第30話 救出

 準備ができたようなので、車に乗り込み出発する。

 目的地は見えているのだが、民衆たちをどけながらなので時間がかかる。


 当然、相手も簡単には迎え入れてくれないだろうと身構えていた。

 だが、動きが無い?

「来ないなぁ?」

「そうですね。最初の勢いなら、兵士たちが押し寄せてくるイメージで私も怖かったんですが」

 柴田3曹も運転しながら、時折領主の館をチラ見している。


 領主の館でも、周囲に城壁があり堀が刻んであった。だが跳ね橋は上がっておらず兵も姿が見えない。


「この橋木造だ、やばそうかな?」

「そうですね。橋自体は大丈夫だとは思いますけれど、敵襲の時に簡単に落とせる構造だと思います。あそこの橋を吊ってあるロープが、耐えられませんよね」

 そう言って、城壁から伸びているロープを指をさす。


「そうだな、結構太いが冒険することもないだろう。降りて行こう」

 橋の両側に、2台の高機動車のタイヤを一本ずつかけて、橋が上がらないようにする。


 俺と、腰の引けている佐々木さん。

 ここの領主の娘アドリアさんとフィオリーナ。

 当然家宰のアルチバルドは、お嬢様の行くところにはついて行くから良いとして、魔王の側近だと理由をつけて傍を離れないシャジャラ。

 こいつは俺のことを、餌だと思っているに違いない。



 銃を持った、自衛隊の隊員2人が護衛としてついて来る。

 1等陸曹で42歳の杉田さんと2等陸曹の35歳小山さん。


 総勢8人が橋を渡っていく。

 道案内は、アドリアさんができるので問題ない。


 何の抵抗もなしに、正面の扉を入る。

〔アドリアさん。あの状態なら、ご両親とかが捕まっているだろう。先に牢屋とかがあるのならそちらへ先に行こう〕

〔あっ確かに。ですが、部屋に幽閉ではなく牢屋へでしょうか? それはあまりにも無慈悲な〕

〔いや、罪人としての扱いだろう。多分ね。逃げられれば、今度は家宰本人の首が危なくなるしその辺りは必至だろう〕


 俺がそう言うと、少し考えていたが、

〔こちらです〕

 そう言って、外へ出る。


〔一般の犯罪者用の牢は町の外れですが、こちらに他国のスパイや貴族用の重要人物専用牢があります〕


 石造りの重厚な建物がポコッとあるが大きくはない。

 分厚い板で作られた結構大きな扉を開けて中へと入る。


 石の階段が、地下へと続いておりかなり暗い。


 皆を外へ残し、俺とアドリアさん、シャジャラを連れて中へと入る。

 光の玉を、魔法で作りそこら辺りに浮かべていく。


 中はかなり湿気が強い。それに、糞尿の匂いが立ち込めている。

「浄化」


 中に向けて魔法を使う。

 一瞬で、なんだか少し明るくなり、匂いも消えた。


 一段が20cmほどの階段を20段ほども降りただろう。

 両側に3部屋ずつ、木製のがっしりした格子枠がはめ込まれた部屋が並んでいる。


 周りに、光を浮かべながら見ていくと、手前から親父さん、次が奥さんだろう、その後が、アドリアの弟ルードルフだろう。


 手や足に錠がつけられぐったりとしている。

 特に母親の状態は、人物判断のためとはいえ、アドリアさんを連れてきたのは失敗だったと思える状態だった。

 家宰のルイトポルトの所業か誰か兵の仕業か、テーブルよりちょっと低い木の台に仰向けで固定されていた。

 鞭の跡や拷問の跡。

 状態を見てしまい。涙を浮かべるアドリアさんを、左手でそっと抱きしめながら魔法で一気に浄化と治療を行う。

 拘束を取り、アドリアさんに下着から洋服一式を収納庫から取り出して渡す。


 その間に、父親や弟さんも治療を行い、飲み物と食べ物を与える。

 だが、二人とも奥さんの状況を当然知っているのだろう、そちら側を見ようとはしなかった。


 やがて、すすり泣きが収まり、牢からアドリアさんに連れられ、母親メラニーさんが出てきた。治療が効いたのかきちんと自分で立って歩いている。


〔私は、諏訪真司だ。縁があって、フィオリーナ・ペルディーダに力を貸している。その一環として、アドリアさんに案内されてシエルキープへやって来た。ここまでは良いか?〕

 そう聞くと、お母さんはさすがに分かっていただろうが、父親と弟は改めて見て、ジーンズをはいて薄手のニットトップスにジャケットを羽織っているのが、自分の娘だと気が付いたようだ。


 いや、お母さんも隣を見てびっくりしているな。

 ああ髪型と化粧のせいか?

 最近皆一生懸命、『はやり』とか『一押し』とか『これで決まり』とか言い合って勉強をしていたものなあ。

 するのは良いけど、皆俺に見せに来て感想を求めるんだよ。

 そんなに褒める語彙(ごい)を持っていないんだよ。

 29年生きてきて、あんなにファッションをほめるために、勉強したのは初めてだ。


 みんなは、言葉じゃないよ。とか、似合わないなら似合わないと言ってね。と言われて、素直に言うとすごく機嫌が悪くなる。

 いまいちの時には、そっちを合わせてみれば、もっと良いかも。とか、こっちの色の方が軽い感じとか、落ち着いた感じとか、そういう言葉を入れないと許されない様だ。



 ああまあ、そんな話はさておき、牢屋内の状況。

〔〔〔アドリアなのか?〕〕〕

 みんな分かっていなかったのか。


〔ええ。大変だったようだけれど、主様。真司様にお任せすれば大丈夫よ〕

 そう言って、天使のようなほほえみを浮かべるアドリア。

 勝手にハードルを上げるなよ。


〔まあ、アドリアのこともあるし、あなた方には領主に戻っていただきます。代わりに家宰ルイトポルトに責任を取らせましょう〕

 俺がそう言うと、家族の目に憎しみの炎が灯った。


〔あいつは許さない!〕

 そう決意を決めて、階段を上がっていく。

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