第19話 他の世界 テロラアリエナ側 その2

「わが軍のヘリが墜落しました」

「あん? なんで、整備不良か?」

「敵。えーとこっちに向かっている、飛行生物による攻撃です」

「なんだと、撃墜されたのか。それは報告が面倒だな。いつものようにターボシャフトエンジンのノズルが溶けたとか、燃料ポンプが故障とかじゃないのか?」

「残念ですが撃墜されました」


 うーんという感じで、少し悩んだ後。

「じゃあもったいないが、ミサイルでもドローンでもいい。死人が増えないように攻撃せよ」

「捕獲でなくていいのですね」

「ああもう良い。最近若者が死ぬとやかましいのだよ。作戦ミスを問われる。ええい」

 そう言って怒り始めた上官。

 敬礼して司令部から退出する。


 そうか、例の病気と少子高齢化。

 若者は結婚を嫌がるし仕方がないよな。

 彼女ができても、向こうの家族の援助してくれ攻撃はすごいし、結婚した瞬間性格が変わるってぼやいていたもんな。

 作戦でも、人が死ねば追及か。

 世知辛い世の中だが、この奇妙な現象で色々なことが変わるかもしれないな。


 そんなことを考えた彼は、飛来した飛竜に捕まり理想の世界を垣間見ることになる。



〔ええい。この。うっとうしい〕

 飛竜の背に乗り、飛来するドローンを撃墜していたが、火薬搭載タイプは撃墜時に爆炎が広い。

 中には、高速で来る違う形の物もある。


 イヴァーノは得意な炎を、飛竜の前方にシールドとして展開する。


 そして基地に到着すると、周辺を一気に蹴散らし適当に獲物をつかんで帰還した。


 適当につかむときに、人が入っていく小さな箱を見つけてつかんだが、当てが外れ中には5人ほどしかいなかった。

 対して適当につかんだ方は、手足が多少おかしなことになっているが、8人ほどつかんでいた。

 街に戻ったイヴァーノは数を数えて、13かこれでは足りんな。

 ため息をつきながら、部下を捕まえて命令を下す。

〔もっと捕まえて来い。急いで〕


 それだけ言うと、イヴァーノは手足の壊れを修理して、ぞろぞろと引き連れ王の間へと向かう。


〔ずいぶんと早かったが、それだけなのかい? イヴァーノ〕

〔いえ。魔王様に一刻も早く味わっていただくための第一段で、今部下が捕縛に向かっております〕

〔ふーんまあ良いとしましょう。足りなければ久しぶりにお前が相手してくれてもいいのよ〕

〔いいえ。もったいなきお言葉ですが、私などでは不足でしょう〕

 爬虫類系なのに、なぜか冷や汗を流すイヴァーノ。

〔まあいいわ。次を待ちましょう〕

〔失礼いたします〕

 そう言って足早に退室をする。


 あぶねえ。命令を出しておいてよかった。



 捕まった者たちは、夢の中にいた。

 男女関係なく自分の理想的な異性が現れ愛を育む。相手は、まるで親の様に自分が努力をしなくても、愛してくれ尽くしてくれる。自分を求めて何でもしてくれる。そんな甘美な世界に浸りながら、引き換えに命を消していった。


〔意外とひ弱ね。まあ数は居るようだし次に期待しましょう〕



 一方、魔王アウグスト側。

〔ベンヴェヌート様。先程から飛んでくる小さな礫。シールドを展開できぬものに負傷する者が出始めております〕

〔周りが庇ってやれ。一度奴らの上から大規模魔法を落とす〕

 そう言って、魔力を練り始める。


〔やばい。ベンヴェヌート様が攻撃なさるが、本気だ。みんな穴を掘ってでも何でもいい。退避しろ〕

 そう聞いた軍団のメンバーは、蜂の巣をつついたように大騒ぎとなった。


 人間側。

「ドローンで来ていたのは分かっていたが、動きが早い。各隊展開」

 部隊を展開するが、すぐに兵から泣き言が入る。

「隊長、小さいのは効きません。ほんと間際では多少効くようですが、5m以内での戦闘なんて危なくてできません」

 ええい。相手は一体何者なんだ? 俺たちは何と戦っている?

「装甲車と戦車。自走砲を展開。兵は下がれ」


 相手に戦車などは確認できないため、横並びで放射線状の射線をクロスさせて一斉に攻撃を始めた。時間と共に、大木といえどもへし折れ戦場の視界が開けてくる。対空の自走高射機関砲まで、投入して兵たちは補充のために後部で走り回る。

 物量での弾幕作戦。


 そんな時。

 部隊の上にぽっと炎が浮かんだ。

 気が付いた数人の兵が居たが連絡する時間もなく一気に広がり部隊を覆う。

 それが落ちてきて、回転を始める。

 最初の一撃で、生身の物は燃えた。

 その後、炎は回転しながらどんどん温度は上がっていく。

 弾薬は、自然燃焼をはじめさらに状況が悪くなる。


 やがて金属表面は赤く焼け細いものは溶け始める。


 やがて、戦場だったものは、地表がガラス状になった奇妙なオブジェの残る場所となった。

 そこから始まった火災と共に、森にいる魔物を共に追い立てながら魔王軍は侵攻を開始する。



 それを見た本部は、ミサイルを撃ち込むが空中で破壊され届かない。

 地球では、表にできなかったミサイルを撃ち込むが細菌だろが毒物だろうが効き目がなく、風向きによっては自国民に被害が出た。

 核や、大気圏外からの超高速ミサイルも試したが、何か強力なシールドで護られた魔王の町には届くことがなかった。


 数年後、ずいぶん数は減り居住部分も限定的だが生き残ってはいた。

 魔王バルバラの庇護のもとで。


 この世界に、転移して来た人間たちはおおむねその形を取り、どこかの魔王に飼われることになる。


 唯一、日本から転移してきた者たちが集まり造られた、魔法と科学の融合した新たな街の中。ネオ東京から、努力の末に新たなる魔王が誕生する。それはまた別の物語。

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