第10話 怪しいやつ
少しすると気が付いたので、
「大丈夫ですか?」
そう聞いて、車から引っ張り出す。
「いやあ災難でしたね」
そう言って、努めてにこやかに言ってみる。
だが、警官は
「あのイノシシはどうなった?」
そんなことを聞いて来る。
聞かないでくれよと思うが無理か。
逃げたとは言えないし、そこに現物あるし。
「あー、そこで動かなくなっています」
そう答えるしかないよね。
警官は車から出てきて、『伝説の超巨大、謎のイノシシを見た。』状態で目を見開く。
「こいつが、襲ってきたのか?」
「そうです」
「今どうなっているんだ?」
「わかりません。動いてはいませんね」
そう返す。真顔で返す。決して笑ってはいけない。
おっと、鼻の穴が広がってしまった。
「車とぶつかったダメージで死んだのか? ふうむ。しかし君も俺も、よく命があったものだ。ちなみにちょっと聞くが、運転席が血だらけで俺の制服も穴が開いて血だらけなのはなんでだろうな?」
そう言って警官は、ズタボロな制服をめくり、腹の辺りを確認している。
そうだね、結構血が出ていたもの。何か能力でクリーニングみたいなものもできたかもしれない。今更遅いが。
自分を確認している警官。ごまかすのも無理そうなので逃げることにした。
「お巡りさんは、報告とかありそうなので、俺ちょっと店を回って来ます」
「あっ、ちょっと待て」
と警官が言ったときには、俺はすでに遠く離れていた。
あばよ、とっつあん状態で、わき目もふらず速やかに離れる。
一方商店街は、イノシシが暴れたせいかかなりズタボロになっていた。
閉じられていたシャッターは、捲(めく)れてちぎれていた。
外が静かになったためか、人が出てきたのはありがたい。
店主らしき人に、積まれているのが見えたカセットコンロを一台と、ガスボンベを売ってくれと言ったら、シャッターが壊れて安全が担保できないためか、すぐに売ってくれた。
それだけで両手がいっぱいになったため、役に立つラノベの知識。こそっと、収納と言って、暗い棚に荷物を入れるイメージをすると、何言うことでしょうサクッとできた。当然時間停止を付加してある。本当に効くかどうかは不明だが。
確信。俺はチ……もういいや。
カードは使えないが、現金ならと言うことで乾物や水。
日付け的に危なそうな豆腐や日持ちするこんにゃく、ちょっと色の変わった肉とか野菜類を買ったというか、生鮮品はくれた。「自分で食う分は別として捨てるだけだしな」と言って、手渡してくれた。絶望した顔で泣きながら笑っていたよ。
冷凍庫が止まって、温度が上がるともう中身はだめだ、そう泣きながらくれたのが胸に来る。出てきたほかの店の人にも配って、結局物々交換の場ができていた。
店の人も、仕入れの金は、払っているんだものね。
あれ? 買掛なら集金に来られるのか? 卸の場所は何処だったのだろう。
現金には限りがあり、早々に警官の所へ戻る。
だが戻ってみると、なんだか仲間の警官が来て、イノシシの周りで話し合っていたので、俺は軽く頭を下げて通り過ぎる。
だが、背後から声がかかる。
「こらあ、にいちゃん帰るな」
そんな声が聞こえるが、幻聴かな? 無視して歩を進める。
だがガシッと肩をつかまれ、振り向くとさっきの警察官。
ほかの警官たちも、おいでおいでをしている。
「おいそがしい感じでしたから、帰ろうかと思ったのですが?」
そう言って言い訳をしてみる。
「君も同乗して、一緒に被害を受けたのだから、事情聴取は必要だろう」
「そうですかねぇ」
そう言ってかわそうとするが、
「必要なんだよ」
そう言いながら、にらまれた。
俺だって忙しいのに。
時間は戻り、異変当日。
「おい、伹野君行くぞ」
