第36話 シウダー王国 王都 その1

 準備をして、もう面倒だと言うことでヘリで向かう。

 やかましいが、車も積み込み今回は3機。


 事前に話を聞くと、王都の騎馬場はかなり広いようだ。

 とはいっても、手前で一度降りる。

 テレーザが俺について行くと言ったら、ぎゃあぎゃあ言って強引に付いて来たカリストに、仕事として先触れを役目として与える。

 まあ冷たい目をした、フィオリーナの命令だが。


 王都は、海とかなり広い平野を持つ。

 いくつかの川が、北の山脈から流れてきており、農業も盛ん。

 後に大雨の時に氾濫して、壊滅的ダメージを負うことがあると聞くことになる。


 周りの城郭も時代と共に拡張して、今5層目を建築中のようだ。

 今回は、日本も本腰を入れて、大臣を含め外務省の人間も3人来ている。

 専制国家だからトップが良いよと言えば、それで話は決まる。

 だらだらと決定を待たなくていいため、俺たちや、フィオリーナの手を借りてすでに条約用の調印書も作成をしてきている。


 その時、シャジャラが切れて、やっていられるかと、その場にいた事務方に魔法をばらまいた。

 そう、例の言語転送魔法。

 キスなど、全く必要がなかった。

 当然ながら、この時点で通訳さんが多数できた。

 そう、まさに俺の希少価値が下がった瞬間である。


 俺は、満足した顔のシャジャラを問い詰める。

「どうしてキスが必要だと、うそをついたんだ」と。

 すると、赤い顔をして、

「私が望んだのです。周りに恐れられ一人でいるのは寂しゅうございました。あなた様が現れて……やっと現れた私を満足させてくれる唯一のお方。懸想をし、あなた様に触れたいと、その一心でございます。奥方様たちは、主がそう言う行為を望まれることもあるかとの練習でございます。見たいと言われれば、目の前で疑似NTR…… もがっ」

 当然のことのようにつらつらと、とんでもないことを言いだす、シャジャラの口を手でふさぐ。


 どうも、基本的な倫理観とか、そんなのが違うんだよな。

 まあそんなこんなで、出発した。



 ぼーっと景色を眺めながら、カリストが戻って来るのを、待っている。

 目の前に広がる、緑豊かな畑。


「これは麦ですな。品種は分からんが、まるで写真で見たアメリカの農場の様です」

 そう言って、隣でのんびりしているのは外務大臣、佐藤大助さん。

 同姓同名が多いのがうれしい。

 四囲(しい)に紛れても、目立たないと言って笑っていた。


 すでに魔王国。今現在は急に正式名称が必要と言われて、諏訪の国となっているが、2国の調印式をした時に会っている。


 今俺は、日本国籍を持った王様と言う訳の分からない状態。


「日本から依頼をして、作付けしてもらえば十分食えそうですね」

 そう言って、目の前の景色を堪能する。

「まあこの景色を守るためにも話をまとめて、共和国からのちょっかいを防がないとだめですね。有事の際、自衛隊は出られますか?」

「いやその辺りは話し次第だが、どうでしょうな? 国境ができたことで意識が変わってくれれば」

「先日のビデオの影響は?」

「ああ反響はあったようです。ただ、シウダー王国には申し訳ないことに、多少未開のイメージができてしまいました」

「それは、何とか払拭しましょう」

 大臣は、右の眉をピクリと上げて俺の顔を見る。

「諏訪さんはシウダー王国も統合するおつもりですか?」

「どうでしょう? もともとフィオリーナには、貴族の跡目を継げと言われていますから王様の判断次第ですかね」


 そんなことを言って、お茶を飲んだりまったりとしていると、カリストではなく騎兵が20基ほどやって来る。


「お前たちが日本国とかいう蛮族の国か?」

 なんだ、

「先触れのうちの者はどうした?」


「こんなものを持って来たって、どこの誰ともわからんものを取り次ぐわけはないだろうが」

 そう言って騎士は、ペイっと親書を投げ捨てる。


 しかしこいつら、態度がでかいが、あの大きなチヌークCH-47Jを見て何と思わないのか? ああそうか、あれが何か理解できないのか。

 人間だから、あくまでも判断できるのは自分の知識と経験から来るもののみ。

 未知の物は理解ができない。


 だよな?


 騎士たちに向かい俺は声をかける。

「おい。聞いていいか?」

「何だと貴様。誰にそんな口をきいておる」

「知らん。俺もこう見えて1国の王だ。他国の1兵なんぞ知るわけもない」

「王だとふざけるな。どこかの盗賊の頭でもしているのか? 珍妙な格好をして」

 

 それを聞き、一歩前に出ようとしたシャジャラを、腕を伸ばして制止する。

 ちょっとぐにょっとした感触と、「あんっ、主様」と言う声が聞こえるが無視だ。


「さっきお前が言った言葉は、シウダー王国アルチバルド・スサテラ・シウダーの言葉なんだな」

「なっ。きさま王の事を呼び捨てるとは」

「やかましい」

 威圧を掛けながら、もう一度聞く。

「先ほど言った、どこの誰ともわからんものとは会わんと言って、他国の使者を取り次がんのはシウダーの総意なんだな」

「いっいや、王の意志と言う訳ではない。取り次ぐか取り次がないかは我ら騎士団の役目」

 震えながら、そう言葉を紡ぐ騎士の横から声がかかる。


「いつから騎士団は、そんなお役目を果たすようになったのです?」

 騎士はプルプル震えながら、声のした方を向く。

「何だ貴様。女の分際で」

「女ですが、オルフェーオ・ペルディーダ伯爵の娘フィオリーナと申します。お見知りおきを」

 そう言う、フィオリーナの恰好は薄ピンクのワンピースにつば広の白い帽子をかぶっった格好。

 地面が悪いため、ローヒールのパンプスだが。


 どちらにしろ、こちら側の恰好で、シウダー王国の時とはまるで違う。

 だが、その後ろから、アンドベリーの町を治めるラファエーレ・アンブロジーニ男爵も姿を見せる。男爵はシウダー王国の標準的恰好。

「私も聞いていませんな」

「あなたは?」

「これは失礼。アンドベリーの町を治めるラファエーレ・アンブロジーニ男爵」

 そう言うと、騎士たちは馬から降りる。


「失礼いたしました。アンブロジーニ男爵」

「それで、私たちが連名で出した親書がなぜ、そんなところへ打ち捨てられているのかね?」

 そう言って、地面の親書を指さす。

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