう言うと、

「そうします」

 と言って、頭が引っ込んだ。


 最近にしては珍しい感じの子だなと思いつつ、悪いと思いながらさっきの光景を思い出してまた笑ってしまった。


 そんな時、自宅で待機をと流していたパトカーから、銃声が聞こえる。

 慌てて、そちらを見ると、馬に乗りフル武装の、西洋の騎士のような集団に囲まれていた。

 ベランダの壁に隠れて隙間から様子をうかがう。

 パトカーは、2人乗りの様で左右に分かれて応戦している。幾人かを撃ち、落馬させていた。ペラペラの鎧くらいは貫通するのか? 何とか応戦していた。リボルバーって5発装弾だったけ? 1発は暴発防止とかで抜いてあるんだよな。30人くらいいるけれど大丈夫かな。


 見ていると、助手席の人がやられたのだろう。思い切りアクセルをふかして、馬ごと跳ね飛ばして逃げて行った。


 戦闘の後には腕が1本落ちていた。

 手に握っていたのは銃かな?

 騎士がそれを拾い、珍しそうに見ている。

 手首の方も何か気にしているな。

 ああ、時計か。

 結局、腕ごと持って行った。


 かなり残酷なシーンだったのに、何故だか心が動かない。

 俺はどうしたんだろう。



 

 その頃、霞が関某所。

「この衛星画像は本当かね」

「ええ、とうとう日本大陸になりました」

 担当者だろうか、にこやかに答える。

「そんな気楽なことを言っている場合か? あの都市のようなものがあると言う事は国家が存在する。一方的な略取(りゃくしゅ)などできん」

「じゃあ共和制ですか? 話が通じますかね。この前も……」

「総理。大変です。また警官が襲われました。左手を持って行かれたそうです」


「この前と一緒ですね。問答無用で攻撃が来ます。どうします?」

 前回、と言っても昨日。日本は親善大使として一度人間を送ったが、武装した騎士が現れて問答無用で殺され掛かった。

「とりあえず、自衛隊と協力。犯人を捕まえろ」

 ようやく、重い腰を上げる。

「はい。犯人ですね」


「それで各国の反応は?」

「衛星電話で主要国には連絡がつきました。いくつかの国は、主都が壊滅で遷都するとの事です。アメリカの遷都先はロッキー山脈だそうですよ。それで移動中、そこそこの高空まで攻撃が来たとの事です。ミサイルではなく、炎が直接玉になって来たと」

「炎の塊?」

「未確認ですが、魔法ではないかと言う事です」


「それと天文台からは、見え方に異状はないが、異常が見えるには何万年かかるか判断不能だそうです」

「わかった。主要物の備蓄はどうだ」

「現象からは外れていたので大丈夫だけど、海が太平湖になったと言う事です」

「太平湖ね」

「海溝が無くなったから、ウナギは全滅ですね」


「繁殖海域か、仕方が無い。他は?」

「森は、見た事の無い魔物の巣だそうです。市民が襲われたようで遺留品を捜査員が拾って来ています。その5m先にトタテグモのような偽装した巣があったようですよ」

「退治したのか?」

「自衛隊が長い竿で蓋を開けて手榴弾(てりゅうだん)投げ込んだそうです。それの関連で魔物を殺すとレベルアップするとの事です」

「なんだそれは?」

「ある程度大きい奴を倒すと、体があったかくなると」

「勘違いとか、願望じゃないのか?」

「筋力は一気に上がっているとの事です」

「ほう? チームを組んで詳細調査」

「はい」


「これで、一応終わりか?」

 担当官は、にこやかの答える。

「そんなわけないでしょう。物資の配布と、外出禁止期限について問い合わせが来ています。経済が死ぬとの事です」

「そんな事は分かっている。だが危険のある状態で、さらにまともな地図もない。せめて安全な場所が確保できんと、開放は出来んだろう」

「では、その対応を最優先で」

「そうだな、話しかけて抵抗する奴は構わん。でも基本は逮捕だ」

「はいはい」


 この3日、まともに寝られていない。誰か何とかしてくれ。

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