第54話 初めての日本

 奴らを迎えに行き、ヘリを下ろす。

 警戒していたが、下手な小細工もなく、準備されていた。


 着いたとたん、秘書官ビルギッタ・ラポラが、泣きながら駆け寄って来たのは驚いた。

 周りの隊員や政府関係者の目が…… 何かを語っている。


「素直だな。慣れないと酔うが早めに言ってくれ。袋はあるようだ」

 そう言ったが、そろいもそろって顔がこわばり、まるで処刑場にでも向かうようだ。


「それと、まこといい加減やめてくれ。痛くはないが、はずかしい」

 さっき、ビルギッタが飛びついて来てから、まことが無言で俺の向こう脛を蹴っている。


 一応お迎えだからと、外務省関係者も来ている。

 おかげで、ヘリコプターはチヌークではなく、 ユーロコプターEC-225LPで、陸上自衛隊 滝ヶ原駐屯地で演習と富士山を見せ、わざわざ新幹線に乗らせ。その後車で、霞が関に移動するようだ。


 給油が終わり、全員がヘリに乗る。


「どうですか? 空は」

 全員言語は喋れるようになっている。

「…… これは、大丈夫なのか?」

 そんな問いが帰って来る。


「ああ、落ちそうになったら、あそこのパラシュートを背負って飛んでください」

 担当者の機嫌が、いまいち悪そうだ。


「パラシュート?」

 ええ安全に降りられます。地面に着くときは足は揃えて、そのまま転がってください。

「そうなのか……」


 実際何かあったなら、俺が浮かすから大丈夫なんだがな。


 やがて、眼下に富士山が見えて来る。

「ありゃ、運河がほとんどできたようだな」

「ええ諏訪王国の魔術師さんすごいらしいですよ。まごまごしていると、魔王様が手を出すから、さっさと済ませろと言っていましたが、何かしたんですか?」

「ちょっと手伝っただけですよ」

 そう言って目をそらす。


 基地に無事到着して、陸上自衛隊の演習を見せる。

 戦車の運用と着弾をみて、共和国の連中が固まる。

「あんな重そうな金属の塊が、どうやって。あれは魔道具なのか?」

「いいえ。機械です。詳細は、まだ教える事は出来ません」


「あの魔仗は土魔法なのか?」

「いいえ。違います」

「むう」


「パッラスマー。あれを見ろ。さっきの戦車とかいうものとは違う。4方が透明な箱だが黒い輪が付いている。戦車というものは金属のベルトだったが、早いぞ」

「ああ、さっき聞いた。車と言うらしい。機械で馬のいらない馬車みたいなものだと習った。それにな、さっき高い所を飛んでいた乗り物。さっき乗ったのがヘリコプターというもので、あっあそこを飛んでいる。あれは飛行機と言って金を払えばだれでも乗れるらしい」

 空には、飛行機雲を残してジェット機が飛んでいる。


 演習を見た後、バスに乗り駅に向かう。

 バスで驚き、周りを走る車で驚く。

 駅で新幹線に乗り、1時間かからず東京へ。

 そこから、またバスで千代田にあるホテルに到着。


 まあ、皆きょろきょろしっぱなし。


 部屋に案内してから、一応常識を教えて、部屋の中は自由にさせたが、ドア前には2名警護を付ける。


 割り当てられた部屋を後にして、すぐに彼らは集まり、相談を行ったようだ。


「もう俺は、一生分驚いたよ」

 代表アトロ・ニスカヴァーラが、真っ先に弱音を吐く。

 普通なら、何を弱気なという所だろうが、あまりにも自分たちの知っている常識とはかけ離れていた。

 全員が、落ち込みを見せる。


「あの魔王。諏訪が、小娘。ええとラポラだったわね。彼女を通して情報を流していなければ、私たちの常識で。シウダー王国と同程度だと、かってに思い込み、戦争を続けるところだったわ」

「ああそうじゃな。もう何もかも考えもつかんものばかりじゃ。見よ透明なガラスという物。そして窓の外を。天を衝くような建物ばかり」

「ああ。それに、我らが乗ったヘリコプターと違い、飛行機というものも本当に存在して、音よりも早く飛ぶ。そんなもの手も足も出ん」

「それに、ぽろっと言っておったぞ。今の日本は、自軍の人を死なせないために、ミサイルとかいう物で攻撃をすると。一方的にこちらがやられて、死に絶えるのみじゃ」


「講和か。言っては見たが、隷属を求められても断る事は出来んな」

「「「そうじゃな」」」



「どうです?」

「かなり効いたみたいですよ。完全に意気消沈ですね」

 そう、各部屋。会議スペースはモニターしている。


「まあ、自暴自棄になって、はっちゃける可能性もあったので、心配していたのですが大丈夫そうですね」


「まあその場合、シールドを張りますので連絡してください」

「航空の方。見学はどうします?」

「一応見せた方が良いでしょう。こちらは嘘は言っていないことの証明ですね」

「明日の午前中ですから、ちょろっとだけ見せますか」

「その方が、明日午後からの話し合いも簡単でしょう」

 そう言って見つめ合い、互いにふっふっふ、とかはっはっはとか笑い合う。

 どこの悪代官だよ。


 共和国の連中はおとなしかったが、部屋に戻ると、まことがスイートの部屋を見てはっちゃけていた。

 むろん。実力を持って制したよ。

 そのおかげで、特典の施設が見られなかったと、ぼやいていたが、そんなこと知らんがな。フィットネスセンター、プール、サウナおよびマッサージ室を利用したいとごねたため。もう一泊泊まることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る