第4話 ある出来事

 まる2日寝ていたからよくわからないが、ベランダ側には古そうな町。騎士が出てくる。

 部屋から出て、通路側には、うっそうとした森ができていた。

 ちょうど俺が住んでいる所は、狭間の様だ。


 何か情報と考えて、昔買った防災ライトというのが、どこかにしまっていたはず。

 物置? いや、下駄箱に入れていたはず。

 そうして発見したが、手回ししても充電されない。

 ああそうか、バッテリーがもう死んでいるんだ。

 電池を探すが、あるのは単3や単4。あとはボタン電池か。

 ふと思いついて、単3の周りに発泡スチロールでガイドを作り、電極のばねを伸ばす。

 そして、電池をセットしてみる。


 あっ、ついた。

 ラジオモードで、チューニングのつまみを回す。

 ザリザリというところを探して、合わせる。

 よし、声が聞こえた。


「……の中には入らないでください。巨大なトタテグモが確認され、この蜘蛛は人を襲います。くれぐれも森には近づかないでください。また、馬にまたがった騎馬、兵隊の様に思えますが、彼らも攻撃的で襲ってきます。ご注意ください。政府からは、安全が確認できるまでは、家から出ないようにとのことです。また大型の手が多数あるクマのような生き物や、小人のような生物。頭に角が生えた大柄な人間のような生物。オオカミのような獣。その他多数の見たことのない生物の目撃例があります。いずれも危険です。雨戸のある家は雨戸を閉めてください。彼らは槍や剣で武装しています。また獣でも、火を噴くとかの目撃例もあります。数日中には、自衛隊と警察が逮捕や駆除にに向かうと発表がありました。また今回発生した、現象の詳細はいまだ不明となっています。詳細が判明次第、ニュース内容は更新する予定です。ツッブチ。国民の皆様に重要情報をお伝えします。5月20日原因不明の現象が発生し、ある程度まとまった範囲で謎の森や土地と入れ替わった現象が確認されています。決して、この森の中には入らないでください。巨大なトタ……」


 聞いていると、同じ情報をひたすら流しているようだ。

 電池がもったいない。切っておこう。


 そう言えば、腹が減ったが、IHは使えんな。どこかに鍋用のカセットコンロがあったはず。だが、この辺りに、探すと台所の棚から発見。予備のガスが5本、使用中が1本。


 炊飯器を開けて、匂いをかぐ。

 うーんいけそうだが、この状態で腹でも壊したら、笑いごとにもならん。やめよう。


 適当に選んで、インスタントラーメンの袋を開けて作り始める。

 麺を湯に入れて混ぜ始めてから、焼きそばじゃないよなと改めて確認し直す。

 昔間違えて、えらい目にあった。市販のソースで味を付け直して何とかなったが、そういえばカップでもやったな。麺とスープを入れて、お湯を入れだしてから、アッと気が付く。なんだろうな、あのミスというには不思議な現象。

 さらに追い打ちの、だばぁまで食らったんだったな。

 一人で、そんなことを思い出して笑う変なおっさん。


 インスタントは夜中に無性に食いたくなることがあり、幾種類か常備してある。

 食い終わり、ぬるくなっているであろう、ビールを開けて飲む。

 冷蔵庫のドアを開閉していないせいか、まだ飲める? いける範疇だな。

 ひょっとして冷凍食品の犠牲の産物か? そんなことを考えていると、ドアの方からノックのような音が聞こえる。


 さっきの兵だと嫌だからスコープで覗くと、うす暗いが背が低そうだ。まさかあいつが帰って来たのか?

「だれだ?」

「すみません。今日ベランダで頭をぶつけた者なんですが、食べられるものを分けていただけませんでしょうか?」

 そんな返事が返って来た。ああ、あの子か?


 ドアを開けると、

「やっぱり。よかった」

 と言って、安心したようだが、理由が分からん。

「どうして、よかったなんだ?」

「えっあの。昼間に見たときに優しそうだったから。この2日間食べるものが無くてお願いすれば、分けてもらえるかな? と思って…… ダメですか? まあ図々しいお願いですけれど。電気が通じれば、お湯が沸かせるし色々作れるんですけど」

 そこまで言われて、気が付く。

「ああ。そうかIHだから、調理ができないんだ」

「そうなんです」

「じゃあ、男の一人暮らしで、危ない部屋だがどうぞ」

 昼間の兵隊でも来たら危ないからなとりあえず入ってもらおう。


 おれが意地悪を言うが、空腹が勝ったのか

「お邪魔しまっす」

 と言って、気合を入れて入って来た。


 テーブルの上に乗っている、ラーメンどんぶりを見て目が点だな。

「ちょっと待っていろ」

 そう言って湯を沸かして、クリームスープをまぐカップで作り女の子に渡す。

「食べていないなら、胃が驚くからゆっくり。それと先に水も飲んで」

「あっ水は出るので、飲んでいました」

「そうなのか?」

「ええ、水道はまだ出ます」

 そう言うと、いただきます。と言ってちびちびと飲み始める。

 ポンプが止まって、2日。カルキ(次亜塩素酸カルシウム)が入っているからまあ大丈夫か?


