第35話 準備とドタバタ

 話を聞いた俺たちは、帰って来ているはずの兵たちを抑えに行った。


 ハルトヴィン・パトリツィオ伯爵と、息子たちをホイストでぶら下げて、軍の目の前にぶら下げる。


〔諸君、この愚か者3人は売国奴だ。国をセトプレコウグニアス共和国に売ろうとした。それを知りつつ今回の攻撃に参加したものはいるか?〕

 そんなことを言われても、誰一人手など上げるわけもない。


〔ならば、武装を解き、領都へ帰れ。今暫定としてロランド・アンブロジーニが代官として治めている。協力しろ。今回の件、これから王都に行き判断を仰いでくる。そのわずかの間に何かあれば、この魔王諏訪が町ごと滅ぼす。いいな〕


 そう言い残して、ヘリで日本側へ帰る。

 佐々木さんは、上に報告を上げて、王都に行くのであれば正式なチームを連れて行く。

 その為、準備が少しほしいとなった。


 パトリツィオは重要参考人であるため、無理を言って警察に預かってもらった。

 まあよほどのことが無い限り反抗はできない。

 お姉さまを慕っているからな。


 家に帰ると、まこととテレーザが仲良く出迎えてくれて両側から抱き着いて来た。

 思わず、二人の頭をなでながら、「ただいま」と言う。


 まことは、そのまま、でへとだらしない顔になったが、テレーザは離れて一歩下がり「おかえりなさいませ、主様」そう言ってお辞儀をする。


 それを見て、まことは焦ったようだが、俺は「気にしなくていい」そう言って左手で肩を抱いたまま中へ入る。


「色々あって、1週間後。シウダー王国の王都へ行く」

 皆にそう報告をする。


 ちなみにメイドの二人は、家に残るかと思ったが、二人とも口をそろえて、

「今更あの環境で暮らすのは無理。こんな体にした、主様。責任を取ってください」

 そんなことを、親の前で宣言しやがった。


 俺は手を出していない。

 彼女たちが言っているこんな体にした犯人は、給湯付きのシャワーと湯舟。

 それと水洗トイレ。食べ物。洋服。などなど。

 決して、俺のせいではない。


 実家へ戻り、無事が確認できた瞬間。

 みんなが、臭いと言い放った。

 それは領主の館でも同じ。


 現在、目の前のペルディーダでは、急ピッチで上下水道の設置工事が行われている。

 外出禁止が解かれて、人々が出て来始めると臭いと町に苦情が来た。


 その為、苦肉の策として、物理的には目の前にある町だが、ODAが実行された。

 まあ今まで、日本は国境が海の上だから実感はないが、海外ならあるあるだろう。


 一応境には柵が作られて、一般の日本人立ち入り禁止の看板が立っている。

 その脇に、シウダー王国においては、密入国は裁判なしの縛り首と注記も書かれている。一度、動画配信者がライブで入り込み、まじめに吊るされる直前。足が浮くか浮かないくらいで、自衛隊と役人が乱入して、向こうに謝り救出すると言う動画が配信された。その3時間強の配信は一気に拡散され、ちょっと位大丈夫だろうと言うやつはさすがに出てこなくなった。


 いや、当然茶番だよ。

 工事の為にもバンバン日本人が入っているんだもの。

 侵入をして、捕まり連絡が来るまで30分。

 その間に、侵入者は日本の警察と違い剣で脅され、後ろ手に縄を掛けられて転がされる。

 目の前で、自分が吊るされる台が組み立てられる。

 ああ、あれが組みあがれば、俺は死ぬんだという恐怖が、どんどん心の中で積みあがって来る。

 ちょっと目立ちたかっただけなのに。

 そんな思いが、心を支配してくる。


 やがて引きずられて、首に縄が掛けられ引き上げられていく。

 苦しくなり、手足を縛られているが必死で立ち上がり、どんどん引き上げられていく。

 涙が流れ、まともに見えないが、目の前の見物人は、何かのショーでも見ている感じでワイワイと見学をしている。

 

 いよいよ、つま先で立ちもうこれ以上は、と言う所で日本語が聞こえて縄が緩み倒れこむ。


 そうして彼は、日本の警察官に引き渡されて連れていかれる。


 不思議なのは、捕まってライブ中のカメラが、被疑者の頭から外されたのは分かる。

 だがそこからも、取り調べの様子や準備の様子。

 現場の雰囲気が、ずっと撮影をされていたこと。


 その映像にはパトロールカーに乗せられ、安堵した表情でペルディーダの町中を覗いている彼の顔が、まずアップで映され、画が引き始めパトロールカーの姿がフレームに入ると、発進してからの流し撮りで再び被疑者の顔のアップ。そしてパトロールカーの後ろ姿と、復興を開始した町へと、パトロールカーが消えていくところ。そこから一気に引きになり街の景色が数秒映され、そして、終了。


 まあ気が付き騒ぐ人はいるが、近くてもそこは他国。

 他国への侵入と言うことに対し、多少は啓発が行えたようだ。


 そのころ日本の国会でも、この大陸の状況が少しわかり、もめているようだ。

 強硬派とハト派が言い争いを行う。

「もともとの日本国内に他国が土地を持って入ってきただけだ、防衛して日本の土地を守れ」

「それは詭弁。事故により転移をしてきたが、立派な国家がある。それに足を踏み入れればそれは侵略行為だろう。話し合いを行い、条約なりなんなり締結をすればよいだろう」

「いや実際。あれにより、海が。……我が国が有していた広大な海が無くなったんだ。重大な損失ではないか」

「その代わり、日本海が広がっている。そちら側があるから、大きくは損をしていない」

 実際行き場のなくなった海流は、広くなった日本海でぶつかるようになった。

 数年後には、立派な漁場となっていく。


「あそこは魔王がいる。手出しは……」

「…………」

 

 もうね。いつもの状態……。

 誰かがこそっという。

 こんなことをしていると、日本は魔王に食われるぞ。

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