第38話 シウダー王国 王都 その3
まずは段取り通り、フィオリーナが報告を開始する。
異変の時、城が崩れ父親たちが死んだこと。
現れた場所には、シウダー王国とは比べ物にならないほど、進んだ文明を持つ日本があったこと。
日本から外交の大臣がいまこちらに来られていて同席をしていること。
そちらの方ですと紹介して、話は後程と説明をする。
自分の領地を、日本の協力のもとに確認すると、シエルキープの町では、家宰が領主を乗っ取ろうとしていたこと。
アンドベリーの町では、ハルトヴィン・パトリツィオ伯爵が、どさくさに紛れて兵をあげ攻め込んできたこと。
これもすべて、すでに事態は収めて事情聴取をしたところ、黒幕は共和国。セトプレコウグニアスで、異変の前から我が国に対して工作を行っていたこと。
計画の為に共和国は、強力な戦術魔道具を開発しており、その道具は人には扱えない魔法を放つことができる強力なものである事。
それを、話を持ってきた共和国の使いは、酒を飲んだ時に吹聴していたようだ。
「ふうむ。信じられん。今まで仲良くではないが、そこそこ共存共栄をしておったのに」
「信じようが信じまいが同じだ。敵がいて攻撃をして来ると言うことだ」
目の前の王に忠告する。
「さて、フィオリーナの報告はこれくらいか?」
「あっいえ。お恐れながら、父の爵位を諏訪様にお譲りすることはできませんでしょうか?」
「うん? フィオリーナ嬢それは失礼だろう。魔王様は自国がある。今の話では、私の下につけと言うことになる」
「あっ、そうですわね」
そう言って表情の暗くなる、フィオリーナ。
「フィオリーナ嬢。ああっ、そうかそうか。ならば、緩衝地帯になっておる領地。すべて魔王様にお譲りして、その代わりお願い事を一つ申してよろしいだろうか?」
「なんだ? 土地をやるから、共和国を何とかしろと言うんじゃないのか?」
「それもあります。ですがほかに重要な秘密がありましてな。実はこの大陸。中央部の谷に古の伝承として魔王が封じられています」
王は、嬉しそうにそう語ると、イスに深く腰を掛け直して、両の指を胸の前で組む。
「それを何とかしろと? 惑星センダスサテラ原産の魔王か? それとも昔局地的に入れ替わったのか? うーんどうするかな?」
「主様」
こちらも両手を組みこちらを祈るフィオリーナ。
「まあいいか。魔王は出てくれば対処するが、危害がなければ放っておく」
外務大臣に、先に話を進めてもらうようにして、フィオリーナと一緒に条約の内容を書き足して修正を入れる。
そんなころ、近衛兵たちは取り調べと言う名の暴行で、ぼこぼこにされたカリストを前にして焦っていた。
当然手を出していた兵は、いきなり現れた近衛兵にぶん殴られて、縛られ転がっている。
「どうする?」
「どうするもこうするも、薬師の所へ早く。死んじまったら国が亡ぶ」
彼らは慌ててカリストを運んでいく。
薬師は近衛兵の登場に焦りながら、けがの部位を水で洗い、水銀の蒸気をあて、草の汁をしみこませた包帯を巻いていく。
ミイラ男のような物が出来上がり、兵士たちに担がれて城へと向かう。
城へと到着して、会議室に連れ込まれると場は騒然とする。
テレーザが縋り付き声をかける。
俺がスキャンすると水銀? 中世ヨーロッパレベルか。
俺は嘆息しながら、浄化と治療を行う。
王に向かい、
「水銀を治療に使っているようだが、毒だ。使用を禁止しろ」
そう言い放つ。
「しかし水銀は、万能薬として古来より使用されています」
「じゃあ古来より間違っている。使うな」
そう怒鳴りながら、あれ? 似ているが地球人と違うなんて言うことは無いよな? そんなことを考える。
ちょうどいい、帰ったらカリストを人間ドックに放り込もう。
「なあ、テレーザ。センダスサテラの人間て、卵で増えたりしないよな?」
俺がそう言うと、一瞬驚いた顔をしたが、
「気のすむまで、私でよければ見ていただいて構いません」
そう言って、ほほを染め瞳を輝かす。
「ああ。ありがとう」
前に見たときは、外見的にはおんなじ感じだったし、胸があるから哺乳類だよな。
でも部分的に、まじまじ見たわけじゃないからな。
みんなを並べて、見せてもらうのか? それはそれで楽しそうだが、日本人としての常識が……。
「ぐわああぁー」
はっ、いかん叫んでしまった。
妄想からの叫びで、それも相当恥ずかしい内容。まるで中学生のような妄想だ。恥ずかしくなり周りを見る。
すると、王たちをはじめ、みんなが遠巻きに俺を囲んでいる。
まあ俺の前には、テレーザが居て、テレーザは兄であるカリストを抱えている。今はミイラのようになってぐったりしている。
周りの反応からすると、使えるかな。
「それでこの不始末。どうするつもりだ?」
自分のえっちな妄想からの暴走は、完全棚上げで、王をにらむ。
「そっそうですな、賠償を行います。なあ宰相」
「っそうですな。魔王様の部下に怪我をさせるとはどうあっても許されない事。ご満足されるまで…… そそそっ、そうでございます。王様。ここは魔王様との縁を結ぶためにも3の姫さまとの、ご婚儀を結ばれてはいかがでしょうか?」
「おお。そうかそうだな。こちらは構わぬが」
王にそう言われて、宰相は周りを見渡し、
「大丈夫でございましょう。魔王様の周りに居る者すべてうら若き感じでございます。魔王様は、小さき子が好きなご様子」
そんなことを言う。
「それもそうじゃな。うんうん」
「うんうんじゃないよ。別に望んで10代の子たちを集めているわけじゃない。必然なんだよ。おかげでこっちは苦しんでいるんだ」
日本の大臣とかがいる前で叫んでしまった。
「いや確かに2022年4月1日より,女性も18歳まで結婚はできなくなったが、正式なお付き合いの中でなら構わんし、元より、諏訪さん。あなたはすでに日本として正式に魔王国の国王と公式に認められている。便宜上日本に住んではいますがね。あの部屋自体がペルディーダと、魔王国の大使館的な扱いになっていますし。まあ、そうは言っても無節操に手を出すなど、お勧めするわけではありませんが、特には問題になりませんよ」
大臣が、きっぱりと言ってくれた。
なんだよ、あの環境での血涙を流すほどのつらい苦しみ。
日々繰り返される、過度なスキンシップ。
「あのーそろそろ、お話はまとまりましたでしょうか?」
宰相が、そっと手を上げている。
「ああすまない。非常にデリケートな問題に関して相談をしていてね」
「ああでは、姫様をお連れいたします」
そう言って、宰相は出て行った。
ああそうだ、一応カリストは生きているのか?
治療はさっきしたが、
「テレーザ、カリストは大丈夫そうか?」
「はい主様の治療が効いたようで、よく寝っています」
俺以外は、条約の詰めと締結を進めていた。
やがて、ドアが開き宰相が戻って来た。
そして、その後ろには女の子。
「お嬢ちゃんいくつだい」
思わず聞いてしまうくらいお嬢ちゃんだ。俺に向かってカーテシーをきめながら、
「シウダー王国第3王女ブリジッタと申します。魔王様。当年で12歳となりました。よろしくお願いいたします」
そう言って、じっとこっちを見る。
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