 冷凍庫を一瞬だけ開き、ピラフを見つける。

 溶けているので取り出して、一袋全部を炒める。火を通しておけば明日も食えるか?

 女の子にピラフの入った器を差し出して、お互いに名乗っていないことを思い出した。


「ああそうだ、名前も言っていなかったな。俺は諏訪 真司(すわ しんじ)」

「あっすいません。わたし、美濃 まこと(みの まこと)18歳。高校3年です」

「そうなのか、俺は29歳だ。君から見れば、おっさんだな」

「えーそんなことないですよ。家の父さん48歳ですけど、もっと老けていますよ」

 48歳のお父さんと比べるなよ。

「そりゃ俺より19も上なら、多少は仕方がないだろう」


 そんなことを言いながら、黙々とピラフを食べる。

 そう言えばこの半年くらい、一人で飯を食っていた気がするな。あいつはなんだかんだと酒を飲んで帰って来ていたし。


「諏訪さんて、何のお仕事しているんですか?」

「建築関係かな。営業もしたり設計もしたり」

「へーすごいですね。うちの父も建築関係なんですよ。世の中狭いですね」

「じゃあ、知り合いじゃないけれど、どこかで会っているかもね。美濃さんなんて残念ながら聞き覚えがないけど」

「ああ家、ちょうどお父さんの転勤もあって、1半年くらい前に引っ越して来たんです。もとの家は狭くて、私も部屋が欲しいって言っていて」

「ああ、そうなんだ。元は何処にいたの?」

 そう言いながら、頭の中で関係者の美濃さんを検索するが思い浮かばない。


「美濃なのに、長野県です」

「なんだ。うちの親族もいるよ」

「諏訪さんですものね」

「諏訪だけど、そっちよりは母親の親族の方が、いやまあ、いいなこんな話」

「えーすごく気になりますね」


「まあそれは良いが、暗くなってからの移動は危険だよな」

「えー、大丈夫ですよ」

 女の子はそんなのんきなことを言う。情報を知らないのか?

「ニュースを聞いていないのか?」

「えっ、テレビはつかないし。全然」

「廊下側に広がっている森があるだろう。あの森はやばい生き物がいるらしくて、それとベランダ側の町っぽいところに居る騎士たちは、問答無用で襲ってくるらしいよ。昼に警察官も腕を切り落とされていたし」

「えっ。そうなんですか?」

 目を丸くして、驚いている。あの後、家に入ったから見ていないのか。


「ちょっと待ってね」

 ラジオを持ってきて、スイッチを入れる。

 ついでに暗くなって来たので、ろうそくを個別に持っていけるよう、いくつかの皿の上に灯す。

 使わなかった、バースデーケーキ用のろうそく。だが使えるな。

 ケーキの上に、20数本立てると言って、怒らせた。

 いや良いよ、こんな記憶。


 ラジオから流れる、一言一句変わらない言葉。

 彼女は、かなり驚いている。

「夜とかは危なそうですよね。動物は基本夜行性でしょう」

「わからないけどね。理解できた時は、出会った時だからなぁ」

 俺がそういうと、いやそうな顔をして、

「脅かさないでくださいよ」

 と言ってくる。

「別に脅しじゃないさ。それが事実。さっき家に来た時も、暗くなってきていたし危なかったね」

 そう考えれば、暗い窓の向こうが恐ろしく見える。


「廊下側の窓は光が漏れないように、ふさいだ方がいいのかな」

「そうですね…… どうしよう」

 このどうしようは、ああ帰るときの心配か。


「ああ泊まっていけばいい。俺は自分の部屋で寝るから」

 そう言って立ち上がると、スマホのライトを使い、ベッドルームへ向かう。

 一応スプレーはしたが、気持ちが悪いので、マットレスをひっくり返して、シーツをかぶせる。

「まあこれでいいや。洗濯済みの毛布と掛け布団を出す」

 文字通り使用済み。こいつらは、匂いそうだし袋へ放り込みあいつの部屋へと投げておこう。

 そして、ふとチェストの上に置き忘れていた、奴らの残した名刺を見つけてポケットへ? よくあいつに気が付かれなかったな。うん? 名刺に書かれた文字。課長、美濃 直樹? あのおっさんの方か、美濃? だと。

『うちの父も建築関係なんですよ。世の中狭いですね』

 彼女の、言った言葉を思い出す。

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