「どこへですか?」
「あの町だよ」
課長が、そう言って指をさす先には、現れた町。
「美濃課長。さすがにやばくないですか?」
「馬鹿野郎。こういう時には探検だ。うまくいけば町長? 領主とか、そんなのと知り合えるかもしれねえ」
そう言って車道を渡り、現れた町へと忍び込む二人。
異世界側の町でも住民は驚いたようで、道路へと出てきていた。
こちら側では、地球へ転移してきたために軽い地震が起こった。
〔おい、さっきの揺れは何だ? 地面が揺れたぞ〕
〔ああ。みんな大丈夫か?〕
住人同士はほぼ知り合い。安否を確認していく。
ある程度の時間で、
〔領主様の館がつぶれた。手の空いた者たちは手伝え〕
そんな言葉が、兵士によって伝えられる。
それを聞いた若い者たちが、屋敷が立っていた丘の上を目指して走っていく。
「言葉は分からんが、男たちが居なくなったな」
民家の壁の陰から、通りをのぞき込む怪しい二人。
「そうですね。みんなあの丘に向かっているようですが、手伝いに行きます?」
こそこそと、言い合いをする。
「馬鹿野郎。そんなことをして何になるんだ」
「領主の館か何かじゃないんですか? ここで恩を売れば」
「じゃあ、お前行ってこい。俺はあの子がいいな」
そう言って、美濃課長は女の子の後をつけていく。
またかよ。
「金髪美女か。でもあれって若いというより、まだ子供じゃないのか? 高校生くらい?」
そんなことをつぶやきながら、伹野も後を追う。
すぐに、家へと入っていくのが見えた。
「あの家だな。古そうだから鍵じゃなく閂か?」
そう言いながら、課長はドアへと手を伸ばしドアを押す。
「開いてやがる。いくぞ」
そう言って、中の様子を窺いながら入っていく。
俺も課長に続いて入っていく。
中には木製のテーブルが置かれ、床は土。
掘っ立て小屋だな。柱は地面に埋まっている。
だが奥のドアは、一段高いから床が張ってあるのかもしれない。
右奥には、少し大きなツボや竈(かまど)だなああれ。初めて見た。
俺がきょろきょろしている間に、課長はドアに張り付き中の気配を探っているのか? にまっと笑い、ドアを開けて入っていった。
ガタガタという音が聞こえる。俺も手伝わなきゃ。でもこれ完全に犯罪だよな。そう思いながら、ドアを開けて飛び込む。
中には、さっきの女の子が少し服を破かれて、隅っこでおびえた表情をしている。
あれ? 課長は? 少し目線を右に向けたところで首のなくなった課長が転がっており、俺にも剣が振り下ろされた。「あ゛っ」と言って意識は途切れた。
〔なんだこいつら? 向こうの塔に住んでいる原住民か?〕
足で、死体を転がして服を見る。
〔着ている物は、ずいぶん仕立ての良いものだな。縫い目がすごい〕
〔もう大丈夫かしら?〕
〔ちょっと待て〕
そう言って男は、剣を握ったまま隣の部屋を見に行く。
〔この二人? だけの様だ。しかし、いきなり襲ってくるとは。文明が高そうで警戒したが住んでいるのは蛮族のようだな。騎士たちに注進しておこう〕
この兄妹。兄は兵士で今から館に向かうところだった。
その衣擦れの音を勘違いしたのか、最初の男は下品な顔して俺に上着を持ってきていたテレーザに飛び掛かりやがった。
俺はドア側にいたから気が付かなかったようだが。
〔ふむテレーザ。この部屋の床を張り替えるまで俺の部屋を使え。また変な奴が来るかもしれん戸締りはしておけ〕
〔カリスト兄さんも気を付けて〕
〔ああ行ってくる。領主様が無事ならよいが〕
その後、カリストからの進言があり、騎士たちは町の境を警戒することになる。
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