第45話 やっちまったなあ。

 一月後。再びセトプレコウグニアス共和国へと出発をする。 

 日本の外務省と自衛隊。

 シウダー王国と諏訪王国。

 ほぼ前回と同じだが、自衛隊の緊張感が強い。


 王妃ステファニアさんも日本には来たが、フィオリーナやメイドさん。まことも一緒に、まことのお母さんである久美子さん45歳発案で、近くのホテルで開催されている、スパ&エステ1泊2日。『つるっつる。ぷるっぷる体験』に参加するようだ。


 いやまあ、この一月。色々あったんだよ。

 今、俺は、日本国国籍をなくしている。


 まあ、共和国においての議事録で、こいつやべえとなったようだ。

 ほんとかどうかは知らないが、建前は二重国籍はだめと言うのが、正式な理由のようだ。


 おかげで急遽。諏訪王国において国民登録と外に行くやつはパスポートを作った。

 日本より高性能。

 魔力紋認証式だ。国をシールドで包み、そこを抜けるにはパスポートを持っていないと通れないようにした。


 このシールド発生魔道具。

 壊れているからいいやと言って、魔王の封印用魔道具を持ってきた。

 いや最初は、修理して再設置する気だったんだよ。

 ところが一度ばらすと、中央部分である時空管理関係が再構築できないようになっていたんだもの。

 想像では、中間に封入されていた材料が、多分内部では固体だったはず。

 ばらして光に当たると、あっという間に溶けてしまった。

 俺は悪くない。多分。


 うちの錬金術師も泣いていたから、責任は負わせていない。

 それでまあ、わかるところを改造して、シールド装置を作り直した。

 最初に大陸へ設置したシールドも、変更しなきゃな。

 忘れていたが、初期に日本に言われて、この大陸全体をまとめてシールドで覆ってある。

 単純物理タイプで、解除用魔道具を持っていれば、設定範囲だけシールドを中和する奴。

 よく考えれば、それのせいでアメリカは、共和国に接触できなかったのではないだろうか?



 まあその後、日本と根回しをした国々には、無事正式に国と国王と認められた。

 むろん、シウダー王国もである。


 おれは、必然として日本の法から解放された。

 そのおかげで、周りがはしゃいでいる。



 まあそれはさておき、出発した我々は、ヘリコプターでセトプレコウグニアス共和国と諏訪王国の国境へと近づく。

 遠目で見ても、怪しいものが並んでいる。

「「どうしましょう?」」

  自衛隊員と、佐々木さんから、同時に相談が来る。


「先触れはすでにしています。このままいきましょう。ですが、録画を開始してください。全機にシールドを張ります。もう大丈夫です。行ってください」

「本当に? では、大型輸送ヘリコプターCH-47J/JAパイロット。2等陸尉30歳。小松一輝、独身。行きまーす」


 なぜかそんなことを叫んで、突っ込んでいく。


 予想通りだが、光に包まれる。


 レーザータイプと雷か? 

「どうします? 反撃しますか? ここはまだうちの国だから大義名分は立つし、なめられるとめんどそうなんですが?」

「日本としては、一旦対応を聞きます」

「じゃあ、この辺りでホバリングしておいてください。私はちょっと行ってきます」

 そう言い残し、転移しようとしたら、すかさずシャジャラが張り付いて来る。

 シャジャラは、エステエステと小躍りする皆を横目に、血涙を流しながら、俺と一緒に来た。


 一緒に、奴らの前に転移する。

 気が付いた奴が撃ってきたのではじき返す。

「今俺の事を知っていて撃って来たな。どうなるのか理解はしているな」

「私が、おさめますので」

 そう言って、シャジャラが力を使うが、効かないな。


「シャジャラ。あのヘルメットだろう。たぶん精神系の攻撃をシールドしている」

「フン。こざかしい」

 シールドを張りながら、どんどん近づいて行く。



「おっおい。なんだあいつ。どこかの国王だという話じゃなかったのか?」

「収束したエネルギーをはじき返している。多分高性能なシールドだ。撃てばそのうちエネルギーが切れるだろう」

「いや隊長。先にこっちの魔道具が焼ききれます。発射孔が真っ赤で変形が始まっています」


「そっそうだ。物理だ弓を使え」

「魔力干渉型レール弓ですか? この距離で?」

「良いからやれ」


 超大型の弓がやってくる。

 一見巨大なボウガンのような形。引き絞った弦には、金属の矢が番えられている。ただその先に、長いパイプが付いている。

 発射した金属の矢は、筒に入ると、雷魔法がレールに流れる。

 その時ローレンツ力が働き一気に加速され、金属の矢は溶けかかり塊となって真司に当たる。

 その後、ターンと言う音が追いかけてくる。


 そう、まさに魔法によるレールガン。


 さすがの真司も、矢を見ることができなかった。

「なんだ? 今のは矢が見えなかったぞ。シールドも3枚ほど抜かれた。初めてだ」



 下の様子を見ていたヘリコプターも、あれが何か気が付いた。さすが自衛隊員。

 拡声器で叫ぶ。

「諏訪さん。その弓はレールガンです。ヘリでは無理なので一度帰ります」

 すると頭の中に声が響く。

〈わかった。俺が押さえておくから帰ってくれ。今の状況だと居られると邪魔だ〉

「お願します」

 そう言って、スピードを落とさないように旋回して日本側へと引き上げる。


 その後ろで、世界が染まるほどの白い雷が、何もない空間から生まれ。セトプレコウグニアス共和国国境守備隊3千人が消滅した。


「あー。手加減ミスった。レールガンと聞いて、テンションが上がっちまった」

 真司の後ろから横に出て来たシャジャラは、目の前の景色を見てうっとりとする。

 今までの歴代魔王にも、成す事ができなかった圧倒的な力。

「せっかく我慢して気を付けていたのに。一瞬で大量殺戮者だ」

 ぼそっと、真司がつぶやく。

 目の前に広がる、何もない空き地に向かい手を合わる。

 国境線へ向かうと、幅10cmほどで6mほどの溝を刻む。

 その先、海まで一気に壁が50cmほどの高さで生えてくる。

 反対側も溝の端から、山脈に向けて同じように壁が生える。

「見ろシャジャラ。土木工事が役に立ったぞ」

 そう言いながら振り返った真司は、少し悲しそうな顔をしていた。

 そっと、シャジャラの手を取ると転移をした。

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